68 エピローグにはならない
モーリッツくんとのひと悶着はあったものの、レオくんの生誕祭は無事閉幕した。
アロイスさんとレオくんの意向で、生誕祭は「魔法の平和的な使い方をお披露目する場」でもあったので、参加者たちは「生演奏に合わせて踊る噴水」もしっかり楽しんで帰ってくれた。
ちなみに泣いてしまったモーリッツくんには、土魔法使いさん&風魔法使いさん合作の「手拍子に反応して踊るミニミニゴーレム」をプレゼントして、機嫌をとっている。
「そんなことをする必要はない。むしろ公国に抗議してもいいくらいだ」とアロイスさんには言われたけど、異世界モノではよくあるじゃん、「小さい頃の劣等感をずっと持ち続けて、軍隊を整えて攻め込んでくる敵国の王子」みたいなエピソードが。それに彼もまだ子ども。せっかく外国に来て、嫌な思い出だけで帰ってほしくもない。
「モーリッツくんではなく、彼の後ろで楽しんでいた大人たちにお灸をすえたほうがいいかと」
「…ふむ。指示しておこう」
そんなこんなで、ほっと息をついてレオくんを「お疲れ様」と抱きしめたら、ここからはリラックスしたプライベートなお祝い。
参加者は主役のレオくん、アロイスさん、私、テオくん、クリスタちゃんだ。
うずうずと座ったレオくんの前に大きなお皿を運び、そうっとカバーを外す。
「僕の誕生日にもケーキが欲しい」とレオくんに頼まれて、「望めば何でも手に入る王太子の願いが手作りケーキだなんて、腕によりをかけて作るしかない」と全力投球したケーキ。
どうかしら。
「これ、僕…?」
「そうだよ」
そう。これはレオくんの似顔絵を描いたケーキ。おそらくレイデンバーン初の似顔絵ケーキだ。テオくんがクリームを伸ばし、クリスタちゃんがいちごを飾り、私が絵を描いた。パティシエのパウロスさんに「チョコが出てくるペンって作れます?」とお願いするところから始めて完成させた自信作。
「こんなケーキ、初めて」
レオくんの目がきらっきらしてくる。ねえ、子どもって嬉しいとなんでこんなに目が輝くの。これを見られただけでも、価値がある。
ケーキに七本のろうそくを刺すと、レオくんは願いをかけてから、火を吹き消した。ろうそくから立ち昇る煙に、「彼の願いが叶いますように」と願う。「了解」と言うように、煙がそっと揺らいだ。
「顔を切るのは可哀そう」「でもどうせ食べるんだから」と、似顔絵ケーキにお決まりのくだりをこなして、人数分にケーキを分ける。
「レオのほっぺはチョコの味だぁ」
「美味しいね」
そこへ「サティ様、届きました」と、マグダレーナ先生がきれいな箱を手渡してくれた。
「わ、間に合ったんですね!ありがとうございます」
「お礼なら、ベルントのカウンティタウンからカウベルフェルトまで走ってくださったベルント伯爵令息に」
会ったこともない義理のお兄さんに、私は心の中で激しく感謝した。「カウベルフェルトで買いたい物がある」という私のお願いを、自ら叶えてくれるなんて。きっとベルント伯爵に似て、情が深い人なんだろう。
「サティ、それは…?」
「実はもうひとつ、レオくんへのプレゼントがあるの。どうぞ開けてみて」
レオくんは「なんだろう?」とそうっとリボンを外す。テオくんとクリスタちゃんも「何を用意したんだ?」って顔。
そして誰より、贈った私がわくわくしている。「喜んでくれるかな」って。プレゼントって、贈られる側より贈る側が幸せになれる説。
「これ…」
中には、カウベルフェルトで売られている食玩。
小屋にいたときから、レオくんだけ仲間外れみたいでずっと気になっていたのだ。「買ってあげたいな」と思いつつ、屋台のお兄さんがいつ行ってもいなくて買えなくて、結局今になってしまった。
自己満かもしれないけど、どうしても彼にもお揃いを持っててほしかった。私がバレッタ、クリスタちゃんが指輪、テオくんがブレスレット、そしてレオくんにはネックレスを。
「お揃いだよ」
レオくんの目に涙が溢れてくる。
「え…!?」
やばい、失敗したか。そりゃ子どもとは言え一国の王太子だもん。中身より箱のほうが高いプレゼントなんて、嫌だったか。
「ご、ごめん…嫌だった…?」
「ううん、嬉しい…ずっと…みんなとお揃いになりたかった。ありがとう、サティ」
レオくんはそっと涙を拭って、「そうなら早く言えばよかったのに」とクリスタちゃんが声をかける。そうだね。これからはどうか、ささやかな願いを我慢しないで口に出してほしい。
私は「えいやもお揃いにするね」と、ネックレスに触れてえいやした。彼が悪意のある魔法から守られますように。
レオくんのうしろに回ってネックレスをつけてあげる。上質で上品な服に、まったくもって似合わないおもちゃのネックレス。だけどレオくんは、ネックレスを嬉しそうに触った。
「ありがとう、サティ」
「喜んでもらえてよかった」
五人でおしゃべりしながら囲むケーキ。ふわふわのスポンジに、ちょっとよれたクリーム。
ネックレスを見つめるレオくん。口の周りにクリームをつけているクリスタちゃん。アロイスさんとテオくんは「魔法噴水が好評だったから、季節に合わせて魔法のイベントを開催して、観光客を呼んだらどうか」なんて相談している。
全員が楽しそうで、どこからどう見ても幸せな光景。
それはまるで、「血のつながりのない家族だけど、みんな一緒に、いつまでも幸せに暮らしました」って説明がぴったりの、ファンタジー小説のエピローグ。
だけど胸に小さなひっかかりがある。
そのひっかかりの原因、アロイスさんと目が合う。「あの…」と口を開こうとしたら、「あとで」と制止された。
「今はこの時間を楽しませてくれ。とても幸せだから」




