第三十三話 発見されました
その日は、いつも通り、夏実の朝食を作るために、六時半に目を覚ました。未だゆいからの連絡はなく、だからと言って、こちらから連絡することもしなかった。サユリと何を話したのか、周平には検討もつかないが、もし、ゆいが連絡しないという手段をとったからこのような状況になっているのだとすると、どうもこちらから連絡する気にはなれないのだ。
ニュースを傍らで聞きながら、二人の朝食と、夏実の弁当を作る。ハムとスライスチーズを乗せて焼き、その間にスクランブルエッグを作る。
《――裁判所で行われた、中学生の被告に対する裁判で、突然、弁護側が提訴を取り消しました。弁護側によりますと、「もう、戦うのは面倒だ」と被告が告げ、そのような結果に至ったと言うことです》
卵をボウルに割り、菜箸で軽く潰す。油を引いたフライパンに流し入れ、かき混ぜるようにして、火で固める。
《続いてのニュースです――》
もう少し火を通せば、良い具合の柔らかさを作ることができる。皿を用意し、移しかえる準備を終える。
《――市で昨夜、女性の遺体が発見されました。遺体は死後数日が経っており、警察によりますと土曜日に殺されたとのことです。被害者は女性で、フジタサユリさんであると判明しています――》
「……サユリ?」
周平は手を止めて振り返り、テレビを見る。画面には、フジタサユリの顔写真が大きく写し出されていた。
火を止め、画面に近づく。サユリの顔をはっきりと見たことがないのも原因であろうが、数日前まで捜していたサユリが亡くなったことを、どうしても現実だと受け止めることが出来ない。
今にも噛みつきそうな勢いで見つめられているテレビは、サユリは他殺であると伝える。
誰が、殺したんだ?
誰に、殺されたんだ?
サユリの交友関係などを周平が知っているはずないので、いくら考えても答えは出てこない。
土曜日と言えば、ゆいがサユリに会った翌日である。ゆいは、この事を知っているのだろうか――。
「――……ゆいは?」
ゆいが今どういう状況にあるのか。
周平は一瞬、悪い想像をしてしまった。虚ろな瞳で、二度と動くことのないゆいを。
まさか、ゆいまでそんな状況にはなっていまいな。
不安と疑念が脳内を行き交う。ゆいは大丈夫なのか、そんなはずないだろう、連絡が来なかったのはしたくてもできない状況だったからなのか、ゆいは大丈夫だきっと。
だがその内に、疑念は押し潰され、不安が膨らんでゆき、ゆいの終焉をどうしても断ち切ることができずにいる。
テレビでは、サユリの遺体が発見されたことしか伝えられない。もう一つ死体があることは今のところ伝えられていないので、ゆいも関係していると言い切ることはできない。
第一、ゆいがサユリに会ったのは、金曜日だ。サユリの予想死亡時刻は土曜日未明。ゆいと会ったあとに何者かに襲われたと考える方が妥当か。
とりあえず、いつも夏実を起こしている時間が来たので、夏実が眠る部屋に足を進めた。いつも以上に足取りが早く、音を立てていることも理解している。だが、どうしてもそれを止める気にはならない。じっとしているよりも体を動かしている方が、頭もよく動くと考え、驚愕している脳を落ち着かせて、落ち着いた状況で物事を考えることが可能になるからだ。だがそうしている内に、周平は足を止めたくなった。そして、部屋の前で足を止めてしまった。
すぐに引き返すと、机に置いていたスマホを手に取り、ゆいの電話番号をタップして、耳に当てる。コール音が何度か鳴った後、女性の声が今は電話に出られないということを伝えてくれた。
そこで親父ギャグを言ってしまうほど、周平は落ち着き、そして、混乱していた。
――会いに行くしかない。
周平はすぐにそう感じた。電話に出ないのならば、直接会って話せば良い。
周平はそう決めると、扉をノックした。




