53 変わらないよ
ゴーレムの出現は、魔法師団への入団を断られた老齢の魔法使いが腹いせに起こしたことだった。
協調性がなく暴力的な性格を理由に不合格になったのに、「俺の土魔法の能力が高すぎるあまりに、妬まれて落とされた」とテオくんを逆恨みし、魔法師団の詰め所にゴーレムを発生させようとしたらしい。しかし魔力をうまく制御できず、狙った場所ではなく、子どもたちの遊び場にゴーレムが出現してしまったとのこと。
犯人は捕まって牢に入れられ、テオくんは副団長さんとともに事の顛末を私たちに報告しに来た。
悪いのは魔法師団じゃなくて犯人なんだけど、魔法師団に関連して騒ぎが起きてしまったために、テオくんが対応に追われているというわけだ。迅速に沈静化しておかないと、魔法師団が本格的にスタートする前に「やっぱり魔法使いは危ない」なんて言われて、勢いが落ちてしまいかねないから。
「テオドール団長にはきちんと抗議しませんと!」「再発防止策を徹底していただかないと困りますわ!」と息巻いていた貴婦人たちは、魔法師団のローブに身を包んだ凛々しいテオくんが応接室に現れて「ご心配とご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません」と完璧な所作で頭を下げると、「ま♡」と頬を赤らめた。
ねえ皆様、目がハートになってますわよ?
通常運転な女子は、私とクリスタちゃんだけだ。
テオくんは魔法師団に関連して騒ぎが起きてしまったことを謝罪し、「魔法師団の中から王城の警備にあたる団員を選抜し、子どもたちが遊ぶ場所も含めて魔法で保護する」という再発防止策について説明した。
「それなら安心」「またみんなで遊べるわね」と貴婦人たちが目を合わせたとき、ロゼマリアちゃんがすっと手を挙げた。
「ひとつよろしいでしょうか、テオドール団長」
「シルヴァーナ公爵令嬢、どうぞ」
「今回の犯人については、入団面接の時点で暴力性が認められたのですよね?」
「はい」
「問題を起こしそうな魔法使いについては、自力で取り外しができないようなえいや付与済み装具を身につけさせるのも、予防策になるのでは?」
テオくんと副団長さんは「急にそんなことを言われても」というように、顔を見合わせた。彼らからすれば、仲間に「危険人物」のレッテルを貼ることになる。
「おっしゃる通りですが…そうですね、貴重なご意見を十分に検討いたします」
即答してもらえなかったロゼマリアちゃんはちょっと残念そうな顔で「ええ、ご検討をお願いいたします」と引き下がったけど、レオくんが立ち上がった。
「団長、副団長。検討ではなく、すぐ実行してください。魔力暴走と魔力の乱用は、わけが違います。サティとクリスタ、そしてリオネルがいなければ、僕たちは死ぬところだったんですよ。将来国の中心にいるはずの僕たちが」
六歳とは思えないレオくんの威厳。テオくんと副団長さんは目を見開く。もちろん私も貴婦人たちも子どもたちも。
「…はい、殿下。早急に実行いたします」
「下がって結構」
「失礼いたします」
貴婦人たちがほっとした表情で「またお庭で」と応接室を出て行ったあと、私はそっとレオくんに話しかけた。
「レオくん…?」
「なに?」
振り向いたレオくんはレオくんのように見えて、やっぱり違う。ねぇ、君までそんなに急いで大人にならないで。
きっと私は変な顔になっていたのだろう。レオくんは「僕、きつく言い過ぎたかな?それとも偉そうだった?」と悲しそうな顔をした。
「テオ兄上、怒ってるかな?僕のこと嫌いになったかな?」
その顔は私が知っている「心配性なレオくん」に戻っていて、私はようやくほっとする。
「きっと大丈夫だよ」
「ほんと?」
「気になるなら、今日はお昼ご飯にテオくんを呼んで聞いてみよう」
「うん」
でもまだレオくんの表情は硬い。両腕を広げると、レオくんはハグしてくれた。私はそのまま彼を持ち上げて、彼の髪を頬で感じる。
「レオくん、重くなったねぇ」
「そうなの?自分ではわかんない」
重くなった。初めて会ったときよりずっと。
きっともうすぐ、抱っこするのもおんぶするのもしんどくなる。「ぎゅってしよ」って言っても、恥ずかしがってしてくれないかもしれない。
こうできるのは、今だけだ。お互いに。
だから私は、クリスタちゃんが「ねぇ、もうご飯だよ」と呼びに来るまで、彼をぎゅっと抱きしめて、髪を撫でていた。
ーーー
食事の席でレオくんに謝られたテオくんは「謝るのは俺で、レオじゃないだろ。それにえいやで危険な魔法使いの力を封じるのは、いいアイデアだと思う」と答えた。
「ほんと?」
「ああ。王太子殿下の指示だって言えば、反対意見も封じられるから正直助かるよ。魔力を乱用する魔法使いは、仲間じゃないと思ってるから」
レオくんは明らかにほっとする。
「その話がしたくて、俺を呼んだのか?」
「うん。兄上が怒ってるかもって思って」
「テオが本気で怒ったら、顔が真っ赤になるからすぐわかるよ」とクリスタちゃんが笑う。テオくんもふっと優しい笑顔を浮かべた。
「レオの言ってることや言い方がだめだって思ったら、俺はちゃんと言うよ。ちゃんと言って、話し合う。サティに言われて、いつだってそうやってきただろ」
「そうだけど…それって、僕が国王になっても?」
「ああ」
テオくんは腕を伸ばして、レオくんの髪の毛をくしゃっとした。
「心配するな。お前が国王になっても、俺たちは何も変わらない。ずっとテオとレオの兄弟だ」
「うん」
ふおおおおおお…大事なところでお兄ちゃん属性大爆発のテオくん、良き。これからもずっと、レオくんが彼を必要とするときには支えてあげてほしい。
頼れる人なんて、いくらいてもいいですからね。




