19 子どもの優しさには敵わない
次の日の朝、いつも朝食を手伝いに来てくれるおばあちゃんが来なかった。心配になっておじいちゃんおばあちゃんの家を訪ねると、おじいちゃんがドアを開けてくれる。
「ばあさんの具合が悪くてな」
昨日のクリスタちゃんの言葉が蘇って、胸騒ぎがする。クリスタちゃんを呼んでおばあちゃんのベッドルームに通してもらうと、案の定「身体の中に悪いのがいる」ということだった。
「おじいちゃん、このままじゃおばあちゃんが危ない。クリスタちゃんに治療してもらってもいい?」
「お願いするよ」
あっさりとおじいちゃんは許可してくれて、クリスタちゃんは指輪を外し、無数の紫の触手をおばあちゃんの身体に刺す。おじいちゃんが「こりゃたまげた」と言い終わらないうちに、触手たちは満足げにげっぷムーブして、おばあちゃんもすっきりした表情で目を覚ます。
「クリスタが治してくれたのかい、ありがとうねえ。お礼にクリスタの好きな芋のパイを焼こうねぇ」
「わぁい」
おばあちゃんは起き出していきなり芋パイを作ろうとするけど、さすがに病み上がりだから一旦制止し、私たちは小屋に戻ろうとする。と、クリスタちゃんが集落の中心部を見て言った。
「悪いの、いっぱいいる。死にそうな人も」
「…」
正直、私たちにあんな態度をとった人を助けてやる義理はないと思ってる。言葉を尽くして説明したのに、排他的で冷たい。治療しに行っても門前払いされる可能性だってある。それなら、たくさん苦しんで思い知ればいいんだ。だけどそんな私の意地悪な感情を、「クリスタ、助けたい」という可愛い声がさらっていく。
「…みんなを治しに行きたい?」
「うん!」
私はおじいちゃんに「ごめんだけど」とお願いして、治療の証人になってもらう。生粋のこの村育ちのおじいちゃんが言うなら、ちょっとは信じてくれる人も増えるんじゃないかと思ったんだ。
クリスタちゃんが「一番急がなきゃいけない」という家のドアを叩く。中には苦しそうな男性がひとりと、とろんとした目をした子どもと、おろおろしている奥さん。男性は昨日大きな声で「俺は元気だ!ピンピンしてる!」と言ってた人だ。人間ができてなくて「ざまぁ」と思ってしまう汚い気持ちを、必死で押し殺す。
クリスタちゃんが一歩前に出て、「クリスタなら治せるよ」とにっこり笑う。おじいちゃんも「ばあさんも治してもらったんだ」と援護して、奥さんは戸惑いながら私たちを家にあげてくれた。クリスタちゃんの予言が当たったことで、信じる気持ちになったのかもしれない。クリスタちゃんの手から紫色の触手が伸びてじゅくじゅくしてげっぷして、男性と子どもの顔色はあっさりと良くなった。
「サティ、次!」
引き止める奥さんに背を向けて、クリスタちゃんは走り出す。「他にも患者さんがいるので、またお話ししましょう」と私も走り出し、おじいちゃんがゆっくりと後を追いかける。
小さな村のこと、「クリスタちゃんが病気を治している」という噂はあっという間に広まった。何軒目かの家を出ると、そこに人だかりができていた。
「おい魔力持ち、うちのばあさんも治せよ」
「いや、うちが先だ」
クリスタちゃんは素直に手を伸ばすけど、私はかちんときて「ちょっとあなたたち!」と、彼女の手の前を塞いでおじさんを睨みつける。やっぱりこんなの我慢できない。
「散々クリスタちゃんやテオくんのこと馬鹿にして差別して集団で怖がらせて脅して、いざ役に立つとわかったらその態度?お願いする立場なのに偉そうに…しかも我先に!恥ずかしいと思わないの!?」
「なんだと!お前こそ行き遅れのよそ者女のくせに、ちょっと役立つ魔力持ちを育ててるからって偉そうなんだよ!」
「行き遅れは余計だし、自分より弱そうな女子どもに対して偉そうなのはどっちよ!助けてほしけりゃクリスタちゃんとテオくんに土下座して謝ってから出直せっ!!」
「なにをっ…!」
農作業で鍛えたのだろう太い腕が振りかざされ、私は頭をガードして顔をそむける。クリスタちゃんに汚い言葉を聞かせて暴力的なシーンを見せることになるなんて。でも我慢なんてできなかった。
こんなことならテオくんにレオくん&クロとの留守番をお願いするんじゃなく、彼らも連れてきて、みんな燃やしてもらったらよかったんだ。




