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前編 クランマスターステラの焦燥

初投稿です。

全4話、毎日更新します。

よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)


ダンジョン都市カヴァーチ、ここには5つのダンジョンがある。

そのダンジョンは多くの冒険者を町に引き寄せ、カヴァーチは王国一の賑わいを見せていた。


5つのダンジョンのうちの一つ、第一ダンジョン「サカーイ深層迷宮」にほど近い冒険者ギルド。その併設された食堂で、二人の美女がお茶を飲んでいる。A級冒険者クラン「星屑の乙女」のクランマスター、ステラ・ノクティアと、副クランマスターのミスティ・マグノリアである。


二人の容姿は、女性冒険者の中でもトップクラスと言われていた。しかし今、そのステラの美しい顔は、とある悩みごとが原因でひどく曇っている。テーブルに置かれたお茶にも、ほとんど手をつけていない。


「ねえ、ステラ……知ってる? あなた最近酷い顔してるわよ」


「うっさい」


「また、サカーイ最下層のこと考えているんでしょ?」


「……」


ステラは答えず、カップの中のお茶をじっと見つめる。

「サカーイ深層迷宮」の最下層は50階層。「星屑の乙女」がこれまでに到達したのは第45階層である。46階層以降の攻略を試みようにも、今のメンバーでは厳しい。ましてや最深部の50階層など、不可能に近いだろう。


「今のままじゃアタックなんて自殺行為よ……仕方ないじゃない。実力をつけていくしかないよ」


「それだとレオンハルトの奴に負けてしまう!」


ステラが悔しそうにテーブルの上で拳を握る。

先日、カヴァーチのもう一つのA級クラン「気炎の旅団」が、第46階層以降の攻略に向かった。

結果、「星屑の乙女」にとっては幸いなことに、第50階層の攻略は叶わなかった。しかし「気炎の旅団」は、46階層以降のダンジョン情報のすべてを秘匿すると発表した。ダンジョン情報の公開は踏破者の裁量に任されている。情報を開示しないということは、近い将来「気炎の旅団」が再アタックを考えているということだ。


その「気炎の旅団」のクランマスター、レオンハルトとステラには浅からぬ因縁があった。二人はもともと同じパーティーの仲間だったが、方針の違いから決裂し、お互いが新たなクランを立ち上げたのである。なんとしても、レオンハルトに先んじて攻略を叶えたい。それはステラの冒険者としての意地でもあった。


「ねえ、ステラ……言いにくいんだけど、彼らに頼むのはだめかしら?」


「彼らって……?」


「バフの……」


「絶対にイヤっ!!」


ミスティが言い終わる前に、ステラがその言葉を叩き落とすように拒否した。ミスティは「やっぱりね」とでも言いたげに、小さく肩をすくめる。彼女がそこまで拒否する「彼ら」の正体は、すぐにわかることになる。


◇◇◇◇◇◇◇◇


ある日の冒険者ギルド。

ギルドへ通じる道は、多くの冒険者で賑わっていた。先日D級に昇格したばかりの新進気鋭のパーティー「血風の刃」が、カヴァーチ第二ダンジョン「ナンバー冥府門」の30階層の攻略に成功したのだ。これはカヴァーチの歴史上、最短での攻略である。


ダンジョンからギルドまでの道のりを「血風の刃」の面々が凱旋する。道の両側に集まった冒険者たちが、拍手や声援で彼らを迎えた。


「お前ら、すげぇじゃねえか!」


「よくやった!!」


その「血風の刃」の後ろから、何やら奇妙な格好をした5人の男たちがついてくる。先頭の男は一際体が大きい。頬から顎にかけて髭を伸ばし、何といっても特徴的なのは、顔面に刻まれた大きな×印の傷。5人とも、なぜか日本のいわゆる学生服に似た漆黒のローブを纏い、一糸乱れぬ足並みで歩いている。さらに男のうちの一人は、一辺が5メートルはあろうかという巨大な旗を両手で掲げていた。


「血風の刃」はギルド入り口前で立ち止まると、後ろを振り返り、集まった群衆に向かって礼を述べる。沸き立つ群衆が少し落ち着いたところで、顔に傷のある黒ローブの男が大きく息を吸った。


「『血風の刃』諸君のぉ! 偉業を祝してぇ! エールを送るぅう!!」


その掛け声に応えるように3人の男が両手を構え、もう一人の男が太鼓を打ち鳴らす。


「奮《ふる》ぇー! 奮《ふる》ぇー! けぇえっぷう!!」


「フレッフレッ! 血風!! フレッフレッ! 血風!!」


「「「「うおぉぉーー!!」」」」


彼らの掛け声に群衆も大いに沸き立ち、ギルド前は一際大きな喧騒に包まれた。


この様子を少し離れた場所から、「星屑の乙女」のメンバーも見ていた。ステラは醒めた目で、5人の黒ローブの男たちをじっと見つめている。その隣で、新人の団員がミスティに話しかけた。


「あの……ミスティさん、何ですか? あの妙な連中」


「ああ、あなたはこの間カヴァーチに来たばかりだから、知らないわよね」


「ええ、初めて見ました」


ステラは男たちから目を逸らさない。いかにも興味がなさそうな顔をしているが、二人の会話はしっかり聞いている。


「彼らは『バフの魔術団』といって、付与魔術師だけのクランなのよ」


「付与魔術というと、攻撃力や防御力を上げる魔法のことですか?」


「そう、いわゆるバフね。彼らは自分たちではダンジョン攻略をせず、攻略パーティーに帯同してバフをかけて、法外な収入を得ているの」


「へえ……じゃあ、あのパーティーも、そのバフのお陰で攻略できたんですね」


その一言に、ステラが即座に反応した。


「そんなわけないじゃない! バフなんてただのお飾り。あの若いパーティーが優秀だったって事よ!」


「ちょ、ちょっとステラ、新人ちゃんがビビっちゃってるわよ」


突然の強い口調に、新人の団員は目を丸くしている。


「……すまない」


「相変わらずね、あなたも……まあ、前のパーティーでのこともあるから、気持ちは分かるけど」


ステラがレオンハルトと共に所属していたパーティーにも、付与魔術師がいた。レオンハルトが連れてきたその男はひどく自信過剰で、ことあるごとにステラに色目を使っていた。

そして第3ダンジョン「キシャッダ魔層坑」の下層攻略の際、その男の付与魔術を信用したばかりに実力以上のアタックをしてしまい、こっぴどく撤退した過去があった。その一件が、レオンハルトと袂を分かつきっかけにもなったのである。


「でも、『サカーイ深層迷宮』の最下層へのアタックには、彼らの助けが必要……そう思ってるから、ここのところずっとイライラしてるんでしょう」


ステラの眉がぴくりと動く。図星だった。


「ミスティだって、あいつらの評判は知っているでしょ!」


「酒と女にだらしのない、ガラの悪い連中……でも、冒険者の男なんて、多かれ少なかれそんなもんでしょう?」


「………」


「『気炎の旅団』が先に彼らを取っちゃうかもよ」


「……」


ミスティの一言に、ステラは黙り込んだ。それだけは困る。

嫌いだからと意地を張っている間に、レオンハルトに先を越されては元も子もない。ステラは難しい顔のまま、遠くで騒いでいる5人の男たちを見つめるのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


数日後――

「星屑の乙女」のクランハウスに、むさくるしい5人の男たちが招かれていた。


「おう! ここが乙女たちの家か! 女子の匂いがプンプンするのう!!」


「団長、やっぱりこの仕事受けて正解でしたな!」


家の中に入るや否や、「バフの魔術団」団長ブルーノ=レッドロードと副団長のファウスト=リッテンが、クンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎだす。他の3人まで、乙女の空気を堪能しようと大きく深呼吸している。ステラはそんな5人を醒めた目で見つめ、団員の女子たちは呆気にとられていた。


「だから嫌だって言ったのよ」


「まあまあ、匂いくらいいいじゃない」


ミスティがステラをなだめているところへ、ブルーノが近寄ってくる。


「『バフの魔術団』団長ブルーノ=レッドロードじゃ。しかしカヴァーチ一の美人と言われるお二人、噂は本当じゃったのねんのねんのねん!」


「よろしく」


ブルーノの誉め言葉にも、ステラはそっけなく答える。


「いやー、評判のお二人さんを間近で見られる日が来るとは。まさに眼福眼福」


「そうだな、団長。やっぱり『気炎の旅団』の方は断って正解だったな」


「えっ?」


ファウストの発言にミスティが反応した。


「『気炎の旅団』もあなた達にコンタクト取ってたの?」


「ああ、『サカーイ深層迷宮』の最下層にアタックするっちゅうてのう。少し考えさせてもらっていたら、お前さんたちから話があったもんで、即引き受けたっちゅうわけじゃ!」


「「「「さすが、団長! 役者やのぅ!!」」」」


ステラとミスティが思わず顔を見合わせる。間一髪だった。

この後、ダンジョン攻略について打ち合わせを行い、一週間後に最下層を目指してアタックすることが決まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


一週間後。

カヴァーチ第一ダンジョン「サカーイ深層迷宮」前。

巨大なダンジョンの入り口を前に、「バフの魔術団」の5人と「星屑の乙女」の35人が集結していた。

事前の打ち合わせで、20階層までは「バフの魔術団」が魔物を倒して進む。20~40階層は10階層ずつ、40~45階層は5階層を「星屑の乙女」の団員10人ずつが攻略していく。そして未踏破となる45階層以降は、ステラ、ミスティたち精鋭5人で攻略する。自分たちの担当エリアの攻略が終われば、10階層ごとのセーフティルームに設置された転移魔法陣でダンジョンから脱出する手はずになっていた。


「でも、あなたたちにまで攻略を手伝ってもらって大丈夫なの?」


「いやいや、露払いも応援のうちだと思ってくれ。ミスティちゃん」


「ブルーノさん、ミスティちゃんはちょっと……」


「いいってことよ。なぁ、ステラちゃん!」


「……っ!」


ステラのこめかみがぴくりと動く。馴れ馴れしい呼び方に文句の一つも言いたかったが、これからダンジョン攻略という時に揉めるわけにもいかない。ステラはぐっと言葉を飲み込んだ。


「じゃあ、皆行くわよ!」


「「「「おーー!」」」」


「バフの魔術団」のサポートを受け、いよいよ最下層へのアタックを始めた「星屑の乙女」。


この決断が、まさかあのような結果を生むとは――

この時のステラには、知る由もなかった。

次回「クランマスターステラの希望と失望」

バフの魔術団の評価が、上がったり下がったり!?

明日もフレッフレッ、冒険者!

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