想定外だ……やっぱりアマーリアはすごい(アーサー視点)
何の手立ても蓄えも無く彷徨う旅は辛く困難だ。
五年、十年、それ以上――――執念の果てに、アーサーがフェニックスの住むという秘境の山頂に辿り着いたのは、歳月を数えられなくなった頃だった。
「俺の命を捧げる! だから、どうか時を巻き戻し、アマーリアを生き返らせてくれ!」
彼の運がよかったのは、探し出したフェニックスの番が、あのドラゴンだったこと。
自分の番が、異世界転生者の聖女に歪められ番えなくなったことに怒りを覚えていたフェニックスは、アーサーの望みに応えてくれた。
『お前の願いを叶えよう。――――だが、時を遡った後、以前の記憶を覚えていられる者は一人だけだ。他の者の記憶は封じられ、放っておけば前と同じことを繰り返す。もちろん我は覚えているが、我は人の世界へは干渉できない。主を決めて契約すれば可能だが……それは今ではないからな。――――慎重に選ぶがいい。人の王の子よ。誰の記憶を残し、運命を委ねる?』
フェニックスの言葉を聞いたアーサーは、考えた。
そして、記憶を覚えていられる者としてアマーリアを選ぶ。
そうすれば、最悪でも彼女だけは逆行転生前の記憶を生かし生き延びることができるはずだから。
アマーリアさえ、死の運命から逃れられるのなら、それで構わない。
(それがまさか、俺や他の者たちまで、みんな救い上げるとは――――やはり、アマーリアはすごいな)
フェニックスとアーサーのやり取りなどまったく知らぬはずなのに、彼女は自分の思うがままに二度目の人生を謳歌し、それだけでアーサーばかりか聖女やドラゴン、騎士団長まで救ってみせた。
(アマーリアには敵わない)
心からそう思う。
アーサーが、逆行転生前の記憶を取り戻したのは、今のアマーリアとはじめて会った際のアトリウムのある塔の上だった。
前世など欠片も覚えていないアーサーは、我儘放題で先に階段を上る婚約者の少女の背中を追いかけながら、何が何でも離されたくないと思っていた。
置いていかれてはならないと必死に足を動かす自分が、自分でも不思議だ。
なんでこんなに一生懸命になっているのだろう?
それに、心臓があり得ないくらいバクバクと高鳴っているのは、どうしてなのか?
(俺は負けず嫌いだし……それにこんなに階段を上れば動悸が激しくなるのは当然だ)
どこか言い訳じみたその考えは、最上階に辿り着き、そこから見える展望に――――いや、その展望に目を瞠る“アマーリアの横顔”を見た瞬間に、吹き飛んだ!
広がる空と吹き渡る風。
そして、喜色満面に笑うアマーリア。
ドン! ――――と、心に目に見えぬ衝撃を受けた。
雷に打たれたように……いや、腹の奥底から雷が発生したように体がしびれる。
アーサーのすべてを打ち壊し、封じられた記憶が蘇ったのだ!
同時に、泣きたいくらいの安堵が溢れてきた。
あれほど願ったアマーリアが隣にいるというその事実に、心が震える。
衝撃で言葉が詰まり、やっと出たのは一言だけだった。
「…………すごい」
こんな奇跡があるのだと。
そして、その奇跡を自分が成し遂げたのだと。
そう思う。
幸いにしてアマーリアは、アーサーの態度を塔からの景色に感動してのものだと思ってくれたようだった。
今ここで自分も前世の記憶が蘇ったなどと告げても、距離を置かれるだけだろう。
そう思った彼は、そのことに関しては口を噤む。
なんと言い訳してもアーサーは、アマーリアを処刑してしまったのだ。ここは素知らぬ顔をして、ずっと傍にいる方がいい。
アーサーは、心の動揺を景色に感動したことにして、アマーリアと並んだ。
そっと握った彼女の手に力を込める。
もう二度と離さないと決意した。
――――そして、そのためならば、どんな非道なことでもやろうと思っていたのに。
その後のアマーリアの行動は、アーサーの予想をはるかに飛び越えた。
覚醒する前に殺すしかないかと思っていた聖女を、彼女はとんでもなく平和的な方法で封じてしまったのだ。
(まさか、聖女の環境を改善し肥え太らすことで覚醒しないようにするなんて、俺には考えつきもしなかったな)
ドラゴンの場合もそうだ。未成熟なうちに卵を孵しホーリードラゴンに変化させる方法があるなんて、まったく気づかなかった。
(狙ったことではないようだが、いや、やはりアマーリアだからこその結果だろうな)
騎士まで魅了してみせたのは驚くしかなかったが、おかげでアマーリアを狙うライバルが増えてしまった。
救いは、アマーリア自身が色恋沙汰にはとんと鈍く、イアンの気持ちに少しも気づいていないことだろう。
…………時々、自分の気持ちにも気づいてくれていないのではないかと思うのだが。
(いや。まさかそんなことはないよな? 前世と違って今の俺たちは、ずっと仲のいい婚約者なんだから)
――――このアーサーの懸念が当たっていたことが判明するのは一年後。
結婚式の当日だ。
『どれ、では我が“番”に会いにいくことにするかな。人の世に赴くのは数百年ぶりとなる。よろしく頼むぞ、我が”主”。……楽しみだな』
フェニックスが、バサリと炎の翼を広げた。
――――数日後、フェニックスの背に乗ったアーサーは、人類初のフェニックスマスターとして、華々しく帰国する。
それを見て嫌そうに顔を顰めたアマーリアを、思いっきり抱きしめた。
これで完結です!
ありがとうございました!




