黒印工房(こくいんこうぼう)奇襲
(主人公・相良ユウキ=“綴” の視点)
朝靄の抜ける音がした。紙祠の裏口を出ると、砂鯨の背骨が東へ薄くのび、遠景に黒い煙柱が一本立っていた。煙は太く真っ直ぐ――あそこが帝国辺境の「黒印工房群」だ。
「燃料、試運転OKや。アルコール混合、ちょい薄いけど火は入る」
よっしーがボンネットをパンと叩く。白黒ツートンは砂の光を弾いて、相棒の顔をしていた。
「音は抑えたいが、要る時は遠慮なく“歌って”くれ」
俺は〈空結び〉の柱を一本低く立て直す。紙針は指に馴染み、旗の“綴”は朝の風で軽く鳴いた。あーさんが水筒を配って回る。
「長い道になります。喉を潤しませう」
「はーい。――ニーヤ、ブラックは?」
「帽子の上で寝てるニャ。猫はどこでも寝る。人間も見習うとよいニャ」
相変わらずだ。エレオノーラは短弓の弦を指で鳴らし、クリフさんは矢筒の重さを確かめる。
「いくか」
旗を掲げる。家の拍子が全員の胸に一拍入って、俺たちは砂縁を東へ取った。昼まで紙の道、そこから表の道。紙針が“祈り札”を読み解き、〈探索〉の糸が固い帯を選ぶ。ルゥがいないぶん、全員で目を配る。砂鯨の古傷に沿って進むと、午前の端で“風の段差”にぶつかった。
「砂縁嵐――“音”を食べるやつや」
よっしーが目を細める。見えないが、分かる。風が音を押し潰し、耳の奥が痺れる。旗が鳴らない。〈囁き手〉の微かな振動も、砂に吸われる感覚。
「“黙し”とは別の自然の“聴き取り”。ここで無理に走れば、音を失って転ぶ」
エレオノーラが低く言う。俺は紙針を握り直し、指輪の裏側を軽く叩いた。指の骨が鳴る――“小綴じ”。
《短結び:風の裾の縫い/効果:風段差の縁取り可視(微)、足場選択補助(小)》
風の裾が薄く“縫い目”として見えた。そこなら、音が少し通る。俺はよっしーのステアへ糸を渡し、〈地継〉を車輪に共有する。
「ここを、低い三拍子で」
「了解や。“タン・タン・ターン”やな」
ハチロクの回転が拍子を刻む。エンジンの歌は抑えめだが、十分な楔になった。砂縁嵐の縫い目をひとつ、ふたつ、渡る。旗がかすかに鳴る。家の音が戻ってくる。あーさんが安堵の息を漏らすのが分かった。
「……今の糸、面白いな」
エレオノーラが横目で微笑む。「風そのものを拒むのではなく、裾を借りる」
「イシュタムの“火”は強いが、風は借りるのが楽。――あーさん、具合は?」
「ええ、大丈夫にございます。……ユウキさん、先ほどから、糸の癖が以前より柔らかいように感じます」
「紙針のおかげだよ。飛沫を無理に引っ張らず、拾って“留める”ほうが、今の俺には合ってる」
あーさんは小さく頷いた。彼女の胸元の細い水糸が、風の裾と喧嘩をしないよう、そっと縮む。優しい糸だ。
砂縁嵐を抜けると、地平の黒煙が近づいた。黒印工房群――黒い石窯がいくつも並び、その上に鉄骨の櫓。天蓋のない歯車が回り、鐘が規則正しく鳴る。灰の匂いと油の匂いが混ざる。働く人影が蟻のように小さい。胸が引きつる。そこに“釘”が、札が、箱の金具が生まれる。
「正面からは無理や。見張も多い」
クリフさんが視線で数える。「昼の交代鈴が鳴る時刻がある。そこが最初の窓だ」
「なら、その一拍で入口を“綴じ直す”。俺とあーさん、ニーヤは中。よっしーとエレオノーラ、クリフさんは外で“音”を作って布を乱す」
「了解や。相棒の歌、聞かせたる」
「歌は短く」
エレオノーラが釘を刺し、よっしーは「はいはい」と笑った。
軋む灰と、工匠タリア
工房の裏手――灰捨て場の端に、小さな扉がひとつ。錆びているが、最近開け閉めされた跡がある。紙針で封をなぞると、札の裏に古い“綴じ”が混じっていた。帝国のものだが、素直だ。
「ここからなら、煤溜まりを抜けて“押し型場”に出られる」
声に振り向くと、灰山の陰から女が現れた。肩までの短い髪、灰を被った作業服、指には細かい火傷の跡。瞳は澄んでいる。
「タリア。黒印の二等工匠」
彼女は胸の前で短く礼をした。「……君たち、紙守の匂いがする」
「風の糸だ。紙守の世話にもなってる」
名乗ると、タリアの目が細くなった。「“綴”。この工房でも、密かに回し読みされる詩がある。箱は歌わず家が歌う、というやつ。私の友人が書いた。昨夜、姿を消した」
胸が詰まる。昨夜の“灰屋”と倉番の影が重なる。タリアは続けた。
「“押し型場”には“写音炉”がある。金型に“黙し”を刻むための聴き石。あれを壊せば、釘はただの釘になる。……だが、炉は赤衣の“段”で護られている。痣のない男の」
「来てるのか」
「時々、視察に。今日は……昼鈴の後に現れるはず」
タイミングは重なる。俺は旗の“綴”を撫で、あーさんを見る。彼女は真っ直ぐに頷いた。ニーヤは「猫は炉に近づくの得意ニャ。火の匂い、嫌いではない」と鼻をひくつかせる。
「タリア、危険だ。離れるなら今のうちに」
「離れない。あの炉で、私の師匠の声を“抜かれた”。声は出るが、歌えなくされた。……あれは“仕事”じゃない。呪いだ」
タリアの指が微かに震え、すぐに止まる。強い人だ。俺たちは彼女を先頭に、灰の扉を開けて工房の腹の中へ入った。
煤の匂いが喉に刺さる。床は灰の薄膜で滑る。〈地継〉で重心を少し下げ、足音を吸わせる。タリアが指で合図を送る。柱の陰、油の樽、風穴。中空に鉄の通路が張り巡らされ、上では黒帽子が悠々と見回っている。俺は〈囁き手〉の糸を耳に薄くかけ、鈴の拍子を拾う。もうすぐ交代だ。
「押し型場」
タリアが小さく囁く。広い空間の中央に、黒い炉がある。胴に無数の穴。穴それぞれに透明な石がはめ込まれ、薄く光る。炉の周りに金型とプレス機。端に十字の段を刻んだ台座。……嫌な造りだ。
「鈴が鳴るタイミングで、炉の“耳”を塞ぐ。その間に紙針で“段”を逆撚り。金型の上から札を剥がし、聴き石を“紙”に返す」
俺が小声で段取りを確認すると、タリアが頷く。「私が炉の側面の風穴を開ける。君は針。――君」
タリアはあーさんを見た。「水を薄く、噴くことは?」
「できます。糸でございますゆえ、柔らかく」
「頼む。熱を急に冷ますと爆ぜる。薄く、撫でるように」
あーさんの目が澄んだ。ニーヤは杖を構え、帽子を押さえる。「我が主人、合図は?」
「旗の“息”。一拍、吸って吐く」
俺は胸でひとつ息を作り、仲間の胸へ〈囁き手〉で渡した。全員の肩が同じ高さに動く。家の呼吸。――鈴が鳴る。
カン、カン、カン――。
作業が一瞬止まり、人の流れがゆるむ。その一拍で俺たちは床から走り、炉の脇へ滑り込んだ。タリアが側面の小蓋を開け、あーさんが水糸を一筋、風穴へ。ニーヤが〈風縫い〉で炉の“耳”の外側に風の薄膜を作る。炉の音が鈍る。俺は十字の台座に紙針を差し込む。
「“綴”、ほどけ」
針が段の谷間を撫で、飛沫が散る。紙針で拾い、胸の“綴”に留めて祠へ送る。台座の十字が、ほんの少し“ほどけ側”へ傾いた。炉の薄い唸りが乱れる。エレオノーラの影が上で動き、クリフさんが見張りの死角を作る。よっしーのハチロクが――工房の外で低く一拍鳴いた。囮の合図。黒帽子が十数人、外側へ意識を向ける。
「今!」
タリアが風穴に長い棒を差し込み、聴き石の房をひとつ引き出した。あーさんが水糸で石の表面を撫で、俺が紙針で“耳”の封を剥がす。石が“音”を吐いた。最初はうめき、それから微かな歌。紙祠がそれを飲み、炉の“耳”から“黙し”が抜ける。
「止めろ」
痣のない赤衣の声が背後から落ちた。薄い笑み。裾は灰で汚れていない。彼はこの場の汚れを、自分に付けない。
「また君か、“綴”。工房にまで来るとは、勤勉だ」
俺は針を止めず、目だけを向けた。「お前が来ると思った」
「思われて来た」
赤衣は十字の段を一段踏み、空気を固める。炉の唸りが持ち直す。だが、タリアの棒が再び動き、あーさんの糸が優しく冷やし、俺の針が飛沫を拾う。エレオノーラが高架から短い矢をひとつ、赤衣の足元の石に打った。音だけの矢。赤衣の視線がそちらへ半拍だけ滑る。
「君の“家”は、いつも余計な者を連れてくる」
「家は増える。お前たちの箱は減る」
言葉に熱はない。針に熱を集める。段の最後の結び目に紙針を通し、“逆撚り”。十字の台座が“ほどけ側”に落ちた。炉が咳をするみたいに揺れ、聴き石が一斉に鳴いた。工房じゅうの“音”が蘇る――金槌の、息の、革靴の、歌の。うるさい。けど、生きている。
「にゃーはっは! 音は猫のご飯ニャ!」
ニーヤがわけの分からない歓声をあげる。あーさんが思わず笑い、タリアの目が濡れた。赤衣の笑みが薄くなる。
「……面倒だ」
彼は袖の内で釘を二本弾き、俺たちの足元へ“見えない針”を飛ばした。紙針で一刺し、空間に留める。祠へ飲ませる。赤衣の眉がわずかに動いた。
「綴。君の針は、いずれ折れる」
「折れても、誰かが拾って“綴じ直す”」
「誰も拾わない時、君はどうする」
「旗がある」
短く答えた。旗の布は、工房の煤で汚れても鳴る。家の音だ。
灰走りと、鉄の回廊
「退がる!」
エレオノーラの合図で俺たちは炉から離れ、タリアの案内で鉄の回廊へ駆け上がる。下では工匠たちが戸惑い、黒帽子が怒鳴り、赤衣が段を踏む。よっしーのハチロクが工房の外庭に滑り込む――はずが、次の瞬間、白黒の鼻先が扉を突き破って中に出てきた。
「え、入ってくるの!?」
「そら入るやろ!」
よっしーがフロアを一筆書きで横切り、灰の床で尻を振って曲がる。エンジンは低い歌。音は抑えているが、十分に“生き物”の音だ。黒帽子が鎖を振って車体を狙う。〈地継〉で床の重みを車輪に渡し、俺は回廊の上から“重心返し”で瞬間的にグリップを増やす。ハチロクが灰を噛む。鎖が空を切る。
「こっちや、阿呆!」
よっしーが煽る。エレオノーラが回廊から黒帽子の鎖の根元を射て絡め、クリフさんがその隙に二人を落とす。タリアは回廊の操作盤に手を伸ばし、プレス機の動力を切った。金槌の音が止む代わりに、人の声が増える。
「出口は?」
「回廊の北端。吊り橋の向こうが灰捨て場――」
タリアの言葉の途中で、痣のない赤衣が回廊の終端に立った。十字の段を踏んだ音が金属の響きと混ざり、橋板が震える。彼は前へ出ない。動かずに“道”を塞ぐつもりだ。
「我が主人、別ルートニャ」
ニーヤが耳を伏せる。「天井の風抜きに“紙の継ぎ目”があるニャ。猫の幅」
「行けるか」
「猫だからニャ」
頼もしいのか頼もしくないのか、分からないセリフだ。だが時間がない。俺たちは回廊から支柱を伝い、天井の風抜きへ。紙針で板金の裏の“祈り札”の端を捉える。帝国の祈りは強張っているが、紙に“返る”道はある。あーさんが水糸で埃を抑え、タリアが工具でリベットを静かに抜く。エレオノーラが背中を押し、クリフさんが最後尾で赤衣の動きから視線を外さない。
板が外れた。冷たい外気。灰の匂いが薄まり、草の匂いが混ざる。風の抜け道を四つ這いで進む。俺が先、次にあーさん、ニーヤ、タリア、エレオノーラ、クリフさん。よっしーは下で黒帽子の注意を引きつけてくれている。――大丈夫だ。あいつは車と一緒に“生き延びる方法”を嗅ぎ分ける。
風抜きの先は、工房の北側に開いた斜面だった。灰と砂利。下は“灰道”。その向こうに、黒く光る川。工房の冷却水だ。さらに向こうに、砂鯨の小さな盛り上がり――固い帯。そこまで行けば、追手を一度切れる。
「よっしゃ、出られた!」
よっしーの声が遠く下から聞こえる。彼は工房の中をぐるりと回って、灰道の下手へ滑り出ていた。俺は手を振る。よっしーはライトを一瞬だけチカリと点けた。合図。エンジンの歌が、灰道の壁に低く響く。
「走るで!」
俺は旗を掲げ、家の拍子を全員に打ち込んだ。灰道を駆け下りる。足が滑りそうになるたび〈地継〉で重心を前へ寄せ、〈風縫い〉で背中に薄い押しをかける。あーさんの息は乱れていない。彼女は着物の裾をからげ、静かに、確かに降りてくる。タリアの足は工房育ちの足。灰を知っている。エレオノーラとクリフさんは言うまでもない。ニーヤは……猫だ。落ちない。
川の手前で、黒帽子の数人が待っていた。鎖、短剣、網。あ、網は嫌だ。俺は紙針で網の“縁”を一刺し、継ぎ糸を抜く。網が自分からほどけた。黒帽子が驚いている間に、クリフさんの拳が二つ、三つ入る。エレオノーラの矢が足元に打たれ、彼らは散った。
「乗れ!」
よっしーが灰道沿いにハチロクを滑らせ、助手席のドアを蹴って開ける。ニーヤが一番乗りで飛び込み、俺はあーさんの手を引いて後席へ押し込む。タリアも押し込む。エレオノーラとクリフさんは車の横を走る。砂鯨の固い帯まであと少し。
「後ろ!」
エレオノーラの声。工房の裏門が開き、痣のない赤衣が馬に乗って出てくる……かと思いきや、馬ではない。黒い小型の走行台車。鉄の車輪。“祈り釘”のレールの上を走る。帝国の玩具。速度が速い。
「線路や!」
よっしーが叫ぶ。「そこは車の道やない!」
「構わない。走る」
俺は〈地継〉で線路の“重み”を車輪に渡し、〈共振破り〉で鉄の振動とエンジンの歌を合わせる。ハチロクのタイヤは鉄ではない。だが、帯の上で一拍ずつ“乗る”ことはできる。赤衣の台車が背中で息を吐くように加速してくる。距離が詰まる。
「クリフ!」
エレオノーラが叫び、クリフさんが線路脇の信号柱に矢を一本、的確に射た。てこの先に結ばれた重りが落ち、先の分岐がガチャンと切り替わる。俺たちの先のレールは砂利へと“外れる”。赤衣の台車は直進。――この一拍で、帯へ乗る。
「乗れぇぇ!」
よっしーがステアを切る。俺は〈地継〉の重心返しを深くし、〈風縫い〉で車体を薄く押す。ハチロクが、砂鯨の盛り上がりにかすめるように乗った。タイヤが砂を噛む。車は生き物だ。生き物は“道”を選べる。
赤衣の台車は直進して工房の別棟へ吸い込まれた。痣のない顔が一瞬こちらを見た。笑っていなかった。無表情。次の時に深く来る顔だ。
風見谷の詩
二つの丘を越えて、俺たちは工房から十分に離れた。灰の匂いは薄れ、乾いた草の匂いが強くなる。タリアが後部座席で息を整え、あーさんが水を渡す。ニーヤはダッシュボードで丸くなり、ブラックはバックミラーに留まって羽繕いをする。クリフさんは後ろで矢を一本一本磨き、エレオノーラは空を見ていた。
「ここで一息」
小さな谷に、風見の塔が一本立っていた。紙守の小さな詰め所だ。タリアが塔の根元の石を二つ叩く。中から白髭の老人が顔を出し、俺たちを見ると目を細めて笑った。
「風と紙の匂い。それに……灰の匂い。何をほどいた」
「黒印の“耳”を少し」
俺が答えると、老人は「よくやった」と短く言って、塔の中へ招き入れてくれた。塔の壁には詩が何枚も貼ってある。昨夜、紙祠で見たような短い詩。そこに、見覚えのある筆致を見つけた。
《炉の耳 濡らせば 歌が還る
指の火傷は 家の紋》
タリアが声に出さずに読み、唇を噛んだ。彼女の友が書いたのだろう。老人が俺たちに薄い粥を出し、枕代わりの麻袋をいくつか積んでくれる。
「赤は来る。黒も。だが、風は来ない。ここは風の塔だ」
老人が塔の窓を開け、旗をかすかに振った。遠くの塔が応えるように旗を振り返す。紙守の網は、目に見えないところで広がっている。
「今夜はここで休め。夜明け前に出ろ。赤の段は昼に強い。夜は紙のほうが強い」
「恩に着る」
俺たちは礼を言い、交代で短く眠った。背中の傷はあーさんの糸で落ち着いている。彼女の手は優しい。俺は短い眠りの縁で、夢の白い部屋を見た。今回は赤衣は来なかった。代わりに、炉の中に投げ込まれた小さな“詩”が、紙針で引き上げられる夢。詩は濡れていて、けれど燃えなかった。
――
夜明け前。風は冷たい。砂鯨の背骨が薄く光る。黒煙の柱は遠くに残っているが、工房の“耳”は昨日ほど太く鳴らない。良い兆しだ。
「タリア、これからどうする?」
俺が問うと、彼女は空を見て答えた。「師匠を連れて、紙祠へ。歌を取り戻すために。……君たちは?」
「赤の本庁へ続く“碑の原”。祈りの釘と札、箱の元締めがある」
エレオノーラが短く言い、クリフさんが地図の東の端を叩く。「碑の原の縁に“鉄書院”がある。赤衣の書庫。あそこで“段”の根を読み替えられれば、街ごと救える」
「道は厳しい。碑の原は音を乱す石が積まれている。車も紙も、ただでは通らない」
老人が呟く。「だが、風は塔を知っている。旗があれば、抜け道は全くないわけではない」
「行ける」
俺は旗の“綴”を撫で、布の鳴る音を胸に入れた。あーさんが俺の袖をそっと引く。
「ユウキさん」
「うん」
「昨日からずっと、怖さはありました。……でも、呼べば、返ってくる音がある。旗の音。家の音。わたくし、それを信じます」
「俺もだよ、あーさん」
「はい、“綴”」
彼女が小さく呼ぶ。胸が軽くなる。よっしーが「青春やなぁ」と言いかけて、エレオノーラに睨まれて口をつぐんだ。
塔を出る前、タリアが小さな布包みを俺に渡した。中には、工房の金型で打ったはずのない、粗いが強い“印”。十字でも黒印でもない、風の糸を模した模様。
「私と、ここで働く何人かで作った“偽印”。“黙し”の網の目をすり抜ける小さな孔。道で困ったら、これを旗に縫って」
「受け取る。……また会おう」
「風の塔で」
握手。指の火傷が固く、温かい。旗に新しい小綴じが増える。家が少し大きくなる。
砂の劇場、音の試し
塔を離れて一刻ほど。砂の斜面が劇場の階段みたいに重なっている場所に出た。風が渦を巻き、音が不規則に跳ね返る。試されている気がする。ここで“旗の音”が食われるなら、碑の原では立っていられない。
「ここで、少し“音”を試す」
俺は旗を斜面の中央に立て、布の縁を指で軽く弾いた。布は鳴り、すぐに砂に吸われ、また戻ってくる。吸っては返す。呼吸だ。〈囁き手〉の糸を極細にして布の縁に沿わせ、〈風縫い〉で渦の縁に結ぶ。よっしーがハチロクのエンジンを低く回す。音は短い。だが、良い楔だ。エレオノーラが弓の弦を軽く鳴らし、クリフさんが矢羽根を一本撫でる。あーさんが水の小皿を手のひらに作り、ニーヤが尻尾で空気を叩く。全員の音が、少しずつ、渦と“相手”をしている。
「……いける」
俺は息を吐いて言った。「旗は鳴る。家は立てる」
砂の劇場の縁で、誰かが見ている気がして振り向いた。遠い砂丘の上に、小さな点。赤ではない。黒でもない。たぶん、風の塔の人。旗を見ていたのだろう。軽く手を上げる。点は消えた。
走る紙、走る車
午後。砂は石になり、石は碑になり始めた。碑の原の端。石の板に古い文字、刻まれた祈り、削られた名。音はよく跳ね、よく滲む。ここでの“段”は強い。だが、紙の道の“継ぎ”も深い。
「紙はここで薄くなる。……けれど、石の裏に紙が張り付いてる」
エレオノーラが碑の裏を撫でる。俺は紙針で裏の祈り札の端を拾い、糸を通す。〈地継〉を靴底に落とし、〈風縫い〉で足の裏に薄い押し。よっしーはハチロクの回転を極低に保ち、タイヤに“紙の滑り”を覚えさせる。
「ほな、紙と車、二重走行やな」
「そう。片方が滑った時、片方が拾う」
「夫婦みたいやな」
「誰と誰が?」
「知らん」
余計な会話で緊張を緩めつつ、一歩ずつ進む。石の板の間に“狭門”があり、旗を外すと通れない場所がある。旗は家。家が通る道しか、家は通れない。
狭門の途中で、石の影から黒帽子が二人飛び出した。ここまで来るのは予想外だ。鎖が無言で唸る。エレオノーラの矢は狭くて射てない。クリフさんが前に出、俺は紙針を横手逆手に握る。鎖が俺の喉へ伸びるのを、針の“逆綴じ”で縫い止める。鎖の継ぎ目をひと刺し、糸を抜く。鎖が勝手にほどける。黒帽子の目が見開く。クリフさんが一歩詰め、静かに倒す。
「二人だけ。先触れか」
「赤の目も近い」
エレオノーラが狭門の先を見やる。碑の原の真ん中に、黒い建物がへばりついているのが遠くに見える。鉄書院。赤衣の書庫。ここから風の塔は見えない。風は書かれない。――嫌な場所だ。
「今日はここまで」
俺は旗を碑の影に結び、紙祠の臨時の“結び”を作った。タリアにもらった偽印を旗の端に縫う。布が新しい音で鳴る。家の音が増える。
「明けてすぐ攻める。夜の紙の力で書院の縁まで寄る。昼は避ける。……それが一番の勝ち筋」
「了解」
全員の返事は短く揃った。夜の冷たさが少し早く来る。碑の原の影は濃い。あーさんが焚き火の代わりに小さな“湯の糸”を張り、手を温めさせてくれた。ニーヤは背中を丸め、ブラックは羽を膨らまして眠る準備。よっしーは車を布で覆い、エレオノーラは弦を緩め、クリフさんは空を半分だけ見上げた。
「ユウキさん」
「うん、あーさん」
「……歌を、覚えておりませぬ。けれど、いつか、この旅が終わったときに、皆で、歌を」
「歌おう。歌は“黙し”の逆だから」
「はい。……“綴”」
呼ばれるたび、胸の結び目が強くなる。旗が鳴る。風が応える。家は、立っている。
鉄の頁をほどく夜
夜半。“紙の道”が薄く光り、碑の原の影を縫うように延びる。鉄書院の塀は高いが、紙は塀の目地に忍び込んでいる。紙針で目地をなぞり、偽印を旗に浮かせて通る。中庭に薄い光。灯火は少ない。赤衣は段で明るさを絞るのが好みだ。静かに、音を殺し、読む。……それを“壊す”。
書院の中央に大きな書庫。扉は十字の段で封じられ、脇に黒帽子が二人。交代は三刻ごと。祠の札は裏口にはない。正面からほどくしかない。
「短拍で終わらせる」
俺は深呼吸し、旗の息を全員に渡した。よっしーは車を外周に忍ばせ、エレオノーラとクリフさんが左右の影。あーさんとニーヤは背後から。偽印の綴じを扉の端にかけ、紙針で段の谷を撫でる。十字は昨日の工房より深い。が、同じ言語だ。逆撚り、飛沫拾い、札返し。――扉が半ば開いた。
中は冷たい。鉄で背骨を組んだ棚に、紙と板。赤の段が鉤括弧のようにかかっている。札が束になって寝ている。……眠っているだけなら、起こせばいい。
「紙の子守歌、や」
よっしーが小声で笑い、俺は紙針で最初の札に指を入れる。〈囁き手〉を極細、〈風縫い〉を薄く。あーさんが水の呼吸を合わせ、ニーヤが“眠り”を見張る。エレオノーラとクリフさんは影で黒帽子の足音を数える。
札は、起きた。紙の上で、表情が柔らかくなった。段の釘が自分から抜けた。紙は紙に戻る。祠が口を開け、札はそこへ滑っていく。俺は一枚、二枚、十、二十――数えるのをやめた頃、棚の奥に“段の原書”があった。赤衣の段を記す“鉄書”。これを“読み替えられれば”、街の段は緩む。
「読めるか?」
エレオノーラが囁く。俺はページを一枚、紙針で持ち上げた。鉄の紙は重い。だが、紙だ。読みはじめる。〈囁き手〉で文字の“音”を口に出さずに聞き、紙針で意味の綴じ目を探る。――そこだ。ほんの小さな“綻び”。段を段たらしめるための、端。ここを“家”に繋げば、“段”は“綴じ”に吸われる。
「ここに印を」
あーさんが偽印を取り出す。タリアの印。風の糸を模した模様。俺は鉄書の“綻び”に偽印をそっと触れさせ、紙針で軽く縫い留めた。鉄の頁が一瞬だけ、柔らかく息をした。
《偽印“風紋”適用/効果:赤段の拘束力(微)低下、紙祠との接続(極小)/副作用:検知リスク(中)》
――その瞬間、外の鐘が鳴った。早い。交代ではない。警鐘。痣のない赤衣の足音が中庭に入ってくる気配。彼は早い。俺は鉄書の頁をそっと戻し、札の山を祠に流し込み、扉へ向かった。
「来るぞ」
クリフさんの声。赤衣は余計なことをしない。左右の黒帽子に合図、段を一段踏む。空気が固く、音が薄い。俺は旗を握り、布を鳴らす。布の音が段の上を滑り、札の音が地下で応える。家が、いる。
「また君か」
赤衣は本当にため息をつくみたいに言った。「君は忙しい」
「お前も忙しいだろ」
「君のせいで」
会話は短く、針は速く。俺は扉の“段”をもう一段ほどき、エレオノーラが矢で赤衣の裾の内側――針の袋を狙う。掠めただけだが、十分。袋の口が緩み、一、二本の釘が足元に転がる。ニーヤが〈風縫い〉で釘を“外”へ押し出し、あーさんが水糸で押さえる。よっしーが外で短くエンジンを鳴らし、黒帽子の視線が割れる。
「退く」
俺は旗を低く振り、全員に家の拍子を打つ。書院の庭を紙の継ぎ目で横切り、外周へ。赤衣は追う。追いながら段を踏む。碑の原は段に協力的だ。旗の音は薄くなる。紙は重い。……けど、道はある。
「こっち!」
よっしーのハチロクが碑の縁に鼻を出す。俺たちは滑り込み、車は紙の上を“走る”。タイヤが鉄でも、紙は走れる。〈地継〉と〈風縫い〉で走らせる。赤衣の段が背中を重くする。タリアの偽印が胸を軽くする。どっちが勝つか。家が勝つ。
碑の狭門を抜け、石から砂へ。赤衣の足音が一瞬、遅れる。砂は段を嫌う。旗が鳴った。家の音が勝つ。俺たちは砂の劇場を越え、風見の塔の影へ滑り込んだ。
明けの話し合い
夜明け。塔の老人が湯をくれた。俺たちは床に円になって座り、短い報告を交わす。鉄書の“綻び”に偽印を付けたこと。札を一山祠に返したこと。黒印工房の“耳”を塞いだこと。赤衣は生きていること。笑っていないこと。
「短い勝ちが、長い勝ちに繋がる」
老人が言い、エレオノーラが静かに頷いた。「明日は街が少し軽い。明後日はまた重くなる。……それでも、継ぐ」
「よっしー」
「んあ?」
「燃料、どれくらい?」
「もうひと暴れ分やな。あとは紙の道中心で行動や」
「了解。……あーさん、傷の様子は?」
「順調にございます。ユウキさんこそ、背中」
「問題ない。あなたが縫ってくれたから」
あーさんの目が柔らかくなり、「“綴”」と小さく呼んだ。胸が少しだけ熱くなる。よっしーが口を開けかけて、今度は自分で閉じた。成長だ。
塔の窓から外を見ると、東の空にうっすらと白い線。風の塔の旗が遠くで振られている。紙守の網が生きている。
「次は?」
クリフさんが短く問う。俺は旗の“綴”に指を置く。選択肢はいくつもある。碑の原の中にさらに深い“段の核”があるとすれば、そこを“綴じ直す”のが一番の効き目だ。だが、危険は跳ね上がる。もう一方――赤衣を“名前”で呼べる“縁”を作ること。彼をただの“職名”から人に戻す糸口。
「二手だ」
エレオノーラが先に言った。「私とクリフで碑の原に薄く入り、“核”の位置を探る。君たちは紙の道で“名前”の手掛かりを拾って。赤衣の“名”は段の強さを決める」
「了解」
俺は頷いた。「彼の足に“土の埃”がつく場所。碑の原と紙祠の境目。そこに“名”の抜け落ちた札があるはずだ」
「よし」
よっしーが手を叩く。「相棒、歌の準備はできてるで」
「歌いすぎないようにな」
「分かってるって」
旗を握る。布が鳴る。家の音だ。俺たちは立ち上がり、それぞれの道へ短く別れた。長い別れではない。家は散っても、旗でつながっている。
――
(ここから少しだけ視点が揺れる)
名を拾う道
碑の原の縁を紙の道でなぞる。紙針で裏札を拾い、祠に返しながら、抜け落ちた“名”の形を探す。あーさんが指先で札の端を撫で、「この書き手は“怒り”が強すぎます」と言う。ニーヤが「この札、猫の毛が一本ついてるニャ」と要らないことを言う。よっしーが「猫はどこでも毛を落とす」と真顔で返す。
三つ目の祠の手前で、札の束の中に“違和感”があった。書式は同じ。段も同じ。だが、筆圧が違う。呼吸が違う。名の“骨格”が、人のもの。――拾い上げる。
《札片:段文書/筆者:不明/“署名欄”に針の傷(極小)/“名”の痕跡:E・S》
「……エス」
俺は息を呑んだ。痣の男。最初の夜、市で遠くにいた、手を止めかけた男。彼が書いたのか。それとも、彼の“名”の一部がここに滲んだのか。
「“名”の骨が、ここに」
あーさんが札に手を添え、目を閉じる。水の糸が札の“乾き”を少し潤す。札が柔らかく息をし、指輪の裏が低く鳴った。
《名片取得:“エス”/効果:対象呼出(微)の準備/副作用:検知リスク(小→中)》
「呼ぶのは今ではない。……けど、いずれ呼ぶ」
「はい。“綴”」
俺たちは札を祠に返さず、小さな布袋に入れて旗の内側に縫い込んだ。偽印と同じ場所。旗は賑やかになっていく。家は賑やかだ。
核を探す道
碑の原の深部。石の配列は段の文法。エレオノーラは石を読む。矢で石の隙間に小さな音を打ち、跳ね返りで中空の形を想像する。クリフさんは足で石の温度を読み、昼に熱を吐く板と夜に冷える板を見分ける。
「ここ。深い穴」
エレオノーラが指す。穴の上に薄い石の蓋。十字ではない、輪。輪の段。珍しい。輪は繰り返し、永遠、鎖。赤衣の大段かもしれない。
「開けるのは夜に」
クリフさんが低く言う。「綴の針が要る」
彼らは印を残さずに引き返し、風の塔の影で合流した。
旗の下で
夕刻。全員が旗の下に集まった。報告は短い。札の“E・S”。碑の原の輪の蓋。赤衣の動きは今日は鈍かった。明日は重くなる。だから、明け方の一撃が必要だ。
「輪の蓋を、紙針で“切る”」
俺は言った。「開けるんじゃない。“綴じ直す”。輪を“家”の輪へ」
「歌は」
よっしーが尋ねる。「必要な分だけや」
「おう」
あーさんが俺を見る。「怖くなったら、呼んでくださいませ」
「呼ぶ。……“綴”は、呼ばれると強くなる」
「はい、“綴”」
旗が鳴った。家の音だ。
――
明けの核
夜が溶ける前、碑の原の“輪”の上に旗を立てた。布がほとんど鳴らない。段が濃い。紙針で輪のわずかな綻びを探す。偽印を旗に浮かせ、札の“E・S”を胸元に忍ばせる。エレオノーラが矢を番え、クリフさんが周囲の足音を消す。よっしーは車を遠巻きに置き、エンジンを温めない。ニーヤが気配を吸い、あーさんが水の糸で石の熱を均す。
「――いく」
紙針の先端が輪の“弱いところ”に触れる。〈囁き手〉を極限まで細くし、飛沫を拾い、祠へ送る。輪は自分から“回ろう”とする。その回転を、旗の家の拍子で“踊り”に変える。輪は“踊り”なら、家の輪になる。
「“綴”、回れ」
針をほんの少し回す。輪の結びが、ほどけずに“変わる”。段の力が拘束から循環へ。石の下の空気が柔らかくなる。……開いた。
穴の下は広間。石の床に大きな段の模様。真ん中に黒い柱。柱の足元に、小さな箱。――最初の夜の箱に似ている。十字の段が二重。金具は新しい。俺は降りる前に一息吸い、吐いた。
「気を引く」
エレオノーラが矢を一本、穴の向こうの石に射た。音が一拍遅れて返る。赤衣の足音が遠くから近づく。間に合う。降りる。旗が落ちないよう、布を柱にかける。家は下まで降りる。
箱に紙針を差す。十字の段の谷は深いが、昨日までの手応えが残っている。逆撚り、飛沫拾い、札返し。柱に祈り札。輪の段。――これは輪の“核”。輪が輪を守る。けれど、輪は踊れる。
「我が主人、赤、来るニャ」
ニーヤの耳が伏せられる。赤衣の足音が穴の上に。彼は降りない。段を一段踏む。空気が固く、音が薄い。旗が鳴らなくなる。家の音が遠い。……けど、消えない。
「“綴”」
あーさんの声が静かに胸を打つ。俺は針を止めず、旗の布を指で撫でた。布がわずかに鳴った。十分だ。箱の最後の結びがほどけ、蓋が半ば開いた。音が、薄いが、確かに溢れた。柱が一瞬だけ“歌”った。
「そこまで」
痣のない赤衣の声。穴の縁に彼の裾。今回は笑っている。少しだけ。嫌な笑いだ。
「君は“核”に触れた。――よく来た」
「呼ぶ時は、来る」
俺は箱の蓋を閉めず、紙針で飛沫を綴じながら、赤衣の裾の内側を見る。針の袋。針は少ない。代わりに、袋の縁に刺繍。……名前の欠けた刺繍。“E・S”の骨格に似た針目。
「エス」
俺は呼んだ。穴の上で、赤衣の肩がほんの少しだけ揺れた。裾の内側の刺繍が、呼吸をした。痣のある男ではない。だが、その呼び名は、赤衣の中の何かをかすめた。
「――誰の許しで」
赤衣の声が一瞬だけ低く、素の角度を覗かせた。彼はすぐに段を一段踏み、声を戻した。「……面倒だ」
「面倒でいい。面倒は“家事”だ」
俺は箱を半ば開けたまま、柱に偽印を一刺しだけ入れて、穴の縁へ戻った。エレオノーラが矢で赤衣の足場を半拍ずらし、クリフさんが俺の肩を引く。よっしーが上でハンドルを切って、砂の上でタイヤを鳴らす。旗が鳴る。家の音だ。俺たちは穴から滑り出、輪の蓋を薄く“家の輪”で綴じ直し、碑の原から一気に離れた。
結び目は増え、敵意は深く
塔に戻ると、老人が目を細め、「名を呼んだか」と言った。俺は頷いた。「欠けた名の骨を拾った。……彼は揺れた」
「次は、名を返す番だ」
エレオノーラが静かに言う。タリアの偽印が旗で光り、札の“E・S”が旗の裏で温い。クリフさんは矢を一本空へ向け、弦を鳴らした。よっしーはボンネットを撫で、「相棒も歌いたがってるわ」と笑った。ニーヤは尻尾で旗の裾を一回叩き、あーさんが「“綴”」と呼んだ。
家は、前に進む。結び目は増え、敵意は深くなる。けれど、旗は鳴る。紙針は折れても拾い、糸は切れても結ぶ。
次は――赤衣の“名”を“人の名前”に戻すこと。鉄書の“綻び”を大きくし、街に風を入れること。そして、俺たち自身の“家”を守ること。
風は、今日も、背中を押した。
“風の糸”は、旗の結びを確かめ、さらに東へ…




