小さな町へ――“近くの冒険者”の距離感
◆ 小さな町へ――“近くの冒険者”の距離感
移動が始まると、レオルたちは慣れた歩き方で先導した。
道と言うほど整っていない森道を、迷いなく進む。
枝を避ける動き、足場の選び方、立ち止まる間合い。
どれも「この辺を歩き慣れている」人間のそれだ。
よっしーが小声で言う。
「ええな……“近くの冒険者”って感じや」
「分かる。無理して強く見せてない」
俺がそう返すと、クリフさんも短く頷いた。
「土地に根を張る者の歩きだ」
その時、よっしーが何も言わずにラジカセを肩に担ぎ、
歩きながら再生ボタンを押した。
サザンオールスターズ――『旅姿六人衆』♪
音は小さい。
森のざわめきに負けない程度。
でも、歩調と妙に噛み合って、足が自然に前へ出る。
「おっ、ええ選曲」
俺が言うと、よっしーはニヤッとする。
「今はこれや。歩く時は“一座感”が要る」
カイが振り返って言った。
「なんだ、その箱。音が出てる?」
「旅の友や」
「……便利すぎない?」
「せやろ」
ナタルが会話に混ざる。
「この辺り、最近オークの動きが妙に揃ってるのよ。
集落が動いた理由……食料不足か、縄張り争いか」
「それか、“誰か”が煽ってる」
クリフさんが言葉を継ぐ。
「統制の匂いがした。野生の暴力ではない」
ミレイアが肩を回し、明るく言った。
「難しい話は町で!
今日はちゃんとベッドの日! それが一番大事!」
よっしーが即座に反応する。
「ベッド! 最高や!」
「マジで最高」
俺も全力で同意する。
あーさんが穏やかに微笑んだ。
「皆さまが無事で、何よりでございます」
フィオが頷く。
「ほんとに……。あ、あーさんって呼んでいいですか?」
「ええ、どうぞ。フィオさん」
ニーヤが俺に小声で言う。
「我が主人、この人たち、良い匂いですニャ」
「血の匂いが薄いですニャ」
「それ褒めてるんだよな?」
「褒めてますニャ」
⸻
◆ 到着――“小さな町”の灯り
森を抜けると、低い丘の先に小さな町が見えた。
城壁はない。だが、柵と見張り台があり、
夕暮れの中で灯りがぽつぽつと点き始めている。
♪旅姿六人衆 が、自然にフェードアウトする。
「着いた。ここが俺たちの町――リュネッタだ」
レオルが言う。
「ええ町やな」
よっしーが率直に言う。
「ちっちゃい町って、落ち着くねん」
門番がこちらに気づき、表情を変える。
「レオル! ミレイア! 無事か!」
「無事! それと報告がある!」
「あと、旅人拾った!」
「拾った言い方やめろ!」
町の空気は、戦場のそれじゃない。
人の声。鍋の匂い。
子どもの笑い声。
……それだけで、肩の力が抜ける。
⸻
◆ 休憩タイム――よっしーの“89アイテムボックス”炸裂
(BGM:ユーミン「やさしさに包まれたなら」)
町外れの屋根付き休憩所。
椅子と水桶。風が抜ける。
「はぁ……生き返る……」
俺が椅子に沈むと、よっしーが指を鳴らした。
「ほな、休憩タイムや」
虚空庫アイテムボックスから、
ポテト菓子、チョコ、そして――見慣れた“カップ”。
その瞬間。
♪ 松任谷由実――『やさしさに包まれたなら』
音が、ふわっと場を包む。
さっきまでの緊張が、ゆっくり溶けていく。
「……なにこれ?」
ミレイアが覗き込む。
「小さい鍋?」
「紙の容器……?」
ナタルが眼鏡を押さえる。
「カップ麺いうやつや」
よっしーが誇らしげに言う。
「お湯注いで、待つだけ」
「数分……?」
「魔法……?」
あーさんが両手で口元を押さえた。
「まぁ……! お湯だけで……麺が……!」
文明ショック、明治最大級。
湯気が立ち上り、香りが広がる。
みんなが、自然と覗き込む。
「……優しい匂い」
フィオがぽつりと言う。
食べる。
沈黙。
それから――
「……うま」
レオルの一言。
ミレイアが笑った。
「なにこれ! ずるい!」
ナタルは静かに言う。
「保存食の革命ね」
ユーミンの歌が、背中を押さない。
ただ、包む。
あーさんが小さく頷く。
「……やさしさに包まれる、とは……こういうことかもしれませんね」
ニーヤが尻尾を振る。
「我が主人、この輪、好きですニャ!」
ブラックは俺の肩で目を細める。
平和の合図。
――焚き火はない。
でも、確かに“輪”はここにある。
町の冒険者たちが加わり、
少し大きくなった輪が。
俺は、深く息を吐いた。
「……今日は、いい日だな」
よっしーが笑う。
「せやろ。旅は、こういう時間があるから続くんや」




