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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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魔物に襲われた村と、残酷な現実



(主人公・相良ユウキの視点)


俺たちは、冒険者のルーノ、メルサローネ、ロディマスと別れ、モンテーヌの町を目指して歩き始めた。クリフさんから聞いた聖教国の歴史と、冒険者たちから知ったこの世界の残酷な一面。俺たちの心は、希望と同時に、暗く重い現実を突きつけられていた。


「ガサッ!」


その時、突然獣道から、傷だらけの少年が飛び出してきた。


「む…村が魔物に……助けてください…」


少年はそう言い残し、前のめりにバタッと倒れてしまった。背中には、何者かに引き裂かれたような深い傷跡があった。


回復魔法ヒール!」


ルーノとメルサローネは、すぐさま回復魔法を唱え始めた。淡い光が少年の傷を包み込み、みるみるうちに傷口が塞がっていく。


「なんや? どうしたんや?」


よっしーが、慌てて少年に駆け寄る。


「ふむ、あれは回復魔法だな」


クリフさんが、冷静に状況を分析する。


「よっしゃ、ほんならワイらも!」


そう言って、よっしーは虚空庫アイテムボックスから毒消しとポーションを次々とコピーし始めた。その様子を見た俺は、思わず「おいおい…」と呟いてしまった。この男、この間に、在庫を増やしておこうってのか。


それにしてもコピー機能付きって……反則級の能力スキルじゃねーかw



しばらくして、少年はパチリと目を開けた。しかし、その瞳はうつろで、何かに怯えているのか、辺りをキョロキョロと見回している。


「近隣の村の子供だろう。傷跡から察するに、魔物の襲撃であろう。おそらくは、貯蔵してある作物が目的であろう」


クリフさんの言葉に、俺は愕然とした。


「マジかよ? 魔物って、そんな……どこにでもいるのかよ?」


「様々な種族があって、その特性があるんだろうけどな。山岳地帯、海、洞窟や地底などの場所に魔物は住んで、たいてい群れ単位で生きている。生活していく中で、人間の生活圏と干渉しちまったり、人間の移動経路と被っちまったりして、人間が騒ぎ立てることもまぁあるな」

ルーノが、淡々とした口調で説明する。


「だから、アタシたちのような冒険者なんて職業が、こうして活躍しているんだよな!」


メルサローネが、得意げに胸を張った。

少年の話によると、突然魔物どもに襲撃され、村を壊滅させられたらしい。


俺たちは、メルサローネたちと話し合った結果、彼の住む村へ行くことにした。

焼け野原と、残された命

数時間後、少年の案内で、俺たちは彼の村へ向かった。



村は、何もかもが奪われ、焼け野原と化していた。焦げ付いた木材の臭いと、腐敗した何かの悪臭が、鼻をつく。あたりには、逃げ遅れたであろう老若男女の死体が、そこら中に転がっていた。


「うえぇっ……マジ、吐きそう……」


俺は、思わず口元を押さえた。死体って、こんなに臭いものなのか。元の世界では、嗅いだことのない、生々しい悪臭だった。


「うえぇぇぇ!」

「き、気分がわるぅございます……」

あー、やっぱあーさんとよっしーもダメみたい!!


「あっ、うう……」


その時、誰かのうめき声が聞こえた。

俺たちは、声のする方へ駆け寄った。そこには、バーコード頭の中年男性が、辛うじて息をしながら横たわっていた。


メルサローネたちが、すぐに回復魔法をかけ、よっしーがポーションを飲ませた。男性は、なんとか話ができるくらいには回復した。

男は、目を開けるとメルサローネを見つめ、手を伸ばす。しかし、メルサローネは距離を取り、目を逸らした。



彼の話によると、村は突然の襲撃により、村人数人が殺害され、約30世帯の家族が、数キロ離れた村に避難したらしい。


「いきなり魔物がなだれこみ、家に火をつけ、住民の男性たちを処刑しだしたんだよ……」

「それでは、この村の者たちは皆殺しにあったのであるか……」


クリフさんが、悲痛な表情で尋ねる。

「分からない。何人か近くの村へ、助けを求めて走って行った連中もいた……」

なるほど。俺たちが助けた少年も、その一人だったのか。少年は、うつむいたまま、何も喋ろうとしなくなった。






◆ 緊張感と世代間の溝 ◆



「カキン!」

ルーノが、飛んできた矢をバトルアックスで払いのけた。

村の奥から、5匹のゴブリンがニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、俺たちを指差してきた。


「ギャギャーッ、ギャ!」


ゴブリンどもは、俺たちを見て笑っている。なんだよコイツら、超ムカつく!


「よし、ブラック、いけ!」


俺の肩に止まっていたブラックが、空に舞い上がり、魔法を唱えた。


「クァッ!」


水しぶきが形成され、勢いよくゴブリンどもに向かって飛んでいく。水しぶきを受けてひるんでいる隙に、メルサローネが放った矢が、ゴブリンどもの喉や顔面に突き刺さる。さらに、とどめと言わんばかりに、ロディマスがゴブリンの一匹一匹に剣を突き刺していった。


ドサッ、ドサッ


ゴブリンどもの死体が、目の前に転がっている。


「マジ、えげつねえ……」


俺は、その光景を直視できなかった。正直、元の世界に帰りてえ。

確かに、中東やアフリカの紛争地域なんかでは、老若男女の死体とか、そういった光景が日常茶飯事なのかもしれない。でも、俺が住んでいる日本では、こんなのない。


俺は、頭の中で、元の世界の記憶を必死に思い出そうとした。コンビニの煌々とした明かり、スマートフォンの画面、満員電車……。しかし、それらは、この目の前の惨状の前では、まるで遠い夢のようだった。

よっしーが、両手を広げて、ゴブリンの死体に近づいていく。


「なあ、自分ら。いくら魔物とはいえ、殺すことはないんちゃうんか? これはあまりにもむごいわ」


倒れたゴブリンの死体を見つめ、よっしーが呟いた。


「……いくら魔物とはいえ、全部こうやって殺してしもたら、

 なんか、気ぃ悪いなぁ……」


ロディマスたち冒険者は当然のように戦った。

この世界では“敵を倒す=殺す”が当たり前なんだろう。


だが、よっしーは違う。


令和とか平成とか関係なく、

よっしーという男は、

“自分の手が誰かの死を選ぶこと”を本能的に嫌っている。


俺はその背中を見ながら、

(こういうところ、よっしーらしいよな……)

と胸の中で苦笑する。


――すると。







◆ あーさんの静かな声 ◆


「……よっしーさんのお気持ち、私も同じでございます」


ぽつりと、あーさんが口を開いた。


メルサローネが眉をひそめる前に、

あーさんは両手を胸の前で合わせ、

まるで祈るような仕草をした。


「はい……このような行為は、あまりにもむごうございます。

 相手が人でなくとも、命を散らす光景は……胸が痛みます」


その声音には、明治の乙女らしい素朴な哀しみがあった。


「もちろん、己らを守るための戦いは否応なくございます。

 しかしながら……倒すのでしたら、せめて“殺めぬように”はできませんでしょうか。

 無力化だけで済むならば、それが最良であると……私は思うのですが」


静かでありながら、しっかりと芯のある声だった。


よっしーの肩が少し震えた。

味方が現れたようで、少し安心したのかもしれない。


「……あーさん……ありがとうな……」

よっしーは小さく呟いた。






◆ メルサローネの怒気 ◆


しかし、メルサローネの反応は真逆だった。


バサッと短剣を抜き、よっしーの喉元――

いや、あーさんのほうに向けて半歩踏み込む。


「……あんたたち、ほんっとに甘いんだよ」


その声は、先ほどよりもずっと低く鋭い。

喧嘩腰ではなく、職業冒険者としての“怒り”そのものだった。


「殺さなきゃ、こっちが死ぬ。

 道を歩く母親も、子どもも、老人も……

 さっきの村みたいに、みんな殺されるんだよ?」


キッとあーさんを睨む。


「その“綺麗な理想”のために、誰が死んでもいいわけ?」


あーさんは一歩も引かず、静かに頭を下げた。


「いいえ。

 どなたの死も、許されてはなりませぬ」


その姿は、戦う人間というより、

“武家の娘”にも似た気高ささえあった。


「ですが――」


あーさんは続ける。


「だからこそ……

 殺す以外の道があるなら、探すべきと存じます。

 人も魔も、いずれ同じように息をし、

 痛みと温かさを持つ存在なのですから」


明治の娘の論理は、

戦場で生きる冒険者に真っ向からぶつかる。


その刹那、空気がビリッと緊張した。


メルサローネは短剣を握りしめたまま、

しばらく動かなかった。


――ほんの数秒の沈黙が、やけに長い。






◆ 火花が散りかけた瞬間 ◆


メルサローネがもう一歩踏み出す直前――


「そこまでだ」


クリフさんが静かに二人の間へ入った。


怒鳴り声ではなく、

落ち着いた、それでいて揺るぎない声。


「メルサローネ殿。

 彼らは稀人であり、まだこの世界の重さを知らぬ。

 だが、それは罪ではない」


ロディマスとルーノもメルサローネの肩に手を置いた。


「落ち着くのである」


「……彼らの“優しさ”も、悪ではありませんよ」


メルサローネは肩を震わせ、

キッと唇を噛んだ後――


「……チッ」


と小さく舌打ちして、ようやく短剣を鞘に収めた。





◆ 決裂しない“衝突” ◆


メルサローネは俺たちに向き直り、

呆れたように、しかし真剣に言った。


「覚えておきな。

 この世界では、 甘さ は命取りだ。

 “殺すな”と言うなら、その分、

 あんたたち自身が誰より強くならなきゃいけない」


あーさんは、深く頷いた。


「はい。

 ならば……努力いたします。

 命を奪わず、守れる強さを――必ず」


その眼差しは揺らぎがなく、

メルサローネでさえ一瞬だけ驚いた顔をした。






◆ 別れと、残る匂い ◆


結局、護衛はここで終了となった。

彼らには依頼があり、俺たちも進まねばならない。


よっしーはホームパイやポーションを渡し、

クリフさんは礼金を渡し、

冒険者たちは満足そうに去っていく。


「あーさん……すごかったな」


俺が声をかけると、

彼女は少し照れたように微笑んだ。


「私は……ただ、そう思ったことを口にしただけでございます」


よっしーが苦笑する。


「まぁ……あーさんの言葉で、ちょっと救われたわ。

 ワイらの考え方も、間違いやないんやって思えた」


「はい。

 命を奪う以外の道は、必ずあるはずです。

 あるいは……探さねばならぬと、私は思うのです」


あーさんの言葉は、

焼け跡の灰の匂いとは違う、

柔らかい温度を持って胸に残った。


そして俺たちは、再び歩き出す。


焦げた木の臭い、血の気配。

それらが背中から離れるには、まだしばらく時間がかかりそうだった。


挿絵(By みてみん)


後書き


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


焼け落ちた村で、ユウキたちは初めて“命が奪われる現場”を正面から見ました。

そして、その後に訪れたゴブリンとの戦闘――

よっしーの「できれば殺したくない」という想いと、

この世界で生きてきたメルサローネたちの「殺さねば守れない」という現実がぶつかり合いました。


その狭間で、

あーさんが静かに語った 「非致死であれるなら、その道を探すべき」 という言葉。


それは、まだ何者でもない彼女が、

“旅を続けていく中で大切にしたい在り方” を

初めて自分の口で示した瞬間でした。


この出来事が、

後のあーさんの

「非致死・ほどほど」 の信条へと繋がっていく――

そんな小さな種になればと思い、今回描かせていただきました。


旅人組と冒険者組、それぞれの価値観が交差しましたが、

これもまた、彼らがこの異世界で「どう生きていくか」を選ぶ旅の一部です。


この先、どのような選択をしていくのか――

ぜひ見届けていただけると幸いです。


応援コメント・好評価をいただけると励みになります。

まだまだ未熟ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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