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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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黄昏の旅団 ― 砂嵐を越えて ― その1




(主人公・相良ユウキの視点)



砂漠の朝と、旅の再開


蟻地獄の跡を離れて一刻ほど。

夜明け前の冷たい空気が、まだ火照りの残る体を包む。昨夜は宿で少し贅沢をしたけど、気持ちはすでに次の目的地へ向いていた。


「おはよう、みんな」


俺が声をかけると、よっしーが背伸びをしながら答えた。


「おう、おはようさん。さぁ、今日も気合入れて行くで!」


荷物をまとめて軽トラに積み込み、全員が乗り込む。エンジンをかけると、心地よい振動が足元から伝わってきた。


「次は、北東の『ラファルド』やったな?」

クリフさんが確認するように地図を広げる。


「ふむ…どうやらこの砂漠を抜ければ、交易で賑わう都市らしい!」


俺は、地図の端に書かれた説明文を指でなぞった。




ノリノリのドライブと予期せぬ追跡


砂漠の道に差し掛かると、よっしーがニヤリと笑った。

「よっしゃ〜っ! ほんならこっからラファルドまで、ボリューム上げてノリノリでいくで〜っ♪」


「イエーイ!」

と返したのは、俺だけだった。


「……なんか寂しいなぁ」

よっしーが肩を落としたところで、ブラックとリンクが突然騒ぎ出した。


「キューイ!」

「クルルルッ!」


「ど…どうしたニャ?」

ニーヤが不安そうに周りを見回す。


その時、砂がわずかに鳴った。

 ツツッ……ツツッ……と、一定の間隔で。

 拍のように。



2)蠍の拍

「下から音がします」

 あーさんの声が緊張を帯びる。

 リンクが砂を掻き、黒い節を掘り出した。


「蠍……?」

 拳ほどの小型。尻尾の先が金色に光る。


「普通の砂蠍か?」

「いや、尻尾を——見ろ!」


 尻尾が地面を打つ。

 カン、カン、カン、と乾いた金属音。

 その音に呼応するように、周囲の砂が低く震えた。


「仲間を呼んでる!」

「やっべ……やっべこれ群れ来るやつや!」

 よっしーが慌ててハンドルを叩く。


「……拍です」

 あーさんが小さく言った。

「蠍たちは音で群れを呼ぶ。あの尻尾が“指揮棒”です」


 砂面に波紋が広がった。

 一つ、二つ、三つ……十。

 小さな円が連鎖して、丘のあちこちから黒い影が這い出す。


「これ、完全に合唱隊やんけ!」

「名付けて“コーラス・スコーピオン”やな」


 蠍たちは尻尾を交互に叩き、拍を刻み始めた。

 ツン、ツン、ツンツン――。

 まるでドラムのロール。



3)チョークライン

「どうする? 攻める? 守る?」

「囲まれたら終わりや!」

 砂の上に無数の尻尾が閃く。

 赤い夕陽を反射して、まるで信号みたいだった。


「よっしー、あの道具を!」

「これか!」

 彼が腰から取り出したのは、細長い墨壺のような物。


「建築用チョークライン。線を引くやつや!」

「……で、どうすんの?」

「こうや!」


 よっしーが糸を伸ばし、ピンッと弾いた。

 乾いた音と共に、砂の上に一本の青い線が走る。

 その瞬間、線上の砂がわずかに固まった。


「魔素を吸った……!」

「線が結界代わりになってる!」

 ユウキが旗を突き、ニーヤが詠唱を重ねる。


氷結槍魔法アイシクルランス三連!」

 杖先から放たれた三本の氷槍が、砂を貫いて蠍の群れを凍らせた。

 拍が止まる。音が消える。


 だが一匹だけ、中心にいた巨大な蠍が尻尾を振り上げた。

 背中の甲殻が太陽の光を反射し、

 夕焼けのように赤く光る。



4)Raise Your Hands

「親玉か!」

「でかいニャ! 牛くらいあるニャ!」

 ソル・スコーピオン。

 全身に赤砂をまとい、尾の針は剣のように長い。


 蠍が吠えた。

 砂の底から残りの群れが再び動き出す。

 その時――

 よっしーのラジカセが鳴った。


 Bon Joviの『Raise Your Hands』。

 軽快なドラムが砂を震わせる。


「拍で負けたらアカン! 音で返せ!」

 よっしーが叫ぶ。

「ユウキ、リズム合わせろ!」

「了解!」


 俺は旗を構え、曲のテンポに合わせて突き出した。

 クリフが剣を抜き、ニーヤが杖を掲げる。

 ブラックが上空で円を描く。


 氷と風、光と音。

 すべてが一拍ごとに重なり、砂蠍の群れが崩れていく。


「これで——終わりニャ!」

 ニーヤの最後の槍が親蠍の額を貫いた。

 夕陽の中で、赤い殻が砕け、砂に散った。




ラファルドの市場


昼過ぎ、ラファルドの町に到着した。高い石壁に囲まれた市場都市で、門をくぐった瞬間、香辛料の香りと人々の喧騒に圧倒される。


「おぉ、すごいやんけ! ここ、めっちゃ活気あるで!」

よっしーが興奮気味に辺りを見回す。


「見て、あそこ。珍しい布や宝石もあるわ」

あーさんは、明治の乙女らしい好奇心を抑えきれず、瞳を輝かせていた。


屋台を冷やかしていると、妙に陽気な声が飛んできた。

「おう坊主! そこのツノ兎、えらい元気やな!」


振り向くと、筋肉質で褐色肌のオッサン二人組が立っていた。片方は斧を背負い、もう片方は包丁を腰にぶら下げている。


「おっちゃんら、なんや?」

よっしーが訝しげに睨む。


「いやな、今晩の夕食の足しにベビーサンドワーム捕まえたんやけどな……」

と、包丁のオッサンが袋からベビーサンドワームを取り出した。


うえーーー!気持ち悪い!…と言いたそうなあーさんはそそくさとクリフの背に…


「うわっ! まだ動いとるやん!」

 袋の中で、サンドワームがピチピチと暴れ、砂を飛ばした。

 よっしーが半歩下がる。

「これ、食うんかいな……?」

「せや。うまいで? バターで焼くとコリッとすんねん」

 二人のオッサンはにやりと笑った。




夜の焚き火と未来の話


その夜、俺たちは市場で買った肉や野菜を焚き火で調理した。スパイスの効いた料理に皆の箸が止まらない。


「ほんま……この世界、悪いことばっかりやないな」

よっしーがビール代わりの地酒をあおる。


「そうだな……でも、まだ俺たちの旅は始まったばかりだ」

俺は空を見上げた。夜空に浮かぶ二つの月が、不思議な輝きを放っていた。


「ユウキさん……」

あーさんが、焚き火の光でほんのり赤く染まった頬を伏せた。


その視線を受け止めながら、俺は心の奥で誓う。

――この仲間たちを、絶対に守る、と。





次回予告


リンクを仲間に迎え、さらに深まる旅路の絆。

だが、その先には砂漠を支配する盗賊団、そして聖教国の影が忍び寄る。

次なる戦いの火蓋が、静かに切られようとしていた――。

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