第十二話 ニートですか?
「改めて考えてみたら、俺の知り合いまともな奴おらんかったわ」
第一声に固まるゆい。
――まあ、そうだろうな。
「ちゃんと、『サユリ』って言いましたか?」
「言ったで。んな、サヨリとは言わへんよ。あれはボケやボケ」
どちらであっても気にしない。
はいはい、と軽く流した。
「まあ、サユリが不良と仲良くしたがるとは思えませんからね。元々、頼りにはしていませんでした」
「ちょお待て、不良って俺のことか?」
「それも含めて、周平さんの知り合いです」
すると周平は大きくため息をついて、やれやれと言わんばかりに首を横に振った。
「何ですか」
「俺の知り合いには、確かに不良はおる。けが、それだけじゃないで。警察官や市長とも繋がっとる。それに、中学や高校の時の教師とも、今でも繋がっとる」
自慢気に言うが、ゆいからすれば、目を付けられているとしか思えない。
運ばれてきたコーラを半分まで飲み干す周平。どうやらコーラを好んでいるようだ。
「っあー、やっぱコーラ美味いなぁ」
ゆいはオレンジジュースを、ストローを使ってちびちびと飲んでいる。
「そや」思い出したように問うた。「ゆいは、今日も俺んちに泊まるんやんな?」
「いいえ、泊まりません」
決めつけたように言ったのは、ゆいがそう言うと分かっていたからだ。
周平はため息をついた。
「もー、何でなん?」
「もうホテルを予約したので。多少の荷物はそこに置いてきました」
確かに、鞄が少し小さく見える。
元々泊まる気はなかった。強制的に泊まらせたのは周平と夏実だ。先にホテルを予約してしまえば、昨日のように無理矢理泊まらせることは出来まい。
「まあ、それやったら仕方ないな」
手を上げて店員を呼ぶと、コーラを頼んだ。来て数分しか経っていないのに頼むとは、彼の胃袋がどうなっているのか気になるところである。しばらくコーラを飲んでいないゆいでは、これほど一気に飲むことは出来ないだろう。舌が炭酸に痛いと叫びだす。
周平は残りのコーラを飲みきると、机の端に置いた。
「関係ない話ですが、周平さんはニートですか?」
「直球やなぁおい。オブラートに包もうとは思わへんのか」
ゆいはオレンジジュースを二口飲む。周平なら、そう言っても傷付かないだろうと思っているだなんて言えない。
「まあ、平日にどこにも行ってへんかったらそう思うやろなぁ」周平は頭をかくと、控え目に言った。「俺は、なんちゅうか……主夫、みたいなもんや」
その言葉を聞いて出てきそうになった言葉は、結婚、だった。主夫は家事を行う既婚の男性のことを表し、言えば結婚している男性に当てはまるか当てはまらないかの言葉である。つまり、周平は結婚しているのか、という疑問が少なからず出てくる。
だが、周平は現在姉と二人暮らししていると聞いた。それでは、夏実が身苦しくなるのではないか。いくら姉弟でも、弟夫婦と一緒に暮らしているとなると、遠慮してしまうものだ。
ゆいの疑問を見かねた周平は、「主夫ちゃうで。それみたいなもん、やで?」と付け加えた。
勿論、説明無しでは上手く納得することは出来ない。
「俺とねぇちゃん、二人暮らししとるやん? 俺んち、両親が早死にして、もう実家は取り壊したんや」
周平からの事実を聞き、説明を求める目から、周平自身を見つめる目となる。
「ねぇちゃんが就職することになって、無理言って俺も付いてきたんや。ねぇちゃんは反対したんやけど、家事全部するからって言ったら、納得してくれてん。だから俺は、主夫みたいなもんなんや」
ゆいは少し顔を下げ、「そうだったんですか」と言った。
「聞いてはいけない話を聞いてしまいましたか?」
そう問うと、ええで、と手を振った。
「親はいずれ死んでしまうもんやから、ええねんええねん。俺あんまり、両親のこと好きやなかったしなぁ」
「それでも、親が亡くなったら悲しいですよね?」
その時、お待たせしました、と店員がコーラを運んできた。ありがとう、と返事をし、一口飲む。
「まあ、そりゃな。けど、好まれるような人間でもなかったで。よぉ暴力ふるし、ねぇちゃんに依怙贔屓ばっかすんねん。だから……」
「そうだったんですか」
ゆいは、周平の言葉を遮って言った。ストローをくわえ、ゆっくりと吸い上げる。
そこで周平は、自分が随分と不謹慎な話をしていたということに気づいた。いくら自分の両親であっても、亡くなった両親のことを悪く言うのはよろしくないだろう。
「ごめんな、なんか暗い話してもうたなぁ」




