動き始めた人生
どんなに足掻いて試行錯誤を繰り返しても自分の心から目を背けている限り同じ世界を巡り続ける。
(何て愚かなのかしら・・・。)
転生するたびに以前の自分とは違っていると思っていた。
考え方も行動も成長して前に進んでいるつもりだったが、実は同じ場所をぐるぐる回っているだけだったなんて滑稽な話だ。
「さあ、シャロン。そろそろ私達も行こう。」
シャロンへ、父であるカーライル公爵が声をかけ着いてくるように促す。
シャロンは小さく頷くと両親の元へ行き、歩き出した2人の後ろに付き従った。
国王夫妻の他の貴族から挨拶を受ける姿が見えてくる。
貴族の夫妻が国王夫妻へと挨拶を行い、次に後ろに控えた娘を紹介し、皇太子がそれに挨拶を返すという流れが儀式のようにも見えた。
「本日はお招きいただき感謝いたします。陛下、皇后陛下、皇太子殿下。」
「私たちも公爵が来てくれて有難く思うよ。」
国王と両親が形式的な言葉を交わし、シャロンを紹介する場面へと至る。
カーライル公爵から目線で合図をされ、シャロンは両親の後ろから1歩前へ出た。
「私の娘、シャロンと申します。お見知りおき下さい。」
ドレスを少し持ち上げ頭を軽く下げて会釈をする。
「可愛らしいこと。ピアとも仲良くしてくださいね。」
王妃がそう言うと、シャロンは皇太子の前へと進んだ。
「カーライルが娘、シャロンと申します。仲良くしてくださいませ。」
微笑みながら軽く会釈をし、改めてピアニの顔を見るとどこか緊張しているように見えた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
皇太子が黙ったままなので、シャロンは次の言葉が出せず沈黙が流れ続けていた。
「・・・それでは私どもはこれで失礼いたします。シャロン。」
「はい、お父様。皇太子殿下、またの機会にお会いいたしましょう。」
挨拶を待っている貴族はまだまだ大勢いる。
カーライル公爵が退席を促すとシャロンも皇太子へと一礼し、両親の後へと歩き出した。
「・・・・・・・っ!シャロン!!」
呼ばれた声に振り向くと、ピアがこちらへ走ってくるのが見えた。
「・・・何か御用でもございましょうか?」
「君の好きな花は?」
「・・・は?」
「好きな花は何?好きな色は?食べ物は?欲しいものは?本は何を読む?それから――。」
「殿下、落ち着いて下さい。」
シャロンのもとへ着くなり質問を並べるピアにシャロンは制止の声をかけた。
矢継ぎ早に話したせいか、ピアの息は乱れていた。
「どうしたのですか?皆も驚いています。」
「・・・すまない。」
急に走り出したピアニに追いつけなかったピアの従者が遅れてシャロンの所へと到着する。
「無礼を承知で申し上げます。従者を振り切って行動なさるなんて危険です。」
「・・・・返す言葉もないな、申し訳ない。」
申し訳なさそうに笑うピアの態度にシャロンは怒りを感じた。
「本当に分かっておいでですか?そうやって貴方はいつも共も付けずに教会へ・・・いえ、なんでもございません。」
つい前回の転生のことを持ち出そうとしてシャロンは口を濁した。
教会で会っていたことなんて今のピアには関係のないこと。
「ですから、御身の重要性を今一度ご確認くださいませ。」
「・・・・・教会へ君に会いに行くのに護衛をつけるなんて無粋なことしたくなかった。」
「―――え。」
ピアはピアを見たまま固まるシャロンの手をゆっくりと取る。
「私は君のことを驚くほど知らない、知ろうとしなかった。長い間、隣に居たのに。」
取った手を口元に持って行き、指先に口づける。
「君のことを知りたい。心もすべて。」
シャロンの瞳から一筋の雫が流れる。
「シャロンは、どんな花が好き?好きな色は?何の本を読む?」
「ピア様・・・」
ピアの問いに答えたいのに、声が震えて名前を呼ぶことしかシャロンには出来なかった。
「まだ私の事を好きでいてくれている?・・・・・・そうだと、嬉しい。」
繋がれた手を引かれ距離が近づいたと思ったら唇に温かな感触がし、目の前には銀の髪が揺れていた。
「愛している、シャロン。」
私の転生がいつまで続くのかは分からない。
もしかしたらまた、転生してしまうかもしれない。
でも、今回こそは・・・とココロが訴えている気がした。
皆さまの励ましで、完結することが出来ました。お付き合いいただき、ありがとうございます。




