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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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瑠璃玻璃(るりはり)の谷、三音の試し

1)谷を望む朝


 夜明けの平原は、冷たい露と細い風が混じる匂いで満ちていた。

 東の地平線の向こう、淡い青と緑の層が溶け合うように霞む場所――そこが瑠璃玻璃るりはりの谷だ。

「見えてきたな」

 よっしーがセドの窓越しに目を細める。「あそこが第六断章の試練場っちゅうわけや」


「風骨も、音骨も、深いニャ」

 ニーヤが杖を抱えて低く言う。「**三音さんおん**の、外したら一拍で谷に呑まれるニャ」


 あーさんは盃の面に薄い水を張り、その上に淡い輪を描いている。「押す音、引く音、返す音――三音を同拍で保つ。それが合符ごうふの真髄にございます」


 リンクは荷台の幌の上で、二段ジャンプを繰り返してタイミングを刻み、ブラックは谷風を測るように高所を旋回していた。

 クリフは無音矢の弦を撫で、節の張りを確かめている。



2)谷の手前で


 谷の入口には、古びた石の門があった。

 刻まれた文は擦れて読みにくいが、ところどころにこんな言葉が残っていた。


押す者、返す者、引く者――

三つの音が一つの拍となる時、谷は道を示す。


「古代の礼の碑やな」

 よっしーが目を細めた。「今の俺ら向きやんけ」


「それだけ難しいってことでもあるニャ」

 ニーヤが杖を握り直し、俺の顔をちらと見た。


「……行くか」

 旗を胸に押し当て、深呼吸をひとつ。



3)第一の試し――鎖輪さりわ


 谷に足を踏み入れた瞬間、風が不自然な螺旋を描いた。

 空から降る鎖――白鎖の**鎖輪さりわ**が道の両脇に走り、拍をねじる。


返鈴へんりん、いくニャ!」

 ニーヤが鈴条を鳴らし、拍を一度だけ逆位相にする。

 俺は旗を振り、「押す音」を立てて道の中心を指し示した。

 あーさんが静の面で「引く音」を補い、ズレた骨を滑らかに整える。


 よっしーはセドを谷口の台地で待機させ、回転を一定に保って芯の拍を送り続ける。

 クリフは弦で細い節を支え、リンクは二段で鎖のわずかな隙を見つけ、ブラックが上から風背をかけて鎖の揺れを抑えた。


「……美」

 白鎖の声が風に消え、鎖輪は霧のように溶けた。



4)第二の試し――焔輪かりん


 谷の奥、岩壁の隙間から赤い光が漏れた。

 炎糸の**焔輪かりん**だ。火の輪が複数重なり、谷全体をじりじりと焦がしている。


「熱で“押す音”が鈍る!」

 あーさんの声が鋭く響く。


「氷結弾・露鎧つゆよろい!」

 ニーヤの氷が輪の縁に薄い皮膜を作り、温度差をならしていく。

 俺は旗で押す音をさらに強め、拍を広げる。

 あーさんが引く音で風の流れを整え、火輪の揺らぎを抑える。


 クリフの矢が無音で飛び、火輪の節を縫い止める。

 リンクが二段で跳び、風の隙間を駆け抜け、ブラックがその軌跡に沿って風背を補強する。


 焔輪は唇を噛むように熱を引き、炎糸の笑い声が遠くで響いた。



5)第三の試し――黙輪もくりん


 谷の底から、深い影が浮かび上がった。

 音がすべて消え、風も止まる。――黒涌の**黙輪もくりん**だ。


「静面、厚く!」

 あーさんが盃を広げ、静の面を何層にも張る。


 俺は無鈴を指で撫で、旗を握って押す音をわずかに響かせた。

 ニーヤは鈴条を胸に抱え、返鈴で谷の骨を軽く叩く。

 クリフは弦で節を支え、リンクは二段で影の端を踏み、ブラックが風背で谷の中心を切った。


 黙輪の渦がゆっくりと薄れ、音が戻る。

 ――チ・リン・リ。旗の裏で第六断章が刻まれた。



6)谷を抜けて


 谷を抜けた瞬間、空が広く開けた。

 風の匂いが軽くなり、骨の奥で鈴文が柔らかく鳴った。


「……やったな」

 よっしーがセドの窓から手を振る。


合符ごうふ、本当に“身”になったニャ」

 ニーヤが満足げに杖を振った。

 あーさんは盃を胸に寄せ、静かに微笑む。「三音が重なり、輪が自然に回りましたる」


 リンクは膝の上で跳ね、ブラックは肩で羽を休めた。

 クリフは弓を背に収め、短く「うむ」とだけ呟いた。



7)野営の夜


 谷の外れで野営を張った。

 よっしーが虚空庫からタコ焼きと缶を取り出し、「祝いや祝いや」と笑う。

 リンクはパンの切れ端を抱えて齧り、ブラックは火のそばで羽を整えている。


「次は……?」

 俺が旗を撫でると、鈴文が淡く光った。


 ――東宙とうちゅうの海、“青環せいかんの浮島”。

 ――骨の第七断章、潮と風と音が交わる場所。

 ――白鎖は鎖潮、炎糸は焔潮、黒涌は黙潮を回す。


「海か」

 よっしーが地図を広げ、うんと唸る。「セドごと浮かべられるか、ちゃんと考えんとな」


 ニーヤは杖を撫で、「潮の礼も、そろそろ試されるニャ」と呟く。

 あーさんは盃を胸に寄せ、「風と潮の面を重ね張りいたしましょう」と頷いた。



8)紹介回の予告


 火が小さくはぜた頃、俺はふと口を開いた。


「……そろそろ“登場人物紹介・特別篇”をやろうと思う」


「待ってましたニャ!」

 ニーヤが跳ね、リンクが膝の上で「キューイ」と鳴く。

 よっしーが缶を掲げ、「セドのページも頼むで」と笑い、あーさんは盃を胸に寄せて静かに頷く。

 クリフは無言で矢羽を整え、ブラックは頭上で円を描いた。


 俺たちの旅を一度、拍の形で振り返る――その準備を、明日から始めよう。



9)夜の風と指輪の鈴


 風が静かに吹き、指輪が微かに鳴った。

 チ・リン・リ――深く、穏やかで、確かな拍。


「まだ旅は続く」

 俺がそう呟くと、リンクが膝の上で丸くなり、ブラックが翼を軽く広げた。



次回予告

• 青環の浮島での第七断章の試練。

• 白鎖の鎖潮、炎糸の焔潮、黒涌の黙潮が潮と風の間で試す拍。

• ニーヤが潮の返鈴を覚え、あーさんが潮面を写す。

• よっしーのセドが初めて本格的な海路を走り、クリフは潮の節を射抜く。

• リンクとブラックは浮島の潮風を読み、旗に第七断章が刻まれる。

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