-地底探検の章- 黒糸の門・顕現(後編)
闇の奥から、低い詠唱が重なった。
黒糸の門がさらに裂け、その中から骸骨にローブをまとった影が浮かび上がる。
「リッチ……!」
ノクティアが槍を構え、喉奥で低く唸った。
「奴らは死霊を束ね、黒糸を核にして群れを増やす。ここからが本番よ」
リッチは杖を掲げ、黒炎の弾を雨のように撃ち放つ。
ニーヤが慌てて叫んだ。
「《アイスシールド》!!」
氷壁が広がり、炎を受け止めて蒸気に変える。
だがリッチは嗤った。
「……まだ遊び足りぬ」
黒糸が門から垂れ下がり、石畳に広がる。
その先で、巨大な骨が軋みながら組み上がっていく。
「まさか……」
クリフが矢を握る手に力を込めた。
やがて姿を現したのは、腐肉の翼を広げた巨影。
ドラゴンゾンビが、咆哮と共に瘴気を吐き散らした。
「うわっ……な、なんやアレはぁ!?」
よっしーが顔を引きつらせる。
「落ち着け。鐘を鳴らさせぬために、俺たちは核を断つんだ!」
ユウキが吠え、仲間へ視線を走らせた。
「サジ! カエナ! 道を作れ!」
「おう! 撒菱、いけーっ!」
「竹槍もいけー!」
双子の乱雑な声と共に、前線に隙が生まれる。
セドリックの雷鎖が、イルマの氷矢が、ノクティアの槍が――同時に黒糸の束へ突き立った。
「……今だ!」
ユウキが拳を握りしめ、叫んだ。
「蝶番を外せぇぇぇっ!!」
轟音。
黒糸の門が裂け、巨影が半身を出したところで、光が全てを飲み込んだ。
――ドラゴンゾンビの顕現は、阻まれた。
だが、その代償として、通路全体に冷たい余韻が満ちる。




