-地底探検の章- 第五層「王座と影冠(前編)」
崩れた石段を降りた瞬間、空気が変わった。
湿り気も、腐臭も、ここにはない。
代わりにあるのは、まるで“祈り”を反転させたような、重い沈黙。
黒い大広間の中央。
王座に腰掛けていたのは、黄金の冠をかぶった骸骨の王――ワイトキング。
その眼窩には、紅い双炎が揺れている。
「来たか、地の上の者どもよ……」
声が、骨の隙間から響いた。
いや、声ではない。魂そのものが空気を震わせている。
ノクティアが槍を構え、祈るように呟く。
「この気配……王にして、災厄。
皆さま、鐘は鳴らさせませぬように」
ユウキは深呼吸を一つ。
「蝶番を外して、帰ろう……それが俺たちのやり方だ」
次の瞬間、王の杖がわずかに動いた。
天井から降り注ぐ黒糸の雨。
それが触れた石像たちが、一体、また一体と目を光らせていく。
「王の影兵だッ!」セドリックが叫ぶ。
「イルマ、結界を展開!」
「了解ッ!!」
青い光が円陣を描き、仲間たちを守る。
だが、闇はその上からも滲み込んでくる。
クリフの矢が次々に闇を裂き、ニーヤの炎が突き抜ける。
よっしーが投げたフラッシュカプセルが閃光を放ち、
ブラックの風が一瞬の隙を作った。
「いまだ、セドリック!」
「《雷鳴突》!!」
稲妻が走り、影兵の群れを薙ぎ払う。
だが、ワイトキングはわずかに笑った。
その手にある王笏が、淡く光る。
「我が影は無限……滅しても、また生まれる。
貴様らの命が尽きるまで、な」
闇の波が再び押し寄せた瞬間――
ユウキが前へ踏み出した。
「だったら、その蝶番ごと外す!」
拳に光が集まり、轟音が走った。
だが王の体はびくともせず、逆にユウキを押し返した。
「まだだ、ユウキ様!」あーさんの二鈴が鳴る。
光の粒が散り、仲間たちの周囲に集まる。
「“非致死・ほどほど”の拍を守りましょう! 焦れば拍が乱れます!」
ユウキはぐっと息を呑み、拳を握り直す。
「……そうだな。あんたの言葉、信じるよ」
背後でノクティアが祈りを捧げる。
「夜に安息を、闇に静寂を──《ルーメン・サリエル》!」
槍先が天を突き、聖光が炸裂。
闇と光がせめぎ合い、王座の周囲が崩れ始めた。




