43 ママ友会
「サティ様、本日のお召し物はこちらでございます」
マグダレーナ先生とイヴォンさんが部屋に運んでくれたドレスに、私は「わ」と目を丸くした。
いつもは外遊びしやすいように締め付けが少なく、汚れても目立ちにくい色の濃いドレスを着てるけど、今日のドレスは全く違う。
水色を貴重にした、軽やかだけど軽すぎない印象のドレス。嫌味にならない程度に宝石も縫い付けられている。
「高そう…」
「ええ、控えめに申し上げて大変高価です。本日はサティ様風に申しますと”ママ友会”でございますから、貴婦人の前でサティ様のご威光を示す必要がございますので」
そう。今日は貴族の奥様&息子くんたちとのママ友会。
レオくんが王城に帰ってきたことで、彼と同年代の子どもをもつ貴族たちは「我が子を王太子殿下の側近に」あるいは「将来の王妃に」と盛り上がっている。
アロイスさんから「家柄である程度選抜したので、レオの側に置くに足りるかをサティ殿の目でも見てくれ」と頼まれたので、今日は側近候補になっている男の子たちを招き、レオくんと遊んでもらうことにしたのだ。
「威光なんてどう頑張っても出せないんですけど」
「馬子にも衣裳です。サティ様からは出なくても、ドレスから威光が出ます」
「先生、はっきり言いますね」
でも嫌な気はしない。過度に期待されるほうが、気が重い。私が「気を軽くしてくれて、ありがとうございます」とお礼を言うと、先生はほんの少し口角を上げた。
イヴォンさんが私の黒髪を緩やかなシニヨンに結い上げ、仕上げにスターサファイアをあしらった繊細なバレッタを飾ってくれる。そしたら見事、「国王と王太子からの信頼厚い養育係」の完成だ。
「お似合いです」
「…そうですね」
自分でも素直にそう思ってしまうくらい、意外なほどよく似合っている。
「先生が見立ててくださったんですよね?ありがとうございます」
「お礼でしたら陛下に」
「陛下が?」
養育係である私が貴婦人たちから馬鹿にされちゃいけないと思って、アロイスさんが気をつかってくれたんだろう。ありがたい。
「サティ、すっごくきれい」と自己肯定感を高めてくれるレオくんと手を繋いで、花が咲き乱れる庭にしつらえられた、ママ友会の会場へ。
私たちが庭に出ると、すでに集合していた貴婦人&貴族令息たちはすっと立ち上がってお辞儀をした。全員姿勢がよくて、しかもそれが付け焼刃じゃないことがわかる。
こんなナチュラルボーン・ノーブルな人たちに、ナチュラルボーン・庶民な私がどうやって接しろと言うんだ。珍獣が神獣の縄張りに迷い込んだ感がすごいんだが。
思わず身体を硬くしたら、レオくんが手をきゅっと握り直してくれた。私は彼に「ありがと」と笑いかけてすうっと息を吸い、彼女たちに声をかける。
「来てくださってありがとうございます。どうかかしこまらないでください。このお茶会はテストではありません。ただ子どもたちが仲良くなってくれる機会にしたいんです」
決して悪い挨拶じゃなかったと思うけど、「ありがとうございます、サティ様」と、絶対ありがたく思っていない声で答えが返ってくる。貴婦人たちにとって、私は格下も格下なのだから仕方ないけれど。
「養育係のサティ?なんぼのもんじゃい」という心の声が聞こえそう。
俯きそうになった瞬間に、アロイスさんの「養育係はサティ殿の思うとおりにやってくれればいい。責任はサティ殿を任命した私にあるから」という声が蘇って、私は顔を上げた。
そうだよ。私は貴婦人じゃないし、なれもしない。それをわかってて連れてきたのはアロイスさんだ。だったら「ノーブル系ママさん」に怖気づいて、自分を曲げる必要なんてない。
私はパチンと手を合わせ、できるだけ明るい声を出した。そう、保育園の先生らしく。
「というわけなので、子どもたちは自由に遊ばせましょう!」
貴婦人たちは「どういうこと?」と顔を見合わせる。子どもの賢さやマナーをアピールする気満々でやって来たお茶会で、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
「レオくん、みんなに遊具の使い方を教えてあげて」
「わかった」
「危ないことはしちゃだめで、使いたい子が何人かいたら順番だからね」
「わかってるよ。いつもクリスタと順番に使ってるもん」
レオくんがみんなに「遊ぼう」と声をかけると、子どもたちはそれぞれに母親の顔色を伺い、「早く行きなさい」「くれぐれも王太子殿下に失礼のないように」などと促されて、遊び場に出た。
ママ友会のテーブルがしつらえられている隣には、アロイスさんに頼んで作ってもらった遊び場があって、ブランコ、鉄棒、滑り台が完備されている。
「砂場には人生が詰まっている」という園長先生の言葉を思い出し、砂場も設置。「砂場用にカップやスコップがほしい」とお願いしたら銀の道具が出てきたときは驚愕したけど、プラスチックという便利な素材がないから仕方ない。前の世界からプリンのカップとかお弁当箱とか持ってこられたらよかったのに。
子どもたちが遊び始めたのを確認して、私は貴婦人の皆さんとお茶を囲む。
「まずは自己紹介させてください。レオンハルト王太子殿下の養育係としてまいりました、ベルント伯爵家のサティ・キムラ・フォン・ベルントです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、もとはベルント伯爵領のりんご農家です」
「平民風情が」という冷たい視線が、扇子の奥から私を刺す。
ひときわ華やかな貴婦人が、ぱちりと扇子を閉じた。




