-地底探検の章- 第五層 根の座への道(接続)
瓦礫が舞い散る広間――崩れ落ちた王座跡に淡い光が差し込む。
ドラゴンゾンビもワイトキングの残骸も、既に静まり返っていた。
だが、仲間の誰も安心はできなかった。
「……王冠は終わったけど、“根”が残ってるってわけか」
ユウキの言葉が、広間の闇に響いた。
ノクティアは、崩れた玉座の側で手を膝についたまま静かに立ち上がる。槍を掲げ、目を閉じて胸中で祈るように指を動かす。
「ここが、終わりではない……」
彼女の目が開くと、暗闇の奥に薄い光の筋が見え始めた。黒糸の根が、壁から床へともつれ落ちていた。
クリフが懐から懐中鏡を取り出し、光を反射させて根の流れをたどる。
「この方向……下へ続いてる。階段か螺旋道か」
あーさんは鈴をそっと鳴らす。音は即座に薄れていったが、残響として“拍”だけが、根のラインに沿って反響した。
ニーヤがのびやかに尾を揺らし、影を探るように視線を巡らせる。
よっしーは、重い岩片をどかしながら言う。
「道を作るで。皆、気をつけや」
セドリックが杖を掲げ、淡く輝く地図符文を描く。
「この術式……空間補正か。根の流れを追える」
イルマが隣で補助魔術を付け加える。
「追跡と遮蔽、両立させますね」
ユウキは指輪を見つめながら、静かに言った。
「アンリの指輪……あいつの拍を、頼ろう。今度は根へ、鐘を鳴らさずに進む」
その声と共に、根の一本がわずかに震え、淡く光った。
闇の階段が、ゆっくりと姿を現した。
その先には、黒糸のカーテンのような闇が揺れていた。
ノクティアがひと息つき、槍を少し前に押し出す。
「行きましょう。これが、“根の座”の入口ですわ」
ユウキは軽く頷き、仲間を見る。
クリフ、イルマ、セドリック、あーさん、ニーヤ、よっしー――皆が覚悟を決めた表情で彼に視線を向ける。
そのとき、根の闇の奥から、かすかな音が響いた。
遠くで鐘のような残響──鳴っていないはずの拍が、何かを呼ぶように。
ユウキは拳を握り直した。
「鐘を、鳴らさない。蝶番を、外す」
その決意が、空気を震わせた。
彼らは、螺旋の闇へ、ゆっくり足を踏み出した。




