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襲撃しちゃった

よろしくお願いします。

 やがて午前零時を迎えた頃、ドッカーン!とフミカが現れた。いちいち壁を壊して入って来るの、ホントやめてくれないかなあ。毎回魔法でボードを張り直すんで色が変わっちゃってるよ。


 その夜の彼女の愛車は様相が違っていた。ボディ全体にジュラルミンっぽい金属プレートがビス止めしてあって、まるで戦場の装甲バイクだ。こいつ、今夜は何をしでかすつもりだ?


「ジャーン!らぶりいえんじぇうフミカさまのご登場よォ!」


「いや、効果音はいらないけど、何か武装してない?また良からぬこと企んでるんじゃないよね?」


 えんじぇうさまは思いっ切りブンむくれて言い返して来やがる。


「いきなり何よ!失礼ねえ。今夜は二人で小旅行でもしようと思って準備して来たのにィ!」


 準備ってさあ、どう見ても重装備にしか見えないけど、頼むから変なことに巻込まないでくれよ。俺は明日から仕事頑張るんだから。京子さんのお陰でモチベーションマックスだってえのに。



 フミカは俺が差し出した梅酒をストレートでグビッと呷って、トートバッグから小さな木っ端を取り出した。


「マサハル、これチンして。解凍して持って行くから」


 へっ?解凍?全く意味わかんない。何だよ、この木っ端?取りあえず言う通りにした。


 三十秒後、ドカンという爆発音と共にレンジの閉じ蓋が吹っ飛んだ。そりゃそうだ。中から木製バットが飛び出しているんだから。恐る恐るホカホカのバットを取り出したらフミカにかっさらわれた。


「フーン、中々いい出来ね。私がこれを駆使してマサハルにしあわせをあげるわ」


 取り上げられたバットにはご丁寧に「BAD NIGHT!」と刻印がされている。レンジをブッ壊された俺にとって正しく「BAD NIGHT!」だ。


「ちょっとちょっと、どうしてくれるんだよォ!このレンジ、まだ新しかったのにィ!」


「大丈夫だって。そんなのおつりが来るわ。さあ、グッドナイトを満喫するわよ。早く後ろに乗って!」


 イヤな予感しかない。しかし、従わざるを得ない。ここで恨みを買ったら、あとで何されるかわかったもんじゃないから。やむなくフミカにタンデムした。


「もうアマゾンはゴメンだよ。生きて帰って来れたのが不思議なくらいだったんだし」


「心配ないわ。今夜の行先は大都会だもの。マサハルもきっと気に入るってばァ!」


 いきなり武装したバイクは発進した。息を止めなくてはならない。分速八千キロの速度では呼吸が拒絶されてしまう。




 あっという間に着いた場所はネオンチカチカの世界だった。それもすごく豪華な巨大ホテルが立ち並んでいる。わかった!ここはラスベガスだァ!


「マサハル、エンジンを掛けたままここで待機してて。直ぐに済むから。早い仕事はいい仕事って言うでしょ?」


 バイクが装甲仕様でバットを持っている意味がわかった。


「お前、まさか紳士淑女からカツアゲするんじゃないだろうな?ここは銃社会だから、舐めた真似すると殺されるぞ!俺がだけど」


「そんなチマチマしたことやらないわよ。私って気が短いもの」


 やっぱりこいつは疫病神だ。しあわせを運ぶ神の使いなんて嘘っぱちさ。とにかく、生きて帰ることを最優先にしなければ。


「いいからここで待ってて!あんた運転出来るでしょ?スクーター形式だから簡単よ。私が後ろに飛び乗ったら即発進。方向は私が指示するわ」


 もう観念した。あいつがこれからやることは間違いなく犯罪だ。そして、俺はその片棒を担ぐ運命だ。ああ、ついに俺も「WANTED」って張り紙がされてしまうのか。お母さん、親不孝をお許し下さい。


 フミカはニコッと笑ってスマホを手渡した。


「これに戦況が映し出されるから、ずっと画面を見ててね。私がカジノから駆け出て来たら応戦しなさいよ!」


 お、応戦って、弾丸当たったら死んじゃうじゃん。このバイク以外武器なんて持ってないのにィ!返す言葉を探せない俺に構わず、えんじぇうさまはロングコートの内にバットを隠し持ってカジノへ入って行った。



 モニターで観察していたら、彼女は周囲を伺いながら一番奥の頑丈そうな鉄製扉の前まで進んで行った。直ぐに屈強そうなガードマンが飛んできたが、案の定バットを振り回し撃沈させる。そのままバットで扉をド突き回し破壊した。マジかよ!?魔法のバットって折れないのか?悠長に考えてる暇はない。戦闘は開始されたんだから。


「オーッホッホ!私は美人強盗よ!有り金は全部頂くわ!」


 わざわざ雄叫びを上げ、金の詰まっていそうなジュラルミンケースを強奪した。警備員かギャングかわかんないけど、相手側は銃を持ち出して威嚇する。マシンガンらしき物まで構えていやがる。


 この四面楚歌の状況でフミカは強行突破を図った。バットをブン回し、人混みを蹴散らすように入り口に向かって駆け出した。そうか。逃げ惑う紳士淑女の中では発砲出来ない。VIPに流れ弾でも掠ろうものなら大問題になってしまうもんな。


 ホテルを飛び出した強盗女は俺に向かって走って来る。背後に武装した大男どもを従えてだ。みなさま口々に「ガッデェェム!」「ファック!ファック!」とか「キルユー!」と叫んでおられる。キルだってさ。怖いよォォ!


 しかも奴らは屋外に出てから本気で発砲して来やがった。頼む。来るな!来るなァ!フミカは弾丸をジュラルミンケースで受け止めながら後部シートに飛び乗った。俺はいきなりアクセル全開だ。しかし、あまりスピードが出ない。あれ?何で?分速八千キロじゃなかったの?


「あ、マサハルが運転出来るよう地球モードにしてたの忘れてた。いいわ。取りあえずUターンして!カウル内に身を伏せたままあいつらに突っ込んじゃってよ!」


 俺はフミカの指示通りUターンして突撃した。だって、思考なんて完全にストップしてたもん。死ぬんかな?とボンヤリ思ったけど。


 フミカの暴力は凄まじかった。ケースを俺の背に預けたまま、左右の手でバットを持ち替えながら敵をなぎ倒して行く。お前、ホントは「ハーレイ・クイン」じゃないのか?


 俺は身を伏せているので前方が見えない。きっとこの恐怖心には幸いなのだろう。弾丸の嵐がカンカンとカウルに当たって弾かれて行き、正直、生きた心地がしなかった。追手はどんどん湧き出て来るし、パトカーもカッ飛んで来た。切りがないと思えるくらいの大捕り物に発展している。これ、夢ならいいのにと真剣に願った。



 結局俺たちは街路樹の陰で運転を代わり、出力を天空モードに切り替えて無事にワンルームへ戻って来た。部屋に転がしたバットと弾痕の刻まれたジュラルミンケースを一瞥して掛け時計に目を移した。午前3時、丑三つ時の真っ只中である。


 フミカが俺にスマホを差し出した。CNNが臨時ニュースをやっている。もちろん、ベガスでのバット女カジノ襲撃事件である。俺は崩れ落ちるようにフロアに転がって、恨めしそうにえんじぇうさまを見た。


 ニュースでは女性アナが、被害額は百万ドル以上だと言っていた。百万ドルだって!?ヤッタ、ヤッタァァ!俺もついに億万長者の仲間入りじゃん!ブラボォォォ!



 じゃねえんだよな。だいたいこれ、USドルじゃん。銀行に両替を持ち込むにしても大量には無理だろう。即、不審者にリストアップされるに決まってる。


「うまく行ったなあ。これでマサハルも新しいレンジ買えるじゃん!酒も大量に買おうぜ」


「あのさあ、USドルのままじゃ普通のお店で買い物出来ないよ。両替で銀行に持ち込むのはヤバイし」


「ホントお前って気が小さいなあ。どうせこの金はギャングどもが一般ピーポーから巻き上げたもんだろ?言うなれば、その金を私たちが浄化してやったわけだ。汚れた金がキレイな金になったんだから、流通させ生きた金にしてやるんだよ」


 えんじぇうさまのムチャクチャなロンダリング理論にはこれっぽっちも同調しないけど、まあ、ギャングから奪ったって思えば少しは気も軽く……ならないか。


 例えギャング同士でも悪意に差はあって、間違いなく俺たちは最低最悪の凶暴ギャングだったから。返金しようかと一瞬考えたけど、もちろんギャングさまが許してくれるはずもなかろうと思い直し、ジュラルミンケースは押し入れの奥にしまっておくことにした。


「お前ってホントバカだなあ。USドルならアメリカで使えばいいじゃん。カジノが紙幣の通し番号控えてるわけじゃないんだし」


 なるほど。フミカにしては中々筋の通ったことを言う。どうせ俺はすでに強盗の共犯なんだし。やったね。若くして金持ちになれたんだァ!


 違う、違うゥ!そんなのが俺のしあわせじゃないんだっつーの!もっと普通でいいから、心が平穏でいたいだけなんだよォ!ドッと疲れが出て睡魔が襲って来た。


「フミカちゃん、悪いけど俺はもう寝るよ。今朝からバッチリ仕事なんだし。お酒は適当に飲んでいいから、朝になったら帰ってね」


 フミカはコクンと頷いたけど、その時見せた悲しそうなグリーンの瞳が印象に残った。




 目覚めたらちゃぶ台の上に「マサハル、ゴメンね」と書かれたメモ用紙が残っていた。さすがに暫く罪悪感に苛まれた。


読んで下さりありがとうございました。

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