6 異世界の子どもも可愛いです
「ね、私と一緒に暮らさない?ここからちょっと遠いけど、家においでよ」
「ふざけんなよ。俺たちと一緒にいたら、ババアまでロクなことにならねぇよ。魔力持ちってだけでひどい扱いを受けるし、家族まで村で厄介者扱いされる。だから家族だって俺たちを捨てた。ババアだって…」
ババアババアって言われるたび皺が増えるけど、本心では私のことを心配して気遣ってくれてるんだね。それに二人がどれだけ辛い思いをしてきたか、今の言葉だけでわかる。だったらやっぱり、ここに置いていくわけにはいかない。子どもには、衣食住が整って安心して暮らせる環境が絶対的に必要。それに遊びも学びも。ここにいたら、何もないもの。
「今見たでしょ?私にはクリスタちゃんの闇の魔法は効かないみたいだよ。だったら、私以上にあなたたちを引き取るのに適してる大人はいないってことじゃない?」
確証はないけど、もしかしたらそれが私のチートなのかもしれない。魔法が効かないとか、もしかしたら不死身なのかも?
テオくんはクリスタちゃんをちらっと見る。私はクリスタちゃんを手招きした。クリスタちゃんはおずおずと寄ってくる。私はクリスタちゃんと怖がらせないように、「おてて触るね」と言ってから、ゆっくりと彼女の手をとる。
「お姉ちゃん、さっきの…怒らないの?」
「怒らないよ。テオくんを守りたくて必死だったんだもんね」
コクンと頷くクリスタちゃんはたまらん可愛い。それにババアじゃなくお姉ちゃんって呼んでくれるだけで、いい子だと思っちゃう。テオくんを説得するより、クリスタちゃんを懐柔するほうが早いかな。
「クリスタちゃん、テオくんと一緒にうちに来ない?りんごは食べきれないほどいっぱいあるし、料理もお姉ちゃんがつくってあげるから、温かいものが食べられるよ。ベッドもあるしお風呂もあるし…おもちゃも作ってあげる。ブロックとかぬいぐるみとか」
「どうかな?」と聞いたら、クリスタちゃんのピンクパープルの瞳がキラキラと輝き始めた。ねえ、なんで子どもって感情がたかぶるとこんなに目がキラキラするの?いつ見ても可愛すぎるのだが。
「お姉ちゃんの家に行きたい」
はい、いただきました。私はニヤッと笑いながらテオくんを見る。「テオくんはどうする?」と目だけで聞くと、テオくんは「仕方ない」と観念するかのように手のひらを天井に向けた。まったく、素直じゃないな。ちょっとほっとしたの、表情でわかるんだから。
でもなんにせようちに来てくれるんだから、今は万々歳。「ババアじゃなくてサティって呼んでね」という言葉にも、テオくんは渋々頷いた。
「本当に連れて帰るつもりですか?」という心配そうなマリウスさんの言葉に、私はどんと胸を叩く。
「子どもの世話は慣れてるんです。子どもが好きですし」
「でも…子どもと言っても彼らは魔力持ち…」
「魔力持ちがどれほど怖がられているのかわかりませんけど、魔力持ちでも子どもは子どもです。社会の宝だし大切にされるべきだし、子どもらしく安心して楽しく暮らしてほしいんですよ」
「あなたって人は…本当に優しいんですね」
これは、優しさなんだろうか?義務感とか義憤に近いものかもしれないな、とふと思う。どうでもいい。とにかくこの子たちを健やかに育てることが大切だ。さ、待ちぼうけをくらっているおじいちゃんのところに帰ろう。随分待たせちゃった。できるだけ早く歩きたいから…
「クリスタちゃん、おんぶしてあげよっか」
「おんぶ?」
「そう」
しゃがんで「乗って」というと、クリスタちゃんはおずおずと私の背中に乗る。おんぶのされ方を知らないみたい。「私の首に手を回して」というと、ようやくおんぶの形になった。
「わぁ、高い!」
「そうでしょ。行こ」
マリウスさんが後ろで息をのむのが聞こえる。
「こんな人は初めて見た」
子どもを二人も連れて帰って来た私におじいちゃんは目を丸くした。しかもただの子どもじゃなく、この世界で恐れられている魔力持ちの子どもを二人も。
だけどそこは亀の甲より年の劫。おじいちゃんはテオくんに「疲れてるならロバに乗ってもいいぞ」と鷹揚にすすめて、テオくんはおずおずとロバの背に乗った。
「おじいちゃんは魔力持ちが怖くないの?」
「そうさな…罪滅ぼしかな。大切なものを失った今ならわかるんだ。魔力持ちもわしらと同じ人間だって」
「そっか」
もっと聞きたかったけど、おじいちゃんがあまりに寂しそうで悲しそうで、私はそれ以上なにも聞けなかった。ロバの上で、テオくんはおじいちゃんの言葉を神妙な顔で聞いていた。
一方のクリスタちゃんはすでに私の背中で眠りに落ちていて、首筋に穏やかな寝息があたって、くすぐったくて愛おしい。ね、おんぶってあったかくて気持ちいいよね。前の世界で、園児たちを寝かしつけるときに感じた体温と、まったく同じ。おんぶしているほうも気持ちいいんだ。
そうだ、私はやっぱり保育士なんだ。異世界でも。




