第十三話 どや、見つかった?
夕方になり、ゆいと周平は帰宅することにした。昨日のことがないよう、ゆいをホテルまで送り届けた。その帰り、夕食を買った。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって挨拶をする。すると、「おかえりー」と声が聞こえてきた。それと共に、テレビの音もする。
リビングに入ると、仕事着のままの夏実が座っていた。
「何や、今日は帰ってくるん早いなぁ」
そう言ってから、今日は土曜日であることに気付く。警察官になってから、休日出勤は大概帰りが早い。警察官の出勤時間をよく知らないが、現在はそうなることが多い。
机上にはすでにビールが二本置いてある。
夏実は残りのビールを煽り、「周平、もういっぽーん」と、持っているビールを揺らした。
酒の強い夏実だが、夕方からこんなに飲むことは止めて欲しい。台所には、日本酒の入ったビニール袋が置かれている。
「ねぇちゃん、日本酒買ってきたん?」
「おん。今日は夜まで飲むから、周平も付き合えよー」
酒飲まさんといてよ、と言うが、きっと言うことは聞いてくれない。何杯かは無理矢理飲まされる。
正義感が強くて警察官になったが、未成年の飲酒や喫煙に関しては何故か緩い。警察官ならば、そこを強く見て欲しいのだが、「酒は高校生から、喫煙は大学生から」と、本人は言う。夏実も、高校生からちょくちょく酒を飲み始めた。
冷蔵庫からビールを取りだし、夏実の前に置いた。
「今日の晩御飯は?」
「オムライス」
やった大好物、と周平の頬を軽く二回叩く。
買ってきた材料を取りだし、調理にかかる。
「なー、月九録ったる?」
「たぶん録ったる」
夏実はリモコンを操り、録画一覧からお目当てのドラマを探す。一口飲んでからボタンを押すと、ドラマが再生される。
ドラマを見始めると静かになり、その間に周平は夕食を作り上げる。
夕食を食べ終え、夏実は日本酒を飲むために立ち上がった。
「そうだ周平、今日もゆいちゃんに会ったん?」
コップに注ぎながら言う。
「おん、会ったで」
「人捜しやんな? どや、見つかった?」
周平は首を横に振る。「俺の知り合いあたってみたけど、知っとる奴はおらんかった」
「何ていう名前の子やっけ?」
「サユリ。フジタサユリ」
夏実は唸り、斜め上を眺める。
「そんな名前の捜索届はみたことないなぁ。あたしが知らんだけかもしれんけど」
酒の入ったコップを持って、腰を下ろす。リモコンを持つと、最後まで見終わったドラマを消した。そして、次に見るドラマを探し出す。
「何やったら、他の警察署に居る子に頼んで、そんな子の奴がないか探すよう頼んでみよか?」
「え、そんなこと出来んの?」
「見るふりして情報盗み見るんは簡単や。一人暮らししとんやったら、両親は別のところにおるやろうし、ここ警察署にその子の捜索届が無いんは頷ける。他の署で探した方が早いやろ」
夏実はスマホを取り出し、早速連絡を入れてくれた。警察官の姉を持つと、何かと役に立つ。警察官と仲良くしておいて損をするのは、法律を破りまくる不良か犯罪者くらいだ。金髪で不良にみられやすい周平だが、今ではちゃんと中身を見てくれている。
「聞くんは、『フジタサユリ』やのーて、『サユリ』の方がええかもしれん。サユリは小さい頃に引っ越したって言ってた。もしかしたら離婚が原因で引っ越したんかもしれんから」
「名字が変わってるかもしれんってことか。了解」
夏実からリモコンを受け取り、未視聴のドラマを探す。
明日はどうしようかと考える。毎回毎回同じところを探していても、見つからないものは見つからない。サユリが一人暮らしをしているという事は、この辺りで働いているか、近くの大学に通っているかのどちらかだ。だが可能性としては、後者の方が高い。実家がどこにあるかは知らないが、わざわざ遠くに出てまで就職するとは考えにくい。
写真があれば捜索は捗るのだが、持っていたとしても幼い頃のものしかないだろう。十年以上経っていれば、容姿は随分と変わる。あまり役には立たない。
「明日もゆいちゃんと捜すん?」
スマホを机に置くと、コップに触れる。
「おん。でも、おんなじとこを何べんも捜して、意味あるんかなぁ? 女の子は休日に遠くに遊びに行くやろうし」
「大学生やったら、平日は出歩いとらんやろしな。出歩いても朝か夕方くらいやろ」
周平は唸ると、夏実のコップを掴み、そのまま煽った。
夏実はおっ、と声をあげると、「よっしゃあ、夜はこれからやでぇ」と立ち上がり、瓶ごと日本酒を持ってきた。
コップを追加し、周平の分も入れる。
「周平、明日は二日酔いやな」