表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/97

15 秋の遠足は外せない

私は朝からサンドイッチのお弁当を作っている。


秋のイベントで外せないのは、やはり遠足。行き先はこの山小屋からさらに登ったところにある、大きなブランコ。おばあちゃんが「子どもには楽しいと思うよ」と教えてくれた。


レオくんはスケッチブックを抱え、クリスタちゃんは「ブランコっていっぱいゆらゆらするんだよね?楽しみ」と元気いっぱい。そしてテオくんは、私と荷物係を分担してくれている。頼もしすぎる。


大人の足なら歩いて十五分ほどということだったけど、やや体力のないレオくんには、きつかったみたい。我慢強くて「疲れた」「足が痛い」とは口にしないけれども、明らかにスピードが落ち始めた。


砂利の登り道だからおんぶするのはちょっと怖いし、レオくんを励まし、道端の棒を持たせながら、何とか登っていく。レオくんは室内遊びが好きだけど、外遊びももっと楽しくできるように工夫していかないとな、なんて考えながら。


ブランコが見えて、クリスタちゃんが「あれだ!」と走り出す。「走ると危ないよ、気をつけてね」という前に、テオくんが彼女の手をとってくれた。できる兄は尊い。ちらっと私を振り返ったテオくんに、GJサインと下手なウインクを送ったら、変な顔をされた。


「きれいな場所だねぇ」


木製の大きなブランコはちょっとした広場にしつらえられていて、ブランコの横に立つと集落やうちの小屋やりんご園を見落とせる。クリスタちゃんはテオくんに押してもらいながらブランコをこぎ、レオくんはスケッチブックを広げ始めた。みんなそれぞれに楽しそうだ。


レジャーシートなんて便利なものはないので、少し厚めの布を芝生に広げて、腰を下ろす。日差しにはまだ鋭さが残っているけれど、風は涼しい。すごくすごく気持ちがいい。思わずスカートの下であぐらをかいていたら、口うるさいテオくんに、「脚!」と言いながら脚をぱんとはたかれた。


「お昼ご飯にしようか」

「その前に脚をなおせよ」

「だってこれがラクなんだもん」


口うるさい小姑みたいなテオくんから逃れるために、クリスタちゃんとレオくんを招集する。濡れタオルで手を拭いて、サンドイッチを広げる。


「美味しそう!」

「手を合わせてください!」

「いただきまーす」


日本的な食前の挨拶も、すっかりこの子たちの生活に馴染んでいるなぁなんて考えていた、そのときだった。


「何の音?」

「なんか…鳴いてる?」


耳を澄ませる。確かに、かすかな「キュウゥ」という…鳴き声?声のする方向に見当をつけて探すと、いた。真っ黒の大きなとかげに、こうもりのような羽が生えた生き物。これはレオくんの絵で夕闇の迫る空を飛んでいた…


「ドラゴン?」

「まだ子どもみたい」

「実物は初めて見た」


自分よりずっと大きな人間四匹に取り囲まれて、赤ちゃんドラゴンは赤い目を細くして「ギギギ」と歯茎を見せる。威嚇しているのだろう。羽の付け根に傷があって、「怪我してる」と私が思わず手を伸ばしたとき、ドラゴンはぶわっと火を吹いた。とっさに避けたけど、長袖が焦げる。やだ、新しいの買わなきゃ。


「ドラゴンに手を出すとか馬鹿かよ」とテオくん。ごめん、この世界の常識がわからないんだよ。ペライチのマニュアルには「ドラゴンとの正しいコミュニケーション」とか載ってなかったし。


「でも、怪我してるよ」

「怪我して飛べなくなって、親に置いて行かれたんだろうな」


クリスタちゃんがしゃがみ込みそっと手を伸ばそうとして、「触っちゃだめ。火傷するかもしれない」とテオくんに制される。おいおい、私への言葉よりだいぶ優しくないかい?


と、クリスタちゃんを制したテオくんの腕に、ドラゴンが「クゥゥ」と頬を寄せた。


「あれこれ…もしかして懐いてる?」


「テオ兄上の魔力が火属性だから、仲良くなれるのかも」とレオくん。そうかもしれない、黒に赤い目で、色も似てるし。テオくんは慎重にドラゴンを抱き上げる。赤ちゃんドラゴンは彼の腕の中で静かになり、小さく「クゥ」と甘えるように鳴いて、彼の胸に顔をすり寄せた。完全に懐いている。


「サティ、このドラゴンどうするの?」とレオくんが聞く。「親とはぐれたなら、このままここに置いといたら死ぬかもしれない」とテオくん。だけどドラゴンって家で飼っていいものなのかな。「絶滅危惧種で条約の保護対象」とかではない?飼育したら処罰されるとか…


「このまま置いていくのはかわいそう」とクリスタちゃん&レオくんにキラキラした瞳で見つめられ、私は「とりあえず怪我が治って飛べるようになるまで、うちで保護しよう」と決めた。


「うちで飼うなら、名前つけていい?」とクリスタちゃん。


うーん、名前か。どうしようか。名前をつけて情が湧いたら、離れにくくなるかもしれないけど…と考えている間に、クリスタちゃんは「クロ」と安直極まりない名前をつけてしまった。テオくんに「クロ」と呼ばれると、赤ちゃんドラゴンは嬉しそうに小さな炎を吐く。


帰り道。陽が傾き始めた頃、クロはテオくんの肩に安定した姿勢で乗っていた。どうやら、すっかり安心しているようだ。


「テオくん、すごいね。火を吹くドラゴンと普通に触れ合えるなんて」

「怒らせなければ危険ってわけじゃないし」


きっと私は母性に満ちた顔でテオくんを見ていたのだろう。テオくんは「その顔やめろ」と、顔をそむけた。ママに照れちゃう思春期男子、良き。


小屋に戻って、子どもたちはあーだこーだ言いながらタオルとバスケットでクロの寝床をつくってやる。クロは嬉しそうにバスケットの中で丸まった。テオくんがクロにタオルをかけながら、ぽつりと呟く。


「怪我が治るまでなんだよな」

「野生に返してあげるのがいいと思う。でもここを離れても、テオくんのことは忘れないと思うよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ