各地の戦況 << マイノス 34 >>
セルバート王の最後通告のような王国チャットの発言は、明らかに出鱈目だと私は感じた。
それは他の無関係のギルドメンバーからも、おかしいんじゃないのかという発言が出ていた。
また新世界ギルドからは、怒りの声も出ていた。
「セルバート王。あなたは酷すぎないか。チャードンやグリーンが嘘をついて宣戦布告したような言い方だが、それまでの過程も聞いている。あなたは嘘をついている」とスライサーが言えば、ハイドンという男は、「ゴミだな。セルバート王はロマール王国の恥でありゴミだ。早いところ、政権を奪おう。王立騎士団に王国政権を任せていたら、この王国は滅ぶぞ」といった感じで発言した。
王立騎士団グループのメンバーも、状況は察しているように思えた。
王国チャットでは、王立騎士団以外のプレイヤーが、セルバート王と王立騎士団政権の正統性に疑問を投げかけ、王立騎士団グループのメンバーは黙りこくった。
商人ギルドが王都に入城したあと、新世界ギルドがそれを包囲した。
戦力的には、王立騎士団側が7500人、新世界ギルド側は25000人の兵力だった。
攻城側は練度も高い兵士で構成されて、3倍の兵力を有していた。
一方、王立騎士団側の兵力は商人ギルドが主力であった。
彼らの多くはガルナス王国遠征の敗退もあり、新兵だろうと思われた。
これではいくら王都とはいえ、王立騎士団が守り切るのは難しいと思われた。
王都への包囲網を着々と狭め、チャードンは遂に総攻めを命じた。
王国チャットは、歓喜に満ちたコメントが溢れ、戦いのスタンプや鬨の声が続いた。
ところが、新世界ギルドの一人のプレイヤーが、「まだ前線に到着していないのに、俺の部隊が壊滅させられた」とコメントした。
「私の部隊も、全滅した(泣)」と女性プレイヤーが書き込む。
チャードンが「何が起きている」と、連合軍チャットで聞いた。
「チャードン。リゼア王国の部隊が来ている。かなりの数だ」とグリーンが言った。
「え??リゼア王国?」チャードンもこれには驚いたようだった。
私は不安になった。
「小都市アルンを攻めていた王立騎士団の部隊も、まだ損害をほとんど受けることなく、行方知れずだ。気をつけて」と書き込んだ。
「チャードン。数万人の敵部隊がいるようだ。王国チャットを見る限り、これは王立騎士団への援軍だろう。退路絶たれかねない」とグリーンが言った。
私もこれは王立騎士団への援軍だと思った。
なぜなら、イザベラがそれらしい合図を世界チャットで行っていたからだ。
隠密性のあるグループチャットだけでなく、世界チャットでの合図を確認用に利用している可能性がある。
王都では宣戦布告されているので、戦場マップを見ることが出来た。
王都を中心に、新世界ギルドの部隊が包囲網を狭めているが、東側からリゼア王国の部隊が南北に広がるように展開していた。
そしてグリーンが指摘したのが、西側にある新世界ギルドの本陣への距離が、王都を包囲した新世界ギルドと、南北に展開しているリゼア王国の部隊でそう違わないことだった。
新世界ギルドの本陣は空ではないようだが、リゼア王国の大部隊が来たら、ひとたまりもないだろう。
「敵が数万だとしたら、戦えないこともないだろうが・・・」チャードンは苦悩しているように見えた。
戦力的に例え互角だとしても、王立騎士団側の本陣が強固な王都になるのに対し、新世界ギルドの本陣はほとんど防御力がない陣営所だ。
しかも南北から挟撃を受ける形になっており、これに王都から反撃の部隊が出れば、三方から攻撃されることになる。
本陣を奪ったほうが勝利になるのだから、本陣が強固な王立騎士団陣営が圧倒的に有利だ。
チャードンはグロームに、ワープホールで王都内、さらにロマール城内ワープホールは作れるか聞いた。
グロームは「王国評議会の時に試みたが出来なかった」と言った。
「王都には何らかの結界があるようで、ワープホールが作れなかった」と言った。
知らないとは幸福なことだ。
私は王国評議会で捕縛される危険があったのだ。
「本陣に攻撃が来てる!伏兵だ!」
新世界ギルドのオバケというプレイヤーが悲鳴を上げた。
彼は書き込む場所に失敗していた。
王国チャットに書いていたのだ。
もちろん戦況は、多くの人が見ているが、こちらの心理状態を明かす必要はない。
彼の書き込みで、新世界ギルドがパニックに陥っていることが判明してしまった。
チャードンは「わいの部隊が王都攻略に挑む。王都からの反撃の牽制にもなる。他は本陣を守りながら、全軍撤退してくれ」と指示を出した。
本陣防衛に一直線に走る新世界ギルドの部隊に対し、リゼア王国の部隊は伏兵と挟撃を駆使して応戦した。
戦いの趨勢はもはや明らかだった。
明らかだったが、問題はどれだけの規模で、劣勢な戦いをしているかだった。
1万人の敵との戦いで不味い戦いになるのと、2万人の敵との戦いで不味い戦いをするのでは、意味が違ってくる。
新世界ギルドが本陣に向けて進軍しているのは、約24000人の兵力という有限の兵力だからだ。
1万人を相手にしているなら、まだ勝つかもしくは引き分ける見込みがある。
しかし2万人相手となると、敗北は確実だろう。
「36000人。世界チャットの古い部分に、それらしいやり取りが残っている」
グロームが絶望的な声を上げた。
その時である。
新世界ギルドの魔法都市ライツが王立騎士団から、黄金都市ミダースが商人ギルドから宣戦布告を受けた。
2つの大都市戦場を確認すると、魔法都市ライツには王立騎士団18000人が取り付き、黄金都市ミダースには商人ギルド4000人と、西の強国ギルド2000人が押し寄せていた。
「都市には防衛隊残していないよ」グロームは泣きそうな声を上げた。
「しっかりせい!グローム!軍事担当者やろ!お前が諦めてどうすんや!」チャードンがグロームを叱咤した。
グロームは「事実を言っただけだ」と言った。
チャードンは連合軍チャットに動揺を超えた悲壮感が漂い始めたことを察したのだと思う。
「グリーン。後のことは頼むで。わいはこれから王都攻略に挑む」
「はい。我々はそのためにこれまで準備し、今日ここにいます」
「これまで楽しかったわ。仕えてくれてありがとな」
「どうかご武運を」
そのメッセージの後、王都の城壁に複数の部隊が攻撃を仕掛けた。
新世界ギルドの本陣での戦い、2つの大都市での戦いが同時に行われている中で、チャードンの攻城部隊は驚異的な粘りを見せた。
わずか1000名足らずの3部隊は真っ先に壊滅するものだと思われたが、チャードンの回避スキルで城壁からの射撃や落石を次々と回避した。
なかなか城壁を乗り越えるところまでは行かないものの、攻城戦自体が続いたことで、王都内の兵力は新世界ギルド本陣での戦いに加わることはなかった。
新世界ギルド本陣での戦いは、強行軍で本陣に戻ったグリーンを始めとした武闘派の部隊が、本陣周辺にまで迫っていたリゼア王国の急襲部隊を駆逐した。
そして南北に布陣するリゼア王国と対峙した。
一方、戦況が真っ先に確定したのが、魔法都市ライツだった。
王立騎士団が攻略した。
続いて、黄金都市ミダースが陥落し、商人ギルドのものになった。
「俺たち、全部失うのかな」
グロームが王国チャットで嘆いた。
書き込み先の誤りだと思う。




