ケイティは執事生活が楽しい。【悪役令嬢は裁判にかけられましたより】
その後の話。
「ふはははっ、いい出来だ」
その日、ケイティはやりきったような笑みを浮かべていた。
やっていたことは部屋の清掃である。清掃をするだけなのに、なぜそんな笑顔なのだといわれるかもしれないが、何年もの間自由を奪われ、少女として生活させられた身であるために執事としての仕事を自分の意思でできるだけでも幸せなのである。
長年拘束され、自由を奪われていたというのもありケイティの幸せの基準は低い。とりあえず動けて、喋れて、自分の意思で生活出来るだけで幸せであると思ってしまっている。
そんなわけでケイティはグリードと共にアッシュルカへとやってきてからというもの、それはもう幸せそうに生きている。
(ああ、もう本当グリード様最高! 俺あのままあの国にいたらこんなに幸せになれなかった!)
アッシュルカの王子という身分のあったグリードならともかく、ケイティには家族もいない。没落したときに両親は自殺したし、ケイティ自身生きていたのが幸運だといえるぐらいだった。奴隷になった時は、まぁ、死ななかっただけマシかと思っていたわけだが、流石に自由を奪われ、女性としての生活をさせられるとは思ってもいなかった。
あんな苦痛他にないとケイティは思っている。
ケイティも、そしてグリードも結局は被害者である。しかし、もしあのミラージュ王国に残らなければならないということになっていたら居心地が悪いのは当然である。それに加え処分される恐れだってあっただろう。
侯爵家の勢力にとってみれば、ケイティとグリードにあんな真似をしたせいで大きく力が弱ってしまったのだ。王子であるグリードには手を出せないが、ケイティには幾らでも手を出せるのだ。没落貴族なんて、ただの平民である。
幸せだー。自由だー。るんるんした様子で王宮内を歩くケイティはよく目撃される。
ちなみにケイティは男にしてはどちらかというと可愛い見た目をしている。女に見えるというほどではないが、背は低いし、かっこいいというより可愛いほうだ。
そんなケイティがるんるんしているわけで、目撃者たちは「楽しそうだな」とにこにことその様子を見ている。
ケイティがそのまま向かったのはグリードの元へである。
「グリード様、終わりましたよー」
「おう」
にこにこした顔でやってきたケイティをグリードは軽い調子で向かいいれた。立場の差などから本来ならこんな態度はできないのだが、ケイティに関しては同じ苦しみを味わった唯一の仲間というわけでグリードにとって友人のような立場と認識されている。
「あれ、リュシー様は?」
珍しくグリードのそばにリュシーが居ないことに不思議そうな顔をケイティは浮かべている。
再会してからというものの、リュシーは「グリード様ともう離れたくない」と言わんばかりにずっと傍にいたのだ。
父親であるアッシュルカの魔法師団長の父親に「グリード様も忙しいんだ」と引っ張られていくのはいつものことである。グリードは10年もの間、このアッシュルカの国に居なかったのだ。記憶喪失という状況で、自分で動くこともままならない中で他国で生活していた。クリス・アーティクルとして、勉強してこなかったわけではない。が、アッシュルカのグリード王子として本来するはずだった勉強が色々あったりするのだ。
「あー、さっきどうしても行かなきゃならないのですって名残惜しそうに出て行った」
「そうなんですか。それにしてもグリード様はリュシー様とラブラブでうらやましい限りです」
正直リュシーのような美少女に好かれ、婚約者で、ラブラブな様子はケイティにとって羨ましい限りである。
(女として生活させられていたときに恋人なんて作れなかったしなぁ。俺も恋人ほしいなっていっても、女として生活してきたから女性についてそこそこ知っているからちょっとなーって気もするんだけどさ)
女性として生活させられている中で、女性の裏側とかも知ってしまっているケイティである。
恋人ほしい、ラブラブって羨ましいと思っているが、女性との付き合いにためらいもあったりもする。 「ん? ケイティなら女性と付き合おうと思えば付き合えるだろ」
「いやー、グリード様の友人ってことでみなさん近寄ってきているだけなんで、ちょっと」
「お前目当てもいると思うんだが……」
「んー、俺グリード様とリュシー様みたいな感じの関係がいいです! 10年行方不明でも思ってくれるみたいな!」
「んー、そうか」
そういってグリードはちょっと考えたような仕草をする。
「はい! あ、やること他ありますか?」
「ああ、そうだな。なら――」
結局その話はそこで終わるのだが、ケイティの話を聞いたグリードがケイティにいくつかのお見合いを持ってくるのは別の話である。
楽しそうに執事の仕事をするケイティに惚れた令嬢とか、ケイティに興味を持ったグリードの妹とか、その他色々女性が表れてケイティはそれから苦労することになるのだが……、ケイティは現状そんなことも考えもせずににこにこと仕事をしていた。
---ケイティは執事生活が楽しい。
これで記念小説終了です。
読者様方のリクエストを書いていきましたが、リクエストしてくださった読者様にとって楽しめるものであったら嬉しいなと思っています。
リクエスト小説は書いていて楽しかったので、また機会があったら記念小説を書きたいなと思っております。
では、ここまでお読みくださりありがとうございました。よろしければ感想などいただければうれしいです。
2016年8月15日 池中織奈