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黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


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《境界遺跡ヴァル=アーク》調査編その9 崖上キャンプ編 〜夜のカレーと、スキルの目覚め〜

前書き —ハッサン—


 旅人というものは、不思議なものでございますな。


 砂漠の国を渡り歩いていた頃も、森を抜け、山を越えた時も、私はいつも「この景色の先には、もう新しい驚きなど残っておるまい」と、どこかで慢心しておりました。


 ……しかし、まさか「恐竜の歩く大地」で晩飯を食べる日が来ようとは。


 この崖の上から見える光景は、私の商人人生の中でも、十本の指に入る絶景でございます。

 いや、十本の指では足りませぬな。手も足も全部使っても、とても数え切れませぬ。


 そんな中でも、人は腹が減り、そして笑い、震え、また明日へと備える。

 そういう営みは、どれほど世界が変わろうとも、やはり変わらぬのだと、今夜あらためて思い知らされております。


 では、わたくしが見た、「失われた地」の夜のひと幕を。

 どうぞ、覗き見してやってくださいませ。



    ◇


 「カシャン」


 崖の上に、よっしー特製のドーム型シールドが展開される。

 外では、肉食竜の咆哮と、猿たちの夜警の太鼓が遠く木霊していた。


 だがシールドの中は──

 少しだけ、平和だった。


「カレーライス完成やぁぁぁ!!」


 よっしーが鍋の蓋を跳ね上げる。

 香りが広がった瞬間、みんなの腹が一斉に鳴った。


「な、なにこの良い匂い……!」

 愛子の目が真ん丸になる。


「うむっ! 辛いのか!? それとも甘いのか!?」

 ルフィはいつものキラキラした目で鍋を覗き込む。


「カレーってのはなぁ、旨いもんや」

 よっしーがどや顔で腕を組む。


「…いや説明が雑すぎじゃね!」

 すかさずユウキがツッコむ。


 父―エリザベート・リッツ・レクスヴァルト(子どもたちからは「エリー」と呼ばれつつあるお嬢様)は、無言でスプーンを取り、ルーと具を掬い上げた。

 ひと口、口に運ぶ。





「……うめぇッッ!!!」


 叫び声が、シールド越しに夜空へ突き抜けた。


「お父さん、声! 声!」

 ユウキが慌てて袖を引っ張る。


「すまんすまん……いやでも、これマジでうめぇわ……!

 こっち来てから、こんな“文明の味”は久しぶりだぞ……!」


 その一言で、他のみんなも我慢の限界が切れたようだ。


「いただきます!」


「いただきますでございます!」


「ガガ、イタダク!!」


 スプーンが一斉に動く。


「ぅんまぁぁぁ!!」

「辛っ……でも美味しい!」

「このスパイス……舌に残るのに、嫌な感じがしませんね」

「ガガ、コレ好き!! ガガ、もっと食べる!!」


 宇美も負けじとスプーンを動かし、エリアナとミアはもぐもぐと無言で感動を噛みしめている。

 ネーナは最初おそるおそるだったが、一口で表情がぱあっと明るくなった。


「こ、こんな贅沢……わたし、本当に食べていいんですか……?」


「ええんやええんや。うまい飯は“皆で”食うから、いっちゃんうまいんや」

 よっしーが笑って、ネーナの皿におかわりをよそってやる。


 ルフィはというと、ほっぺたをぱんぱんに膨らませながら両手でスプーンを握りしめていた。


「ダーリン! この黄色い汁、永遠に飲んでいたい!!」


「汁ちゃう、ルーや」

「そうですよ。ルフィさん、ちゃんと噛んでくださいな」

 あーさんの一言でルフィかたまる。


 ノクティアはというと、最初は慎重に味を確かめていたが――


「……これは、“血”とは別種の力を与えてくれますね」

 と静かに呟き、二杯目をよそった。


「おかわり早ッ」

 ユウキが思わず突っ込むと、ノクティアは肩をすくめる。


「戦場では、エネルギー源は多いほど良いのです。

 それに……ご主人様が“美味しい”と笑っているものは、私も分かち合いたいですから」


「おお……今ちょっと刺さること言ったなこの吸血鬼」


 そんなやりとりに、場の空気がいっそう和らいだ。


    ◇


「なぁなぁ! なんかさ、ステータス増えてへん?」


 宇美が唐突に声を上げた。

 手元に半透明のウィンドウを開きながら、目をぱちぱちさせている。


「え、マジ?」

 愛子も慌てて自分のメニューを開く。


 崖の上の夜風が、柔らかく吹き抜けていく。

 頭上では、こちらの世界の二つの月が、シールド越しにぼんやりと光っていた。


「……ホンマや。なんか増えてる」


 愛子のステータスウィンドウに、小さな炎のアイコンが灯っている。


■愛子

【勇気の火種】

・臆せず前に出られる

・近くの仲間の士気を少し上げる

・恐怖で行動不能になりにくい(小)


「え、なにこれ!? なんかRPGっぽくなってきたで!?」

「いや、ここ最初からRPGみたいな世界やからな?」

 ユウキがスプーンを持ったままツッコミを入れる。


「でもさ、“勇気の火種”って、ちょっとカッコよくない?」

「お姉ちゃんっぽいです!」

 ミアが目を輝かせる。


「ほら見た? ミアちゃん公認の“お姉ちゃん”やで、愛子」

「ふふん。任せとき」


 続いて宇美も、自分のウィンドウに視線を落とした。


■宇美

【商才:ミニ】

・物や資源の価値を直感で判断できる

・交渉時、少しだけ有利になる

・怪しい取引に対して直感的な警告が出る


「ふふん。やっぱわたし、商売向いとるんやわ〜」

「最後の“怪しい取引”って完全にヤス君のことですよね」

「人聞き悪いな!?」

 ヤスがすかさず抗議する。


「じゃあヤスさんは?」

「お、おう……」


 ヤスは喉を鳴らしながら、ステータスウィンドウを開いた。


■ヤス

【お湯沸かし職人】

・どんな水でもすばやく適温に温める(魔力消費:小)

・周囲の温度を少しだけ上げて、仲間の体温低下を防ぐ

【録って見せる】

・自分の見聞きした光景を短時間だけ“再生”できる

・偵察情報の共有に便利

【距離感センサー】

・目測の誤差が減り、投擲や間合いの把握が向上する


「……なんか地味に便利なの多くない?」

「いや、めちゃくちゃ便利やろコレ!!」

 ユウキが身を乗り出す。


「お湯沸かし職人って、これ完全にキャンプ生活の要やん!

 風呂もコーヒーもインスタントラーメンも、ヤスおらんかったら成り立たんで!?」

「最後のインスタントラーメンは、まだこっち来てから一度も食ってないけどな」

 よっしーが苦笑する。


「録って見せるも、偵察とか証拠共有とか、使い方次第でめっちゃ強いし」

「距離感センサーは戦闘にも効きますね……」

 クリフが感心したように頷いた。


「いやぁ……俺、もっとこう“必殺パンチ!”みたいなん想像してたんすけど……」

「それはお前、今から鍛えたらええねん」

 よっしーが笑って肩を叩く。


「ここの世界ではな、“便利”が一番強い時あるんや」


    ◇


「そういえば、皆さまの加護も……少し変化しているようでございますよ」


 あーさんが、湯気の立つカップを手に、静かに言った。


「例えば──リンク様」


「キュイ?」

 肩の上で首を傾げる小さなウサギ……いや、暴れ兎。


■リンク

【分身(十秒)】

・短時間だけ、自身の幻影を一体生み出す

・幻影も足音や気配を持つが、攻撃は通らない

・再使用にはクールタイムあり


「十秒かぁ……でも十分やな」

 ユウキが頷く。


「敵の目線そらすのに最高やで」

「キュイ!」

 リンクは誇らしげに胸(胸あるのか?)を張る。


「ノクティア様も、闇の力が増していますわ」


 あーさんが言うと、ノクティアは小さく頷いた。


■ノクティア

【闇魔法:レベル2】

・影を濃くし、視界を奪う小規模な暗幕

・音や気配を吸収する“闇の幕”を展開できる

・短時間の影移動(極近距離)


「偵察と退避に特化した感じですね」

 ノクティアが淡々と説明する。


「直接攻撃というより、“気配を消して生き残る”ための力。

 この世界では、殊更に役立つでしょう」


「心強いですわ」

 あーさんがほほ笑む。


「わたくし自身も、少しだけ恩恵を受けておりますの」


■あーさん

【思考加速】

・短時間だけ、思考速度を上げる

・状況判断や作戦立案を素早く行える

・ただし連続使用は不可


「うわ、それ一番ずるいやつやん」

 ユウキが思わず本音を漏らす。


「ずるくはございませんよ?」

 あーさんはくすりと笑った。


「ただ、皆さまが“生きて帰る”ために、少しだけ頭を回しやすくなっただけでございます」


    ◇


「俺のも少し変わっている」


 クリフが、焚き火の明かりの中で目を細めた。


■クリフ

【鷹の目】

・遠方の動きや輪郭を捉えやすくなる

・暗がりでの視認能力がわずかに向上

・弓矢や射撃の精度が上昇


「もともと弓は得意だったが……これは、獲物だけじゃなく“危険”も見つけやすくなりそうだ」

「頼りにしてるで、クリフさん」

 よっしーが親指を立てる。


「ニーヤは?」


「ふっ……我の番であるか」


 ニーヤがもふっと胸を張る。

 炎の明かりで猫耳がちらちら揺れた。


■ニーヤ

【魔力自動回復(小)】

・時間経過で魔力が少しずつ回復する

・休息中の回復量が増加

・軽い魔法連射程度なら息切れしにくくなる


「これで我は、昼寝しているだけで強くなれるのですニャ!」

「お前それ言い方考えろ」

 ユウキが即座にツッコむ。


「でも実際、長期戦ではめちゃくちゃありがたいな……」

「ニーヤさん、がんばりどころですよ」

 ノクティアが微笑むと、ニーヤは少しだけ照れたように尻尾を揺らした。


「ルフィさんのは、どうですか?」

 サジが恐る恐る尋ねると、ルフィは胸をどーんと叩いた。


■ルフィアーナ

【王族格闘術】

【水竜王の加護】

【覇気:雛型】


「細かい説明は省く!! 要するに強い!!」

「雑!!」

 子どもたち全員から総ツッコミが入った。


    ◇


「では、わたくしもひとつ」


 父――エリーが、空になった皿を置きながら言った。


■エリー

【錬成:レベル1】

・同種の素材を組み合わせて“強度を上げる”

・金属や木材を、簡易的に補修・強化できる

・魔導器の細かな調整に向く素養


「ほう……これは、わたしの“手仕事”に近い感覚ですね」

 あーさんが感心したように見つめる。


「いいなぁお父さん。完全に“職人スキル”やん」

「だろ? こっち来てまで、また仕事増えちまったなぁ」

 エリーは笑うが、その横顔はどこか嬉しそうだった。


「で、よっしーは?」


「聞いて驚け」


 よっしーが胸を張り、ステータスを開く。


■よっしー

【アイテムボックス’89→’92】

・収納容量が拡張

・一部の“時代”が増えた(1992年頃まで)

・食材や物資の鮮度保持性能が上昇


「……92年まで解禁や!!」

「なんでそこでガッツポーズなんですか」

 ユウキが呆れ半分で言う。


「お前わかってへんなユウキ。

 ’92って言うたらなぁ……食いもんも音楽も、おもろいもんぎょうさん増えるんやで」

「いや音楽は今関係ないでしょ」

「カレーに福神漬けも付けられるようになりましたよ」

「あ、ちょっと便利かも」


 子どもたちは子どもたちで、自分たちのステータスを見せ合いながら、きゃいきゃいと盛り上がっていた。


「エリアナのは? なんか出てへんの?」

「え、あ、あの……」


■エリアナ

【静かな観察者】

・周囲の感情の“揺れ”を感じ取りやすい

・場の空気が悪化する前に、なんとなく察知できる


「……前に、村が滅ぼされた時に……何も言えなかったから……

 今度は、早めに“嫌な感じ”に気づけるように……ってこと、なのかな」


 エリアナがぽつりと呟くと、隣のミアがそっと手を握った。


■ミア

【癒やしの手つき:見習い】

・ささやかな疲労を和らげるタッチ

・撫でると、少しだけ心が落ち着く


「わ、わたしは……エリアナを、なでなで係……みたいです……」

「それ最強やん」

 宇美が即座に断言した。


「しんどい時に“なでなで”してくれる子はな、どんな勇者より大事なんやで」

「そ、そう……ですか?」

「ですです」

 愛子が力強く頷き、三人は顔を見合わせて笑った。


 ガガはといえば、自分のステータスの一部を誇らしげに指さしている。


■ガガ

【森走り】

・不整地での移動速度が速い

・転びにくい

【獣の勘:芽生え】

・危険な気配に、なんとなく気づきやすい


「ガガ、ニゲルノ得意! でも、ミンナトイッショニ、ニゲル!!」

「頼もしいですね」

 あーさんが微笑む。


「あなた方が“逃げ道”を作ってくだされば、前で時間を稼ぐ者たちも、安心して戦えますわ」


 こうして見てみると、一見ばらばらに見えた加護やスキルが、少しずつ“ひとつの陣形”のように繋がっていくのが、不思議で心強かった。


 そんなふうに笑い合う声を、ハッサンである私は、少し離れた場所から聞いていた。


(……良い)


 焚き火の匂い。

スパイスの残り香。

 遠くで鳴く恐竜の声と、猿どもの太鼓。


 その全部を包み込むように、ドームシールドの内側だけが、確かに「人の営み」の拍を刻んでいた。


    ◇


「さて──腹も満ちましたし」


 あーさんが、空のカップをそっと置いた。


「寝る前に、少しだけ作戦会議と参りましょうか」


 空を見上げる。

 二つの月が、さっきよりも高い位置にある。


「ここは戦場だ」


 エリーが、静かに口を開く。


「人間は食われ、猿は支配し……

 そしてあの“光学迷彩の狩人”が、弱った奴から順に狩っていく」


 クリフがうなずき、斧槍の柄を握り直した。


「猿どもの陣地は、さきほどの谷の向こう。

 恐らくは、崖下の森を抜けた先だ」

「ティラノ系の連中も、その辺りを縄張りにしているようでしたね」

 ノクティアが静かに付け加える。


「俺たち……大丈夫かな」

 ヤスが小さく呟く。


「足手まといになってない?」

「足手まといという言葉は、あまり好きではございませんわ」

 あーさんが、優しく首を振る。


「“皆で帰る”ために、誰が何を担うのか。

 その役割が、少しずつ形になってきているだけでございます」


 ユウキが、ヤスの肩をぽんと叩いた。


「お湯沸かし職人と録画係、めっちゃ大事やからな?

 この世界、風呂と情報は貴重品やで」

「そうだぞ、ヤス。お前が沸かした湯で飲んだ“あがり”は格別だった」

 クリフまで真顔で言うものだから、ヤスは思わず吹き出した。


「……なんか、ちょっと気が楽になったかも」


 その時だった。


 ノクティアが、ふいに顔を上げた。


「……来ます」


 その声音が、さっきまでとはまるで違っていた。


「風が、血の匂いを運んでくる。

 猿どものものとも、恐竜のものとも違う……“狩る側”の匂いです」


 シールドの外側で、遠くの太鼓のリズムが乱れた。

 悲鳴のような鳴き声が、いくつも重なる。


「光学迷彩種、ですか?」

 あーさんの問いに、ノクティアは小さく頷く。


「おそらく。

 この崖の下で、何かが始まっています」


 焚き火の炎が、かすかに揺れた。


 さっきまで笑い合っていた顔が、ひとつひとつ、戦場のそれに戻っていく。


「……束の間の平和、ってやつやな」


 よっしーが、空になった鍋を見てぽつりと呟いた。


「でも、ええやろ。

 腹は満たした。役割も見えた。

 あとは──“やれる範囲で”、やるだけや」


 ニーヤが立ち上がり、耳をぴんと立てる。


「我が主人。

 外の様子、見て参りますニャ」


「頼む。無茶すんなよ」

「もちろんでございますとも」


 リンクが肩から飛び立ち、ブラックが闇に溶けるように羽ばたいた。


 崖上のキャンプは、ほんの少し前まで「晩ごはんの場所」だった。

 だが今はもう、立派な“前線基地”だ。


 遠くで、光が瞬いた。

 ビームか、それとも何か別の武器か。


 この失われた地は、まだ本気を見せていない。


 それだけは、誰もが直感していた。


    ◇


◆後書き


 崖上キャンプ回でした。


 今回は、

・よっしー特製カレーでみんなの緊張をほぐす

・異世界転移ボーナスとして、それぞれの「非戦闘寄りスキル」や強化が判明

・最後にノクティアが“光学迷彩種”の気配を察知して、次回への不穏を残す


 という三本立てになっています。


 戦闘そのものはまだ始まっていませんが、

「誰が何をできるのか」「どこまでが自分の役割か」を整理するのは、

この先の地獄みたいな状況に耐えるための、かなり大事な時間です。


 ヤスの【お湯沸かし職人】【録って見せる】は、

一見ネタっぽく見えますが、情報戦と生活基盤づくりにはめちゃくちゃ強いスキル。

よっしーのアイテムボックス’92も、これからじわじわ効いてきます。


 次回は、崖の下で始まる「猿 vs 恐竜 vs 光学迷彩種」の本格的なカオス戦場。

崖の上組がどう関わっていくか、非致死・ほどほどでどこまで行けるか、

バランスを取りつつ描いていければと思います。


 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

崖の上に、よっしー特製のドーム型シールドが展開される。

外では、肉食竜の咆哮と、猿たちの夜警の太鼓が響いている。


だがシールドの中は──

少しだけ、平和だった。


「カレーライス完成やぁぁぁ!!」


よっしーが鍋の蓋を跳ね上げる。

香りが広がった瞬間、みんなの腹が鳴った。


「な、なにこの良い匂い…!」

愛子の目が真ん丸になる。


「うむ!辛いか!? それとも甘いか!?」

ルフィは例のキラキラ眼。


「カレーってのはなぁ、旨いもんや」とユウキ。

「せやけど説明が雑やぞ」とよっしーにツッコミ。


父はスプーンですくい──


「……うめぇっッ!!!」

叫び声が夜に響いた。


みんなも一斉に頬張る。


「ぅんまぁぁぁ!」

「辛ッ!でも美味しい!」

「ガガ、これ好き!!」

「わたしも!」宇美も負けじと言う。


ノクティアは無言で頷き、二杯目をよそった。


その和やかさが、束の間の救いになっていた。



「なぁなぁ!なんかスキル増えてへん?」

宇美が突然メニュー画面を開いて叫ぶ。


愛子も自分のステータスを覗き込む。

瞳が一瞬だけ光った。


■愛子

【勇気の火種】

・臆せず前に出られる

・仲間の士気を少し上げる


「えっ、何これ!? なんかRPGみたいやん!」

「そらRPGやろここ」とユウキ。


宇美も続く。


■宇美

【商才:ミニ】

・物の価値を直感で判断

・交渉時にちょっと有利


「や、やっぱ商売の才能あるんやわ私〜!」


ヤスもおそるおそる開いた。


■ヤス

【ボクサーの才能:微】

・パンチ力上昇

・ダウンしにくい


「うお!? 俺、ガチ格闘家路線っすか!?」


ルフィはドヤ顔で胸を張る。


【王族格闘術】

【水竜王の加護】

【覇気:雛型】


よっしー「いや盛り過ぎやてお前んとこだけ」


クリフ、よっしー、あーさんもスキル確認して盛り上がる。


そして──

ユウキの画面に白い光が走った。


■ユウキ

【名付けの権能:進化段階2】

付与対象の潜在能力を底上げする

(範囲・影響が拡大中)


「お前…また進化しとるやん」

よっしーが呆れる。


「わたしの力を、少し借りたものよ」

指輪が、かすかに熱を帯びる──

イシュタムの声が聞こえた気がした。



「さて……寝る前に作戦会議やな」


父が空を見上げる。

二つの月が、ほんの少し欠けている。


「ここは戦場だ。

人間は食われ、猿は支配し、

そしてあの“光学迷彩の狩人”が全てを狩る」


クリフがうなずき斧槍を握り直した。


「俺たち、足手まといちゃう?」

ヤスが少し震える。


「大丈夫です。守るために、我々がいます」

あーさんが静かに言う。


ノクティアが耳を澄ませた。


「……来ます。風が、血の匂いを運んでくる」


全員の表情が引き締まる。


束の間の平和は──

終わった。



【後書き】


・初めての“夜のカレー”

・初めての“ステータス確認”

・初めての“恐怖と生存会議”


盛りだくさんでしたが、ここから先は本格的な

サバイバル&戦場パートに突入します。


次回はまた、誰かの前書き視点で──。

夜はまだ長い。

月はまだ沈まない。


次回予告:


「追跡者は夜を好む」

闇の中、目覚める“狩人”の気配――

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