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由佳ビッチ!

よろしくお願いします。

 出社した朝礼後、藤堂さんにガシッと肩を掴まれた。


「週始めから何眠そうにしてるんだよ?まさか、朝まで京ちゃんと一緒だったとかじゃないだろうな?」


「違います。彼女は昨日の夕方帰られました。それからは独りで過ごしてましたよ」


「そうか。ならいいんだ。仕事は今日からが本当のスタートだからな。気合入れて行けよ!」


 何がいいんだ!?俺と京子さんに何があろうと先輩には関係ないじゃん!まあ、仕事は頑張るけどさ。



 外回りに出て定食屋で昼食にした。お昼のテレビニュースを見ていたら、案の定海外版でカジノ襲撃事件が流れた。しかし、しかしだよ!被害額が千二百ドルってどういうことだ!?百万ドルじゃなかったのかよォ!?解説によると、あのジュラルミンケースは強盗対策用で、表面の一枚だけが本物を敷いてありその下は紙切れだそうだ。コメンテーターにまで「ホント、マヌケな強盗ですね。命懸けでやったんでしょうに」と笑われてしまった。


 悪かったなァ!それにしても、実にえんじぇうさまはお茶目であられる。いつも肝心なところが抜け落ちてるんだよなあ。それも可愛らしさかも知れないけど。


 ちなみに追跡は叶わなかったそうだ。俺とフミカが運転を代わった街路樹の下で、パッタリ痕跡が途絶えてしまったらしい。防犯カメラの映像にはしっかりフミカが映っているけど、特定するのは無理だろう。だって、あいつは地球人じゃないもん。この星の法規なんて通用しない世界だろうし。


 もちろん俺は戦利品の千二百ドルをネコババすることにした。これくらいなら普通に銀行へ持ち込める。日本円に交換したらレンジと酒で使ってしまおうと思った。命懸けだったから許してくれよ。あっ、昨晩、今週のビデオ見せてもらってねえェ!




 それからもフミカは懲りずに日曜の深夜に現われたけど、二人での外出はしなかった。もっぱら朝まで酒盛り大会である。レンジを買って余った金で梅酒とウイスキーをたっぷり買い込んだので、暫く尽きることはない。やっぱり戦利品は戦友と分かち合うべきものだから。


 未来ビデオでも俺と京子さんは順調そのものだった。土日のどちらかに必ずデートし、ドライブしたりショッピングに行ったり、もちろん部屋でおいしい食事を味わったりして楽しく過ごせているようだった。


 経過が退屈なのでフミカはテロップを多用していた。「今週も巨乳デブとデート!」と少々悪意が感じられるものだったけど。




 三月上旬、平日の夜にしつこく呼び鈴が鳴らされた。ピンポーンピンポーンと連続押ししやがるので、ムッとして玄関の覗き窓を見た。立っていたのは由佳ビッチである。今更何だ?と思ったけど、落ち着かない様子だったので焦らさずにドアを開けてやった。


「いったいどうしたの?血相変えちゃってさ。来るとこ間違えてない?」


 俺の言葉を無視して押し入り、勝手に上がり込んでリビングへ行きやがった。


「マサくゥーん、私、お別れしちゃったのよォォォ!思った通りイケメンって心が冷たいわ。やっぱり男は中身が肝心よ。マサ君のやさしさが恋しくなっちゃった」


 何なんだ!?この調子のいいクソビッチは!いきなり俺を便利屋扱いしやがって。歯の浮くようなセリフを連発してもダメだぞ!俺にはもう、心に決めた人がいるんだから。


「心が冷たいって、藤堂さんにひどいことでもされたの?」


「ううん、その逆。あの人ったら、私に何もしないのよォォ!あげくの果てに『お互い疲れるだけだから潮時だと思う』なんて言いやがるんだものォ!あんな鬼畜、こっちから願い下げだわ。何で美人である私の意に沿えないのかしら?頭がイカレてるとしか思えない。その点マサ君は何でも私の言う通りにしてくれたし、やっぱり相性ってあるのよねえ」


 そう!相性はある!俺はお前との相性が最悪だったと、京子さんと付き合って思い知った。いつも俺を振り回し、散財させ、与えられることを求め続けたクソビッチだったと。


「何もされてないのに鬼畜呼ばわりはないでしょう?詳しいことはわかんないけど、藤堂さんに一方的な非があるとも思えない。由佳と付き合った俺は、先輩に同情さえ感じるよ」


「何ですってェ!何であんたにそんなこと言われちゃうわけェェ!?」


 由佳はワナワナと唇を震わせ、顔を真っ赤にして怒っている。俺が冷めた目で見つめているとも知らずに。


「まあ、出会いと別れなんて、独身の男女にはありがちなことじゃん。モテる由佳のことだから、また新しい男を見つけなよ」


「信じられない!マサ君にそんなセリフを言われるなんて!せっかく私がセカンドチャンスを与えてあげたのに、一生の後悔になるわよ!」


 一応、由佳には捨てゼリフまで吐いてもらったので、早々にお引き取り願った。今の俺には根気よく彼女のグチに付き合うつもりはなかったから。


 人は変わって行くもので、俺も少しは変わったけど、彼女は相変わらずだった。きっと、いつか気付く時が来るんだろう。それが藤堂さんじゃなかったって話である。


 しかし、押し入られるとは俺も甘いよな。元カノを部屋に上げてる時に京子さんが現れたらと思うと、マジで寒気がする。不幸中の幸いだ。


 じゃあ、フミカは?あいつはいいんだ。人間じゃないから。結ばれることのない相手だもん。ちなみに今週はビデオを見せてもらってなかった。フミカに「忘れて来た」とシレッと言われたからだ。クッソー!由佳ビッチの来訪がわかってたら押し入られるのを阻止したのにィ!ホントあいつは、肝心な時に抜けてるんだよな。


 その週のデートで俺は勝負を賭けようと思ってた。由佳の来訪が切欠になったわけじゃないけど、もう付き合って二ヶ月以上経過したんだし、そろそろ肉体的に結びついてもいいんじゃないかと考えたのだ。




 日曜日のデートでは久し振りに映画を観た。続いてレストランでオサレなランチタイム。そのあと見晴らしのいいドライブウェイに行った。山の頂上付近にある展望台で、いつも暮らしてる俺たちの街を眺めた。小さな地方都市だけど、きっとこの街に俺のしあわせがある。それが京子さんと同じ場所だったらいいなと願った……。


読んで下さりありがとうございました。

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