61 パジャマパーティー
女子的お泊り会の目玉イベントと言えば、やはりパジャマパーティーに敵うものはないでしょう。異論は認めない。
クリスタちゃんの部屋に、この日のために用意した「明かりをつけるときれいな柄が周りに散るライト」をふんだんに配置し、花瓶に花を生け、部屋をデコレーション。お揃いの夢かわいいパジャマとヘアバンドも用意した。
パウロスさんと風魔法使いさん&水魔法使いの試行錯誤によって無事爆誕したアイスクリームは、小さなかまくらの中で保冷してある。
「完の璧。いや、完な璧です」
「いつロゼマリアが来ても大丈夫だね!」
タイミングよく、コンコンとノックの音がする。
「サティ様、クリスタ様、失礼いたします」
「いらっしゃい、ロゼマリアちゃん」
「パジャマパーティーのはじまりはじまりぃ!」
「パジャマパーティーとは何ですの?」という戸惑うロゼマリアちゃんを、高速で私たちとお揃いのパジャマに着替えさせる。はい、超絶可愛い。
「パジャマパーティーっていうのはね、可愛いパジャマを着て、美味しいお菓子を食べながらおしゃべりするパーティーのことだよ」
テンションの上がったクリスタちゃんがベッドにダイブし、私もポンとベッドに倒れ込む。二人でロゼマリアちゃんを見て、「おいで」と腕を広げると、彼女はおずおずとベッドに近づいた。
「行儀が悪い」という気持ちと、「やってみたい」という気持ちが、ロゼマリアちゃんの心の中でせめぎ合っているのがわかる。
「お父様やお母様には…」
「内緒」と声をかけると、ロゼマリアちゃんは一瞬考えてから、ぴょんとベッドに飛び乗った。そして本当に嬉しそうに、「こんなことをしたのは初めて」と笑う。
たった何センチのジャンプ。だけど今彼女が飛び越えたのは、ベッドの縁だけじゃないと思う。「自分の常識」の境界線を越えたんだ。
すっごく小さいことだよ?でも、大事なことだと思う。
「さ、アイスを食べながらおしゃべりタイム!味はバニラといちごとチョコがあるんだよ、何がいい?」
「クリスタはチョコ!」
だと思った。
「ロゼマリアちゃんは?」
「いちごをいただきますわ」
「了解」
「ねえ、ロゼマリアは花だと何が好き?」とクリスタちゃんが聞いた。
「お花でしたら薔薇が好きですわ」
うん、ぽいぽい。
「そうなんだ。クリスタはエーデルワイスっていう花が好きなの。あとりんごの花も可愛いんだよ」
「エーデルワイスというお花は、聞いたことがございませんわ」
「エルドルフにはいっぱい生えてるよ。レオがよく、エーデルワイスを摘んでクリスタにくれたの」
ぴたっとロゼマリアちゃんが動きを止める。
「殿下が、クリスタ様にお花を…?」
「うん。よく髪に飾りっこしたの。エーデルワイスは白い花でね…」
ロゼマリアちゃんの顔色が変わっていく。
《男の子が女の子に花をあげるんだよ、好きな女の子に》
《そうなの?じゃあレオがクリスタを好きなら、花をちょうだい》
いつかレオくんとクリスタちゃんはそんな会話をしていた。「だとしたらこれはマウントになるぞ。まずい」と思ったけど、私が言い訳するより早く、ロゼマリアちゃんはベッドから降りてアイスをことんとテーブルに置いた。
そしてきちんとした姿勢でお辞儀をする。
「大変申し訳ございませんが、体調が優れませんため、本日はこれにて失礼いたします」
「待って、ロゼマリアちゃん!今のは…!!」
「サティ様、お気遣いいただかなくてもけっこうです。すべてわかりましたから」
ロゼマリアちゃんの声がちょっと震えて、目が潤んでる。彼女はくるっと踵を返して、いい姿勢で部屋を出て行った。
「ロゼマリア、どうしたのかな?」
クリスタちゃんには、まるで悪気はない。ただ過去の事実を述べただけだ。だけどそれが相手にどんな感情をもたらすか、そろそろ彼女も学んでいく段階なのかもしれない。
私は言葉を砕いて説明した。
ロゼマリアちゃんはレオくんのことが好きだってこと。そこへクリスタちゃんが、そんな気はなくても「レオくんは自分のことが好きだった」と思わせるようなことを言ってしまったってこと。
「例えば、アウレリアちゃんやエステルちゃんが、クリスタちゃんに”私もユリウス様からたくさん虫やお手紙をいただいたことがありますわ”って言うようなものかな」
「…嫌な気持ちになる」
「だよね」
クリスタちゃんは事態を飲み込んだ。
「謝りに行きたい」
「うん、一緒に行こう」
けれどロゼマリアちゃんの部屋のドアをノックしても、彼女は出てこない。「明日にしよっか」と顔を見合わせたとき、「どうしたの?」と声がした。
レオくんだ。さっきまでイーゼルに載っていたキャンバスを抱えている。
隠しても仕方ない。私たちはレオくんに事情を説明した。
するとレオくんは「僕のせいでもあるよね」と呟いた。
「どういうこと?」
「僕がちゃんとロゼマリアに伝えてなかったから、不安になっちゃったんだと思う」
そう言って、レオくんはドアを優しくノックする。
「ロゼマリア、僕だよ。開けてくれないか。渡したいものがあるんだ」




