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生い立ちと出会い

よろしくお願いします。

 夜になって晩ご飯も食べずにウイスキーを飲んだ。腹が立って眠りに就けそうもないので酒の力に頼ったのさ。高級酒「ザ・マッカラン」をガブ飲みだァ!そのまま寝落ちする。ちゃぶ台に突っ伏してだけど構わない。


 そして午前零時、お約束通りにフミカが現れた。ホントこいつは健気なのかマヌケなのか。俺と京子さんのやり取りは承知済みだろうけど、そんなことはどうでもよかった。


「ジャジャーン!マサハルゥ、今夜は祝杯だね。不幸になったってことは、本当のしあわせに大きく近づいたってことだもの」


「うるせえ!この小悪魔がァ!よくも今まで「らぶりいえんじぇう」だなんて騙しやがったなァ!もうフミカなんて、これっぽっちも信じない!俺はお前と契約なんてしてないからな。それと、京子さんとの約束は絶対に守れ!あの人を裏切ったら、もう一言も口を利かない。これ、本気も本気、大マジだからな!」


「わかったわよ。彼女との約束は守るから、そんなにギャンギャン吠えないで。本当はあのまま放っておいてもマサハルは不幸になってたんだよ。見る目がないあんたの相手はクソビッチだったもの。むしろ私が京子にチャンスをあげたんじゃない。逆恨みするのはやめてよね!」


 何てヒネた女なんだ!まるで悪魔のような女だぜ。あ、本物の悪魔だったな。しかし、俺はもうしあわせを求めない。それでこいつのミッションは失敗に終わる。お互いに傷を負ってお相子だ。ざまあみやがれ、ハッハア!


「マサハル、まさかしあわせを拒否する気じゃないでしょうね?そんな人間らしくない行動に出たら、もうあんたに生きる価値は無いわ。青龍刀で手足を一本ずつ切り落とし、最後に首を撥ねて殺してあげるからね」


 唇の角を捻じ曲げて、薄く微笑みながら言いやがる。でも、目だけは笑っていない。本気だ。これが悪魔の本性ってやつか。怖いィィィ!


 そうだ!俺には京子さんの足がちゃんと治るか見届ける義務がある。仕方ない。もう少しフミカの意に沿ってるフリをしよう。そう、フリをして今度は彼女を騙してやるのだ。ハムラビ法典に則った正当な行為じゃないか。


「そもそも、フミカちゃんは何処で俺のこと知ったの?京子さんの夢に現れる前からターゲットにしてたみたいだけど。とても君みたいな可愛い子と出会ってたなんて思えないんだよね」


「出会ってたわ!まだ、あなたは小学校の低学年くらいだったけど。以来ずっとあなたの成長を見続け、任務にかこつけて遠回しに指名したのよ。ゼウスさまは我が子に甘いからね」


 はあ?サッパリわかんねえ。幼少期の記憶なんてすごく曖昧だし。


「記憶力悪いなあ。私とのステキな思い出忘れちゃったの?『大侵略、妖怪獣ショー』よ!」


 あっ!確かにそんなのあった!でも、とてもステキな思い出とは言えない。ハッキリ言って最大級の黒歴史だ。


「まさか、あの時の暴力的お姉さん?」


「そうよ。マサハル、あの時私を助けてくれたじゃない。カッコ良かったな、私の王子さま」



 俺が小二の時、母親に連れられて「大侵略、妖怪獣ショー」ってアトラクションを遊園地の舞台へ見に行った。色んな妖怪獣が大挙して地球に侵略して来るのを、正義の味方チップスターが危機一髪で食い止め悪を滅ぼし守り切ると言う、単純ガキ向けストーリーの寸劇だ。


 まあ、売りなのは善と悪の乱闘シーンで、着ぐるみを被ったお兄さんたちがアクロバティックに、かつシナリオ通りに進めていたんだけど、そこへ突然お姉さんが乱入して来たのだ。驚いたチップスターがなだめようと近寄ったら、ドロップキックを喰らわせブッ倒してしまった。そのまま呆気に取られる悪役どもにも襲い掛かり、カラフルペーパーマンが後退りしながら苦し紛れに放ったバナナの皮に乗ってスッテンコロリンしちゃったのだ。


 焦ったカラフルペーパーマンがお姉さんを抱き起こそうとした時、正義感に駆られた俺は防火用バケツを持って突進し、思いっ切り水を浴びせてやったのさ。



 ええ、あとでものすごく怒られましたよ。紙で出来たペーパーマンの着ぐるみをパーにしちゃったんだもん。お母さんは平謝りしてたね。でも、お姉さんは何処にもいなかった。助けに入った俺を見捨てて逃走しやがったんだよ。


「ハッキリ思い出した。何であんなことしちゃったの?フミカちゃんって根っからのビッチなんだね」


「フンッ!ナンバーワンは私って知らしめたかったのさ。まあ、有休取って銀河系をお散歩中に立ち寄ったんだけどな。当時私は十八才、お前らの時間軸で百八十才くらいの時の話さ。地球で言えば道場破りみたいなもんだよ」


 かなり違うけど、まあいいや。とにかくそれで王子さまに認定されたって訳か。大へん光栄である。お陰で災いを招いてるようだが。



 ここで俺は思い出した。京子さんと別れてから眠りに就くまでに調べ物をしたのだ。当然、お手軽にググってだけど。何を調べたかって?もちろん、サキュバスについてさァ!解説によるとサキュバスってのは京子さんの言ってた通り女の夢魔なんだけど、ランク的に下等に位置する悪魔で、やることと言ったら男の夢に現われて誘惑し精子を搾り取るってだけなんだよ。


 俺は思ったね。何だ、いい悪魔じゃないか。だから初対面の時デリヘル嬢と間違えたんだな。それなりに需要はあると思うぞ。フミカが言ってた「らぶりいえんじぇう」ってフレーズは、まんざら嘘でもないじゃん!


 でも、こいつの魔力はそんなチンケなものじゃない。フルに能力を使ったら、U・S・ARMYとタイマン張れるくらい強力なものだ。何でだろう?文献が間違ってるのかな?


「フミカちゃん、ちょっと教えて欲しいんだけど、君の正体はサキュバスでしょ?なのに何であんなに色々出来ちゃうわけ?本気出したら世界征服だって可能だと思うんだけど」


「それは本当のお父さんがゼウスさまだからなの。私はお父さんの愛人だったサキュバスのお母さんから生まれたのよ。だから半分は全能の神の血を受け継いでるってわけ。本妻との間に子供は生まれなかったし、私はゼウスさまの唯一の子なの。でもね、そんな事情で生まれた時から母子家庭だったから、ずいぶんイジメられたんだよ。あくまでお父さんは陰からのバックアップしか出来なかったからね」


 そこまで話してフミカはワンワン泣き出した。オイ、今は真夜中だぞ。そんな大声で泣くんじゃない。ご近所から苦情が来るって。幸い俺の207号室は二階の角部屋で、隣の206号は今春卒業した大学生が引き払ったばかりの空き部屋だからいいけどさ。


「ふーん、フミカちゃんも苦労したんだね。でも、今じゃ立派な一人前の悪魔になったんだ」


「うん、私、頑張ったもの。学校では誰彼構わずケンカ吹っかけて修行にいそしんだからね。終いにはみんな私を避けて通るようになったわ。パワーイズジャスティス!正しい者が正義じゃなくて強い者が正義なのよ!」


 それは違うぞ!と言いたかったけど、天空界のシステムがわからないので控えておいた。そして不幸自慢してるこの女悪魔が、実は天空界の学校で番を張っていたことを理解した。


 褒めてやったらケロッと泣き止んだフミカは、マスカラが滲んでタヌキ目になっている。思わず京子さんを思い出してしまった。


「俺さあ、今回のことも含めて思ったんだけど、人間って未来が見えないから頑張れるんじゃないの?京子さんだって、先が見えないからリスクを背負って頑張ったんだと思えるし。目的が俺の不幸ってのは悲しかったけど、彼女と真摯に話せたことはプラスだったと言い切れるよ。だいたい、たかが一週間の未来を知って姑息に立ち回ったって、本当のしあわせには結び付かないよ。そういうのは、明日が見えない毎日をコツコツ積み重ねた先に待ってるんだと思うもの。そして、そんな毎日が繰り返されてる今だって充分にしあわせなんだろうね。それに気付けたから、フミカちゃんのミッションは完遂したんだよ」


「じゃあ、もう私は必要ないってこと?会えなくなってもマサハルは平気なの?」


「うーん、正直寂しい気持ちはあるけど、やっぱりフミカちゃんとは生きる世界が違うんだし、もっと他の人をしあわせに導いてやりなよ」


「マサハルのバカ!ホントあんたは最後まで最低野郎だったわね。わかったわよ!お望み通り消えてあげるわ!あとで泣いたって知らないからね!」


 さすがに怒らせたまま別れるのはイヤだったので、俺は彼女に手を差し出した。


「今までありがとう。アマゾンやベガスとか本当に苦しくて楽しかった。俺の一生は君よりずっと短いけど、死ぬまで忘れないからね」


 フミカはポロポロ涙を零して手を握り返して来た。


「あなたのこと、すごく好きだったのに……」


 小さな声だったけど、俺にはしっかり聞き取れた。そのまま彼女はスウッと消え去った。


読んで下さりありがとうございました。

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