60 どっきどきお泊り会
「ロゼマリアちゃんが王城にお泊りを…?」
「さようでございます」
私はぱあっと顔を明るくした。王城のスタッフさんたちがレオくんの部屋の隣にある大きな部屋を熱心に手入れしているなと思ったら、「王太子妃に内定したロゼマリアちゃんが、王城に慣れるため何日か泊まりに来るから」だったのだ。
「お泊り保育ってことですか…!?」
「お泊り保育…とは何でしょうか、サティ様」
お泊り保育とは、子どもたちが幼稚園や保育園にお泊りをするビッグイベントである。
人手不足やトラブル防止の観点から廃止する園も多くて、私が就職した園も数年前にお泊り保育を廃止したと聞いて、残念だったものだ。
だって「家族と離れて外泊する」という経験は、子どもにとって大きな自信になる。それに「いつも昼間にしか会わないお友達と、夜まで一緒に過ごす」というのは、スペシャルな経験だから。
何より、寝間着姿でくすくす笑いながら寄り添っておしゃべりしている子どもたちは、どこをどう想像しても可愛すぎるのである。
私がうずうず説明するのを見て、マグダレーナ先生は何かを察して、ピタッと右手で私を制した。「NO」と。
「サティ様、王城にお呼びするのは王太子妃となるロゼマリア嬢のみです。警備の都合がございますので」
「そこを何とか…」
「だめです」
「ちぇ」
仕方ない。
だけどロゼマリアちゃんに楽しんでもらうためのイベントを考える楽しみはできた。「手持ち花火ってつくれないかな」とか「宝探しゲームとかスタンプラリーってベタすぎ?」とか「厨房で簡単な調理をしてもらう?」とか。
ロゼマリアちゃんが止まりに来るまで一週間だから、急いで準備しないと。
ーーー
そしてお泊り会当日の夕方。私は心配そうな顔のシルヴァーナ公爵夫人から、ロゼマリアちゃんをお預かりする。
「ロゼマリア、失礼のないように」
「はい、お母様」
「ふふ、ロゼマリアちゃん、緊張しなくても大丈夫だよ」
まずは夕食をみんなで囲む。
ロゼマリアちゃんは「いただきます」の挨拶に戸惑ったあとで素早く適応し、最近「王城の料理人をやめて、王都でキッズフレンドリーなレストランをやったほうが稼げるかな」なんて言い出したヨハンさんがつくる料理に舌鼓を打つ。今日はレオくんが大好きな「卵焼き」が、王城風にトマトクリームソースでおしゃれしているのだ。
「ロゼマリア嬢、料理の味はどうかな」と、忙しい合間を縫って食卓に参加しているアロイスさんが舅の顔で聞いた。
「このような料理は初めて食べました。とても食べやすくて、美味しいですわ」
レオくんが嬉しそうに同調する。
「そうだよね。僕もヨハンの料理なら、いくらでも食べられるんだ」
今の言葉をヨハンさんに伝えたら、「やっぱり未来永劫ここで働く」と言うだろう。私はそう想像してふふっと笑う。アロイスさんと目が合って、余韻のまま微笑みかけたら、ふいっと赤い顔を逸らされた。なに?まあいいけど。
プリンの美味しさに目を丸くしているロゼマリアちゃんに、「実は簡単だから、明日厨房で作ってみる?」と提案する。
「やってみたいです!けれど…」
ああ、「貴族厨房に入らず」的な?
大丈夫。公爵や夫人には、事前に「レオくんやクリスタちゃんと同じように過ごしてもらうつもりなので、シルヴァーナ公爵家とは過ごし方が違うかもしれない」と伝えてある。「普通がいろいろある」ってことを学ぶのも、お泊りの意義だからね。
「公爵夫人からはOKをもらってるよ」
「…!ではぜひ」
「僕もやりたい」「クリスタも」とレオくんとクリスタちゃんが手を挙げ、明日のアクティビティは決定。
「ところで王太子殿下は、夜はいつもどのように過ごされているのですか?」
「叔父上にアトリエをつくってもらったから、絵を描くことが多いよ。ルカスは静物画が好きだけど、僕は風景画が好きなんだ。あと最近は人物画も描くようになったよ」
「差し支えなければ、絵を描いておられるところを拝見しても?」
「うん。あとでアトリエに連れて行ってあげる」
「クリスタ、いいこと考えた!」とクリスタちゃんがプリンを飲み込んで手を挙げる。
「ロゼマリアがレオの絵のモデルになるのはどう?」
レオくんとロゼマリアちゃんはちょっと顔を赤くして、私はにやにやする。
「いいアイデアだねぇ」
「でもあの、夜は光が…」
「テオに照らしてもらえばいいから!」
「俺を便利な照明扱いするな」
「はい、食べたらアトリエ行くよっ!」
アトリエに着いたらテオくんはぶつくさいいながらレオくんのリクエスト通りに照明をつけてくれて、レオくんは照れながらロゼマリアちゃんを椅子に座らせて、腕の角度を調整。そしてまだ照れながら輪郭を取り始めた。
だけどその表情はすぐに真剣さを増していく。いつもふんわり優しいレオくんが見せてくれる、鬼気迫るほどの真剣な表情。
これはもう、惚れます。ギャップ王子なのよ、うちの王子は。
ロゼマリアちゃんの頬がほんのり赤いのを見て、私はクリスタちゃんの手を引っ張り、テオくんに「行くよ」と目で合図し、アトリエをあとにした。
「サティ、なんでクリスタたちはお部屋に帰るの?」
「へへ、あとは若いお二人で…じゃなくて、私とクリスタちゃんは男子禁制パジャマパーティーの準備をしないとなの」




