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野望の末路

よろしくお願いします。この話でおしまいです。

 それから俺たちは普通のデートもしたけど、お隣さんということもありお互いの部屋を行き来した。半同棲と言えば聞こえはいいが、いつもご飯を作らされ部屋の掃除もさせられた。洗濯だけはフミカがやってくれたけど、単に下着を触らせたくないだけのことだ。お前の下着なんていいよ。ショーツ被った変態仮面になるわけでもあるまいし。


 実際もうシてるのにこだわる理由がわからない。それより、彼女の欲求は強く激しかった。さすが元サキュバスである。正直、仕事で疲れてる時はカンベンして欲しかった。



 藤堂さんが約束通り「ザ・マッカラン」を十本持って来てくれた時のことだ。もちろん京子さんを同伴して。もう、タヌキ姫は杖を持っていなかった。回復は順調なようだ。


 当然彼女は俺とフミカが一緒にいるのを見て言葉を失ってた。きっと、悪魔と良からぬ契約を結んだと思ったのだろう。それは当たってると言えるかも知れない。




 そんな暮らしの中で俺はある決心をしていた。フミカに悟られないよう胸の奥深くに秘めて。簡単に言うと、フミカは人間になりたくてなったけど、俺はもう世の中に、人間であることにウンザリさせられてたんだよ。


 フミカとのドタバタ暮らしもそれなりにしあわせなんだろうけど、人間はもっともっとと満足することを知らないんだ。何の取り柄もないちっぽけな俺に悪魔が囁いたんだよ。そう、本物の悪魔はいつだって人間の欲望の中に存在してるんだ。それに比べりゃフミカなんて悪魔もどきの可愛いもんさ。



 フミカとの日常は不思議と俺の心を落ち着かせた。やってるドタバタと真逆なほどに。振り返る余裕を与えてくれたんだよね。根本的にスキルの低い俺は、思えばいつも目先に振り回され、翻弄され続けて来た人生だったもん。進学も就職も実生活でさえも。


 そうやって身に付けたのが落としどころを知るってことで、まあこんなもんだろうって適当さだった気がする。本当は違うんだって思うけど、手に入らないものを望んでもしょうがないって諦めてたんだ。



 人間はエゴイスティックの塊だ。それは自分を守るために不可欠な本能なのかも知れない。好きな人を思いやる、フミカを大切にしたい気持ちはある。だけど、その思いすら自分のエゴじゃないのか?エゴがうまく行かなくなると、より一層固執する。由佳ビッチはその代表格だったけど、藤堂先輩や京子さんのように「いい人」と呼ばれる面々でもエゴを優先させてたじゃないか。


 もちろん偉そうに言えるわけじゃない。俺だって他人の願望に振り回されながらも、少しは抵抗を試みて来たから。人と人とはどこまでわかり合えるのか?恋人同士になって、結婚して、互いに理解を深めながら未来を築いて行くなんて、有り得ないくらいの絶望的確率なのに。しあわせを当たり前に考える愚かさに何故気付けない?


 そこに希望があるからって?例え叶っても、また次のゴールが出現するのさ。見果てぬ夢を掴もうと永遠にもがき、追い続けて消耗し切って力尽く。その姿を称賛したがるのは、辿り着けないゆえの悲しき美学だからだろう。


 可能性を見出すとしたら、確率を上げようとしたら、時間軸をずらすしかない。人の一生は切ないほど短すぎるんだよ。


 俺はエゴにこだわりたくなった。初めて他人を振り回す主役になりたがってたんだ。




 一年後、俺はフミカと結婚した。今、新婚旅行先のナイアガラにいる。そう、ここは初めてフミカと訪れた思い出の場所だ。もちろん今はアメリカンチャイルドからカツアゲなどしないけど。


 俺たちは展望台で記念写真を撮りに掛かった。三脚でデジカメをセットして、三十秒のタイマースタートだ。俺はフミカをお姫さま抱っこする。新妻がニッコリ微笑んでレンズに目線を移した時だった。彼女を抱えたまま踵を返し、「キャッホー!」と奇声を発しながら崖に向かって突進する。各国から来た観光客はパニックになったように仰け反って道を空け、人波が真っ二つに割れて行く。


「ちょ、ちょっと、マサハルゥ!何考えてるの!?やめて!やめてよォ!」


「フミカ、悪魔よりひどいことを出来るのが人間なんだよ。こんな茶番こそ、もうやめようぜ」


 俺たちは一つの塊のまま、勢いよく滝壺へダイブした……。




 そして今、俺は天空界で男の夢魔「インキュバス」の仕事をやっている。フミカは再び「サキュバス」に戻り、相変わらず俺たちは夫婦だ。


 何でこうなったかって言うと、滝壺の水面に激突する直前、ゼウスさまが掌を差し出してくれたからだ。かっさらわれたとも言うけど。


 俺には計算があった。フミカはゼウスさまの唯一の子供だ。例え愛人との子でも、直接血を受け継ぐ掛け替えのない存在なのだ。全能力を駆使してでも救うに決まってる。俺ごときに殺させるわけがないのだ。



 ゼウスさまには嫌われただろうけど、フミカは俺と別れない。やがて彼女はゼウスさまの後継者となって天空を支配するだろう。俺はその傍らでチャチャを入れ、大宇宙を間接的にコントロールするのだ。このとてつもない大ロマンを実現するのが俺の最終目標である。そう、悪魔以上の悪魔になって、神を騙して利用してやるのだ。



 しかし、ここに誤算があった。同じ夢魔として夫婦になり一件落着かと思うだろうが、これはゼウスさまが図った、大切な一人娘をパニックにさせたことへの意趣返しである。


 俺は今、窮地に立たされている。インキュバスの仕事は夢の中で女の人を誘惑することだ。もちろん、フミカは浮気を許してくれない。バレたら殺されるに決まってる。あいつなら殺る!絶対に!


 浮気しなけりゃ営業成績は上がらない。使えない奴の烙印が押される。フミカはいいよ。ロクに仕事しなくてもコネで特別待遇だから。俺の方は下手したら離婚されかねない。こんな世界で捨てられたらどうすりゃいいんだよォォォ!?



 仕事はしなくちゃいけません。浮気ももちろんいけません。何処まで行っても制約だらけさ。結局どの世界でも、生きて行くのはとても辛くて悲しいことなのかも知れないね……。


最後まで読んで下さりありがとうございました。

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