どうしてそうなる異世界!~盗賊編~1
数多の旅人の歩みが……行商人の乗る馬車の轍が、地面を踏み固めて出来たのであろうと、推測される、横巾3mほどの道。その道を今、異世界日本から、運命の歯車によるものか、神の戯れか……1人の日本人の男が歩く、旅の道ずれに1匹のテイムモンスターと共に……
目指すは、遥か彼方にあると言われる、伝説の【城塞都市グラシム】男の旅は、困難の連続であった……数多のモンスター達との、お互いの命を賭けた死闘……それら全てに打ち勝ち男は今、この道に立つ。この先待ち受ける困難すら、必ず跳ね返すと決意の眼差しで、自分の行く末を睨む……男の旅は、まだ終わらない……
《……》
《何をブツブツ語ってくれやがってるんですか?》
《行く末って、見えてますよね?前方2㎞ほど先に見えてますよね?》
《なんですか?その伝説の城塞都市って、マスターが今から行くのは【地方都市ナコヤ】ですよ?》
システム88は、男の妄言を黙って聞いていたが、終わりそうになかったので、強制介入した。
「う……うるせーな、人が気持ち良く語ってるのを、邪魔するんじゃね~よ」
《数多のモンスターと死闘?マスターまだモンスターの姿すら見た事ないですよね?モクラの開けた穴に、つまづいてコケただけですよね?あれは死闘だったんですか?》
男と相棒の漫才は、まだ続いていたようだ……
男が今、前方に見えている街(?)に向かい歩いているのは、男の妄言の通り、多くの人が歩いて踏み固められた、地面に出来た1本の道。左手方向には、どこまでも続き、地平線すら見える草原。右手方向には、鬱蒼と覆い繁る木々の森。そんな森の木々達によって出来た日陰の中を、旅の相棒と、どうでもいいような事を、言い合いながら進む。
「いやー日陰は、涼しいな……この世界のこの辺りの気候は、こんなに暑いのか?」
男は、影すら差さない道を先程まで歩いて、顔や体に汗をかいていたが、日陰に入り汗も引いていき、歩き易くなり、歩む速度も自然と上がっていた。
《現在、この地域は、夏に入ってます、大体の温度や湿度は日本の中部地方と同じです》
日陰の道の少し先に、道端に、大人が3~4人ほど並んで座っても余裕のありそうな、高さが70cmほどの平たい岩を見付けた。
「おっ良さげな休憩ポイントを発見」
男は休憩する気まんまんで、背中に背負うカバンを、早くも下ろし、腕に通してぶら下げて持った。
岩に腰を下ろした男は、カバンの中から、水筒を取り出すと、暑さのせいで体が欲していた水分を補給する。
「んぐ……んぐ……ぷは~生き返った~」
《日本で死んで、生き返りこの世界に来て、また生き返るとは……マスターは、生き返りの、ご趣味でも?》
「そんな趣味あるか!揶揄だよ揶揄……なんだよ……生き返りが趣味って……縁起悪いわ」
男は、自分に与えられた(無理やり持たされた?)とある特殊なスキルの事を思い出してしまっていた。
《現在の歩行速度を維持すれば、後2時間ほどで到着する計算になります》
システム88からの報告を聞いて男は、日が出てる内には、辿り着けそうだなと思った。さすがに、未知の世界で、日が暮れて街にも入れず、野宿するなんて、想像しただけで、恐怖に感じるようだ。
《マスターの【精神的抑圧感】値の上昇を確認、5秒後に【胃痛】に襲われます》
突然のシステム88からの警告。
「え?……胃痛?……あっ……いつつつぅ……」
《あんまり面白いシャレじゃないですね》
「シャレなんて言ってねぇわ!」
この男と相棒との、漫才は、終わらないのだろうか……終わらないのであろう……【駄目神】の戯れによって……
《何かストレスを感じるような事がありましたか?》
「何にもない……」
さすがに男も、このまま街に入れなくて、見知らぬ異世界で、野宿なんてするハメになって、寝ていたらオオカミの群に襲われる。そんな、妄想をしていたとは、格好悪すぎて言えない男であった。
そんな、他愛もないやり取りをしている男と相棒は、来た道の方から、何かが立てる砂煙を見付ける。馬車でも来てるのかな?と、のんきに危機感の欠片も見せず、無警戒で岩に座っている男の元に、馬に乗った、野蛮そうな薄汚れた風体で、整備なんかした事も無さそうな革の鎧を着た4人の男達が、やってきた。男達は、馬を操り座っている男を囲むようにすると、馬から降りて言い放つ。
「やぁ!こんにちは、旅人さん」
「盗賊だよ、有り金全部出してもらおうか、大人しくしていたら、命までは取らないよ」
男は、そんな男達の言葉を聞き……
「テンプレきちまったよ……」
そう呟く……
どうなる三井健三。




