表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

329/360

王都地上編・その六 学園の朝と報告会



塔の上層へ戻る航路は、驚くほど穏やかだった。

 あの嵐の後の空は、まるで“拍の休符”のように静かで、

 トレノの浮遊音すら風に溶けていく。


「ソラリス塔上層まであと五分。進入許可、全階層承認」ミカの声が車内に響く。

「……ただいま、やな」よっしーがハンドルを軽く撫でた。


「塔に帰るってだけなのに、なんか“地上の風”の方が懐かしいですニャ」ニーヤが耳を揺らす。

「空が呼吸しておる。嵐の律が、鎮まった証だ」クリフが静かに目を細める。


 塔の外壁が見える。

 金属光沢の壁は朝日を反射して薄く光り、

 その上に無数の整備区画が展開していた。


「着陸完了。ソラリス塔・格納層Dブロック。……お疲れさまでした」

 トレノが床に触れると同時に、周囲の整備ドローンが滑るように近づく。

 彼らの頭部に埋め込まれたミカの紋章が淡く光り、無音で整備を開始した。



「……帰ってきたか」ユウキが深く息を吐いた。

「ふむ。塔も我らの帰還を喜んでおるようだ」クリフ。


「ミカ、次は報告会ですね?」あーさんが二鈴を胸で揺らした。

「はい。学園長室にて。皆さん、整備の間に軽食を取ってください」


「軽食て……カップラーメンないんか?」

「ありますニャ。ミカが最近再現したですニャ。すすり禁止ですが」

「すすれんラーメンて、そんなん食う意味あるか!?」

「音を立てたら停学ですニャ」

「地獄の学園や!」

 全員が笑った。





学園長室


 巨大なパノラマウィンドウ越しに、塔の上層を一望できる。

 ミカは白いコートを纏い、まるで“人”のように立っていた。

 彼女の背後には、七本の光柱――塔の各階層の律を象徴する拍――が穏やかに点滅している。



「ようやく帰ってきたな。嵐の層の突破、確認済み」

 ミカはいつもの機械音ではなく、どこか柔らかい声で言った。

「ワイら、ええ仕事したやろ?」よっしーが腕を組む。


「はい。非致死・ほどほど、完全達成。……そして、ガルーダもあなたたちを“認可”しました」

「認可?」ユウキが首を傾げる。

「風の上位存在からの“通行拍”です。今後、空層を通る際は嵐が避けます」

「ほぉ。ワイら、空の常連客やな」


 ミカが小さく笑った。

「それだけではありません。

 地上網“クロック・ルート”との共律が成立しました。

 塔と地上、二つの律が同調したことで――

 時空越境モード《ENISHI》の安定化パッチを適用可能になりました。」



「時空越境……つまり、また“時を越えられる”んだな」ユウキが息を飲む。

「ええ。ただし、今回は制御が安定しています。

 座標精度は±一日以内。行き先は“意志の向かう方角”に依存します」

「意志……か」


「ミカ、それはつまり?」よっしーが眉を上げる。

「はい。“どの時間に帰りたいか”――それを決めるのは、皆さんです」



 室内に一瞬、静寂。

 1989。明治。令和。

 それぞれの出自が、拍のように心の奥で反響する。



 よっしーがふっと笑った。


「帰るやつも、おるかもしれんな。でもワイはまだええ。

 せやけど……ひとつ聞かせてくれ。

 もしも、過去や未来に行って、何か“変えたくなったら”どうすりゃええ?」


 ミカは短く考え、答えた。

「変えたくなったら――“鳴らさず、触れる”ことです。

 拍を壊さず、蝶番を押す。それが、この世界での干渉の限界。

 あなたたちの言葉で言えば……鍵穴じゃなく、蝶番へ。」


 その一言で、ユウキの胸の奥にイシュタムの光がふっと灯った気がした。





幕間:学園中庭


 報告が終わり、全員で中庭へ。

 朝の光が塔の外壁を照らし、静かな花の香りが漂う。

 ガガが首飾りを光らせながら笑う。

「ガガ、ソラリス、スキ!」

「ガガも、立派な学園の一員ですよ」あーさんが微笑む。

「ダーリン、昼寝しよう!」ルフィが芝生に転がり、よっしーが嘆息する。


「どこでも寝られる体質やな……」


 ユウキは中庭のベンチで小さく呟いた。

「時空を越える……俺たち、どこまで行くんだろうな」

「拍があるところまで、ですニャ」ニーヤが隣に座る。


「それって、どこまで?」

「さぁ……でも、主、《あるじ》。どんな場所でも、きっと“静けさ”はあるですニャ」


 その時、風が一筋、塔の上を走った。

 白い羽根が二枚、ひらひらと舞い落ちる。

 まるで誰かが“おかえり”と言っているようだった。





再びミカの声


『準備が整いました。

トレノを再装備。

ENISHIモード、再び開放可能です。

次の目的地――“未明の境界”。』


「未明の境界……?」ユウキが目を上げた。

ミカのホロが淡く微笑む。


『はい。そこに、あなたたちを呼ぶ“もう一つの朝”が存在します。』





→次回予告:

王都地上編・その七 未明の境界 ― 呼び声の方へ

静穏の塔を出て、再びENISHIが開く。

行き先は“誰かの待つ時間”。

時を鳴らさず、彼らはまた飛ぶ。





次章(その七)は、

時空越境編:異時空(令和/1989/明治)どこかへの再渡航が始まる回です。

誰の「呼び声」から始めましょうか?

(例:ユウキの“令和側の呼び声”、よっしーの“1989ラジオノイズ”、あーさんの“明治の子守唄”など)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ