第十二断章:蒼裂(そうれつ)の峡 ― 風と鈴の骨
さんは盃を胸に寄せ、静かな声で告げた。
「骨の声が言っています。“風骨を裂き、鈴を繋げ”と」
セドのエンジンは軽やかに唸り、よっしーが笑みを浮かべる。
「焦らんといこうや。ここは、慌てた奴から呑まれる境目らしいしな」
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2)峡の入口
三日後、宙海の地平線が歪んで見えた。
そこには、空と海が裂けたような巨大な峡谷が広がっていた。
蒼い稲光が絶え間なく走り、突風がうねりを作っては弾ける。
「ここが“蒼裂の峡”か……」
クリフが矢羽根を撫で、眉をひそめた。
ブラックが高く旋回し、風背を探すが、すぐに乱流に押し戻される。
リンクは荷台の上で耳を動かし、緊張した面持ちで海面を見つめていた。
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3)突風の洗礼
峡へ入った瞬間、全身を叩くような突風が襲いかかった。
セドが大きく揺れ、荷物が転がる。
「舵、取られる!」
よっしーが叫び、ハンドルを必死に押さえる。
あーさんが盃を掲げ、静面を厚く張って風の一部を押さえた。
「鈴座を二層、展開!」
俺は旗を振り、押す音を二方向に分ける。
ニーヤが返鈴を二重に響かせ、クリフは無音矢で拍のズレを抑える。
リンクが二段で跳び、ブラックが背風を一本通した。
――チ・リン・リ。
風が一瞬だけ和らぎ、セドの揺れが収まった。
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4)乱流との戦い
峡の奥へ進むにつれ、風の拍はさらに複雑になった。
右から左へ、上から下へ、無数の流れが絡み合い、進路を阻む。
「多層展開、いけるか?」
よっしーが振り返る。
「試してみる!」
旗を握りしめ、鈴座を三層、四層と重ねる。
あーさんが盃を撫で、静面・潮面・風面を一度に展開する。
ニーヤが返鈴を三相で響かせ、クリフが矢を節に沿わせた。
リンクが跳躍でズレた拍を示し、ブラックが風背を細かく編む。
――チ・リン・リ。
風が束ねられ、峡の奥への道が開けた。
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5)灯を喰う者・親
その時、轟音が宙海を震わせた。
水面が大きく盛り上がり、巨大な影が現れる。
赤い目が二つ、海面の裂け目からこちらを睨んでいた。
「……灯を喰う者の“親”か」
クリフが低く呟く。
リンクが荷台から跳び、ブラックが高く舞い上がる。
巨影が咆哮し、渦を生み出してセドを引き込もうとした。
俺は旗を掲げ、押す音を深く通した。
あーさんが盃を掲げ、静面を厚く張る。
ニーヤが「氷結弾・連珠!」と叫び、巨影の動きを鈍らせた。
クリフの矢が巨影の肩を射抜き、リンクがその隙に背中を蹴りつける。
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6)鈴座・連鎖展開
巨影の動きが荒ぶり、渦がさらに強くなった。
押す音だけでは支えきれない。
「鈴座、連鎖展開!」
旗の裏で鈴文が輝き、複数の鈴座が鎖のように繋がって展開する。
よっしーがエンジンを安定させ、ブラックが背風を一本通す。
あーさんが静面を撫で、ニーヤが返鈴を合わせる。
クリフが矢で節を抑え、リンクが渦の中心に踵を落とした。
――チ・リン・リ。
巨影の動きが止まり、渦が静まった。
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7)第十二断章の刻印
峡の中心で、旗の裏が光を放った。
指輪が熱を帯び、鈴文が刻まれていく。
――第十二断章:蒼裂の誓い、授与完了
――風と鈴、骨を裂きて道を繋ぐ
セドの揺れが収まり、宙海が静けさを取り戻した。
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8)峡を抜けて
峡を抜けた後、浮標帯で停泊した。
よっしーが虚空庫からタコ焼きを取り出し、ニーヤが塩を振る。
リンクは膝の上で跳ね、ブラックは帆の上で羽を震わせる。
あーさんは盃を撫で、「拍、穏やかになりました」と微笑んだ。
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9)新たな指標
旗の裏で鈴文が淡く光り、指輪が短く鳴く。
――次の舞台:“黄昏の塔”
――影と鈴を合わせ、闇を裂け
「……次は“塔”か」
クリフが矢羽を整えながら呟く。
よっしーがエンジンを撫で、「行く準備はできとる」と笑う。
ニーヤが杖を握り、「次も楽じゃないニャ」と息を吐く。
リンクが「キューイ!」と跳び、ブラックが肩で羽を震わせた。
あーさんは盃を胸に寄せ、「拍を崩さず進みましょう」と静かに告げた。
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10)夜の宙海
夜、星々が宙海に反射して光の道を作る。
リンクが膝の上で丸くなり、ブラックが帆の上で羽を畳む。
よっしーが舵を固定し、ニーヤが杖を抱えて眠る。
クリフは目を閉じて矢羽を整え、あーさんは盃を撫でながら静かに風を読む。
旗の裏で鈴文が淡く光り、指輪が静かに熱を帯びた。
――チ・リン・リ。
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次回予告
• 黄昏の塔 ― 影と鈴が交錯する新たな試練
• “闇を裂く”ための新技、“鈴座・影打ち”の習得
• 不穏に動く聖教国の影が宙海にも伸び始める
• 旅はさらに深く、そして緊張感を増していく




