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第十一話 あっちのコンビニくらいまで

 外に出た時、ここはアパートの二階の一番端にあることに気付いた。部屋は全部で十室、錆びた階段が二階へ上がる唯一の道のようだ。


 ゆいは帽子を深くかぶり、周平に続いて階段を下りる。階段を下りるたびに、少しずつ錆びた鉄の皮が剥がれていく感覚が伝わってくる。


 一階の扉が開いた。同じように外出しようとしている方がいるのだろう。

 そう思いながら見ていると、そこから姿を現したのは、昨夜ゆいを誘拐しようとした男だった。


 いきなり出くわすとは思わず、ゆいは構わず歩き続ける周平の腕を握った。

「ん? 何や?」

 ゆいが指した方を見て、状況を理解した周平は、「おお、おはようさん」と気軽に声をかけた。


「……おはようございます、世木(せき)くん」

 男は低い声で言った。寝起きなのだろうか。

「おう。クマさん、これからどっか行くん?」


「行かない」すると男は、太い指を扉の隙間からのぞかせ、ゆいを指した。「その子は?」

「家がないっちゅうから、うちに泊めたんや。何や昨日の様子やったら、誘拐しようとしたんやって?」

「違うよ。僕はただ、コスプレをしてほしくて、彼女なら似合うと思ったんだ」

「そんなん、自分で着たらええんとちゃうの?」

「……僕の腹じゃ入らない。それに、可愛い子が着ないと意味ないから」


 男はグヘヘヘと笑った後、流暢(りゅうちょう)にコスプレをする意味やそのキャラクターについて話し始めた。だが周平は「ああそうなん。じゃあ行くわ」と言って、無視して歩き始めた。それでもなお、聞こえていなかった男は一人で口を開いている。


「無視して良いんですか?」

「ええねん。いっつもああやから」


 クマさんと呼ばれた男の部屋番号の下に、『熊本(くまもと)』と書かれていた。それが彼の名前なのだろう。そこからとっても見た目からも、彼にはお似合いのあだ名だ。


 しばらく歩くと、ゆいと周平が初めて会話した場所に着いた。相変わらず時計は八時二十分で止まっている。

「とりあえずゆいは、今日もそこら辺を捜してみたら? もしかしたらおるかもしれんから」

「周平さんは?」

「俺は知り合いに聞いてみる。俺、顔が広いから」そう言って親指で己を指す。


 顔が広いと言っても、金髪であるだけで人が寄ってくるものなのだろうか。出来たとしても、不良が多い気がする。

「広いって、どれくらいですか?」

「うーん、そうやなぁ」腕を組んで首をかしげる。「こっから、あっちのコンビニくらいまで」

 よく分からない方法で広さを表してくれた。とりあえず、広いという事は覚えておこう。


 道に出た後、ゆいは右へ、周平は左へ歩く事にした。周平が向かった方向には住宅街がある。

 ゆいがすぐに到着したのは、おもちゃ売り場のあるあの店だ。もしサユリが本当にこの辺りに住んでいるのなら、この店を利用しているだろう。


 通りすがる人に度々声をかけてみたが、ゆいの思うサユリを知っている人物はいなかった。





 いつの間にか知られていた電話番号を頼りに、周平から電話が来た。


「大方聞いて回ったけど、おらんかったわ」

「そうですか」何となく、予想通りである。「ところで周平さん、勝手にスマホ見ましたね」

「おん。鍵かかってへんかったから」


 これから掛けておこう、と思った。誰かに手渡すことがなかったので、気にしたことはなかった。外に持ち出す時は基本鞄の中に入れているため、落とす心配はない。それ故、(おろそ)かになってしまったのだ。


「こちらも昨日と同じ場所を一通り捜しましたが、いませんでした。まあ、この時間帯だと――」

 言葉が詰まった。

「ん? 何や?」

「……どこか遠くへ遊びに行っているのかもしれません。今日は休日ですし」


 向こうで唸り声がした。「そうやなぁ、女の子やったら、ショッピングとはするんやろなぁ。ほんなら、明日捜しても無駄骨か?」

「分かりません。休日二日とも遊んでいたら休む時間が無くなりますから」


「ほんなら、明日も捜さなあかんな」

「でも、中にはショッピングでストレスが発散されることもあるんじゃないでしょうか」

「……サヨリちゃんもそうやと言いたいんか」

「可能性の話です。あと、サヨリじゃなくてサユリです」


 周平をからかうように話し続けた後、ある場所で集合しようということになった。その場所は、おもちゃ売り場のある店の一階にある、喫茶店だった。


 早速そこに向かった。

 小さいながら、立て札には『マリッジブルー』と記されていた。名前の由来が気になる。


 店員に二人だと伝えると、四人掛けのテーブルに案内してくれた。ここを一人で独占するのは、罪悪感がある。


 しばらくして、周平が到着した。

「遅なった。悪いな」

「大丈夫ですよ」


 恋人の待ち合わせのような台詞を交わした。

 飲み物を注文した後、詳しい話をすることになった。

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