↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏に鳴らぬ鐘、イシュタムの魂を宿すさえない俺  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/462

薬屋の二階と帰る場所

 薬屋の二階と帰る場所


前書き


人を助けることは簡単ではありません。


助けたつもりでも、

相手がそれを望んでいないこともあります。


手を差し伸べても、

振り払われることもあります。


それでも――


誰かのために動こうとする人がいるから、

世界は少しだけ優しくなれるのかもしれません。


今回はモンテーヌの町で出会った少女、

ライラのお話です。


⸻


本文


(主人公・相良ユウキ視点)


「ちょいと待ちな、アンタら」


薬屋を出ようとした時だった。


後ろからしわがれた声が聞こえた。


振り返ると、

店の奥から一人の老婆が姿を現した。


白髪混じりの髪。


背中は少し曲がっている。


だが、その目だけは妙に鋭かった。


「婆ちゃん!」


ライラが慌てて声を上げる。


どうやら彼女の祖母らしい。


老婆は俺たちを順番に見回した。


そして小さく頭を下げた。


「孫を助けてくれたんだろう?」


「いや、まぁ……」


俺は頭を掻いた。


別に礼を言われるようなことでもない。


見過ごせなかっただけだ。


「たいした礼はできないけどね」


老婆は言う。


そして。


「泊まるところはあるのかい?」


俺たちは顔を見合わせた。


ない。


普通にない。


今夜も野宿予定だった。


「実は無いんや」


よっしーが笑う。


「いつもその辺で寝とる」


「アンタら馬鹿かい」


即答だった。


「山賊も魔物も出るのに」


「いやぁ〜」


「笑い事じゃないよ」


正論である。


⸻


老婆は店の天井を指差した。


「二階が空いてる」


「え?」


「昔は薬草置き場だったんだけどね」


ライラが慌てる。


「婆ちゃん!」


「なんだい」


「勝手に決めるな!」


「だったら追い出すかい?」


ライラが黙った。


図星らしい。


「助けてもらったんだろう?」


「……」


「恩は返せる時に返すもんだ」


ライラは不満そうに頬を膨らませた。


「好きにしなよ……」


そう言って奥へ引っ込んでしまう。


⸻


結局。


俺たちは薬屋の二階を借りることになった。


階段を上がる。


ギィィ……


嫌な音がする。


扉を開ける。


「うわ」


思わず声が出た。


埃。


蜘蛛の巣。


薬草の山。


木箱。


謎の袋。


完全な物置だった。


「なるほどな」


クリフさんが苦笑する。


「確かに空いている」


「空いてるだけやな」


よっしーも笑う。


⸻


すると。


「まぁ!」


あーさんが目を輝かせた。


「お掃除でございますね!」


なぜ嬉しそうなんだ。


「あーさん?」


「お任せくださいませ!」


そう言うと袖をまくった。


明治の乙女がやる気である。


⸻


そこから大掃除が始まった。


よっしーは箒をコピー。


バケツをコピー。


雑巾をコピー。


何でもコピー。


「お前便利すぎるだろ」


「そうか?」


自覚が無い。


⸻


一時間後。


部屋は見違えるようになっていた。


窓から夕日が差し込む。


床も見える。


寝場所も確保。


「おお……」


クリフさんが感心している。


「さすが千鶴殿」


「ありがとうございます」


あーさんは嬉しそうだった。


⸻


その夜。


一階で夕食をご馳走になった。


野菜スープ。


黒パン。


燻製肉。


豪華ではない。


だが温かい。


「いただきます」


ライラは黙々と食べている。


あまり喋らない子だ。


⸻


しばらくして。


老婆がぽつりと言った。


「本当ならね」


全員が顔を上げる。


「ここにはもっと賑やかな声があったんだよ」


ライラの手が止まる。


「婆ちゃん」


「父ちゃんも母ちゃんもいた」


静かな声だった。


「薬草を採りに行ったまま帰らなくなった」


空気が重くなる。


⸻


「どれくらい前なんですか?」


俺は聞いた。


「三ヶ月だよ」


長い。


長すぎる。


普通なら死んだと思う期間だ。


⸻


「山賊だって話さ」


老婆が言った。


「人さらいも出る」


クリフさんの表情が変わった。


「やはり……」


何か知っているらしい。


⸻


ライラは顔を伏せた。


「父ちゃんは生きてる」


小さな声だった。


「絶対生きてる」


誰に言うでもない。


自分に言い聞かせるように。


「だからアタシが店を守るんだ」


⸻


その夜。


眠れなかった。


ふと目が覚めた。


窓の外を見る。


月明かり。


そして。


一階の裏庭。


小さな影。


ライラだった。


⸻


一人で泣いていた。


声を殺して。


肩を震わせながら。


⸻


俺は何も言えなかった。


だが。


隣に誰か来た。


あーさんだった。


彼女も気付いていたらしい。


⸻


「心配でございますね」


小さく呟く。


「そうだな」


「まだ子供にございます」


風が吹く。


⸻


あーさんは遠くを見る。


「わたくしも父と母がおりました」


明治三十五年。


遠い時代。


「突然会えなくなることの辛さは……分かる気がいたします」


⸻


翌朝。


事件は起きた。


薬草採取に出たライラが帰ってこなかった。


⸻


「何だって!?」


老婆が立ち上がる。


「昼には戻るはずだったんだよ!」


嫌な予感しかしない。


⸻


クリフさんが立ち上がった。


「探そう」


即答だった。


「まだ遠くへは行っていないはずだ」


⸻


俺たちは森へ向かった。


ライラの足跡を追う。


そして。


見つけた。


⸻


薬草籠。


破れた布。


争った跡。


⸻


「クソッ……」


嫌な予感が確信に変わる。


⸻


クリフさんが地面を見る。


「複数人」


「え?」


「人の足跡だ」


森の奥へ続いている。


⸻


「山賊か」


俺が言う。


クリフさんは頷いた。


⸻


その時。


木陰から矢が飛んできた。


ヒュッ!


⸻


ガキン!


クリフさんが弾く。


⸻


「何者だ!」


⸻


森の奥から男が現れた。


弓を持っている。


三十前後。


鋭い目。


⸻


「……見つかったか」


男は苦笑した。


⸻


そして。


その後ろから現れる。


武装した男たち。


⸻


先頭に立つ大男。


熊みたいな体格。


巨大な斧。


⸻


ガレス。


⸻


その隣。


槍を持つ男。


ルガー。


⸻


さらに。


弓使いカシオン。


大剣のアーサー。


⸻


完全に山賊だ。


⸻


ガレスが俺たちを見る。


「その娘の知り合いか」


低い声だった。


⸻


俺は剣を抜く。


「ライラはどこだ」


⸻


ガレスは黙る。


⸻


そして。


静かに答えた。


⸻


「話をする気はある」


⸻


その言葉に。


俺は少しだけ違和感を覚えた。


⸻


普通の山賊なら。


こんな顔はしない。


⸻


まるで。


何か事情を抱えている人間の顔だった。


⸻


だが。


ライラを連れ去ったことに変わりはない。


⸻


俺たちは知らない。


この先で待つ真実も。


ライラの両親の行方も。


そして。


ガレスたち黒狼団が抱える事情も。



次回へ続く






⸻


後書き


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回はライラ編の導入回となりました。


薬屋の二階。

ライラとの距離。

そして失踪した両親。


モンテーヌでの出会いは、思わぬ方向へと進み始めます。


次回は黒狼団との本格的な接触。


山賊は本当に悪なのか。


そしてライラの両親は生きているのか。


ユウキたちの新たな人助けが始まります。


応援コメントや評価をいただけると励みになります。


それではまた次回お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。