表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元カノに振られ、元カノに告られる。  作者: 紅荒力


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第2話 何にも知らない僕

「お、おはー」


 まるで喉になにかが詰まってるような感覚を感じながら、それでも声を絞りだす。

 時間が止まったと勘違いしてしまうほどの静寂。

 さっきまで各々で話してたクラスの視線が自分に向けられていることが伝わってきて、その一つ一つに棘が含まれていると、どうしても考えてしまう。

 だがその考えは、直ぐに否定された。


「おい、祢援ねおんが来たぞ!?」


 最初に静寂を破ったのは、ゴールデンウィーク前にはもうすでに、このクラスの中心になっていた男子だ。


 その声は時間が再び動き出す合図になったかのように、

 少し振ってしまった炭酸のボトルを開けたときのように、

 静かに、優しく、溢れだす。


「ネオ!久しぶり」

「ちょっと寂しかったじゃねぇか」

「ネオ、お前の顔もう少しで忘れるとこだったぞ」

「なんか大きくなってね?めっちゃ背伸びてんじゃん」

「勉強してたかー?」


 男子が声を上げれば、

 女子もそれに続いて声をかけてくれる。


 流石に全員とまでは言わないが、それでも、物凄く嬉しかった。


 感動して立ち尽くしていると、突然後ろから衝撃がくる、きっとレオが叩いたのだろう、痛かったけどそれ以上に優しさが伝わってきた。


 何か言わないと、と思ったが言葉が出てこなくて、それでもこれだけは、言いたかった。


 先程と同じように喉が詰まるが、

 先程と同じ様な不快感はなく。


 むしろ、心地よくて。


「ありがとう、ありがとう…」


 誰に向けたかは自分にも分からない。

 迎えてくれたクラスメイトかもしれないし、

 迎えられるように手を打ってくれたであろうレオたちかもしれないけど、あるいはその両方かもしれないけど、自然と口からこぼれ出たものだった。




「で、ネオは進学先どうするの?」

 玲生れおが、心配そうに聞いてきた。

「実は”最高”に受かってます」

「マジかよ俺等と一緒じゃん!?」

 最層高校、略して最高だ。

「祢援って最高に行けるほど学力あったっけ?」

「引きこもってる時暇すぎて勉強してたからね」

「あんなに勉強しなかったネオが!?」

 最高は進学校だから入るのにそれなりの学力がいる。

 更に学校に行かなかった僕は、他の人よりも高い学力が必要だったのだが、レオときょうが最高に行くと未来から聞いていた僕は、かなり勉強を頑張ったのだが、それは二人には秘密だ。

「じゃあまた三人一緒のクラスだといいな」

 レオが嬉しそうに言った。

 僕と響も顔を見合わせて、笑いあった。


 あぁ、学校に出てきてよかったな。


 今この瞬間心からそう思った。




「なんか、すごい見られるな……」

 卒業式の入場待機のため体育館へ向かっているのだが、チラチラと視線を感じる。

「嫌なら睨み返そうか?」

「……いや、大丈夫そうかも」

 レオは答えを聞く前から周囲を睨み回していた。

 こらこら

「祢援は色んな意味で有名人だからね」

「何だよ、色々って」

「さあ?」

 えー、怖いって、やめてよ。傷口開きそう。

「なんか困ったことあったら教えてよ」

「さらに怖い!?」

 そうこう話していると列に追いついた。

「じゃ、練習出てない奴頑張れよ」

「確かに頑張れよ」

「うっ……お、おう」

 そう言い残して二人は列の前に歩いていった。


「ねぇ、祢援」


 後ろから背中を突かれた。

真岩杷子まいわはこ?」

「何故にフルネーム?まあいいや、この卒業式が終わったらさ、ちょっと屋上に続く階段に来てくれる?」

「え、なん……」

「よろしくね」

 それだけ言って彼女は自分の場所に戻っていった。

 なんの用だろう、まさか告白!?

 なんてね、彼女に限ってそれはないか。

 真岩杷子は元カノの親友で、付き合っていた頃は彼女ともよく喋っていた。

 その頃でも二人きりで喋ることなんてなかったのに、今になって何を……。


『卒業生の入場です』


 思考の世界に浸っていると、列が動き出した。

 まあまずはこの練習してない卒業式を無事に乗り切らないとな。

 不安な約束に後ろ髪を引かれながら、紅白に彩られた入口をくぐった。




「何の用?」

「一人で来たんだね、一人で来てって言い忘れたからてっきりいつもの3人で来るものかと思ってたよ」

 屋上の扉の前で振り向いた杷子は、やや上機嫌に俺を見下ろす。

「わざわざ人気のない所に呼ぶくらいだから、人に聞かれたくないのかな?って思って」

「流石祢援、麗夢らむの選んだ男」

「……」

 無意識に自分の顔が強張るのが分かる。

「まあ怖い話じゃないから安心してよ、嬉しい話でもないけどね」

「何の用?」

 話の進まない杷子にもう一度問いかける。

「そうだ、麗夢に会った?同じクラスなんだから会ったよね、すごく雰囲気が変わってたでしょあの子」

 未来から変わっていたことは知っていたけど、実際に見ると驚いた。

 僕と付き合ってた頃はあまり気にしていなかった髪型とか、化粧とか、何より立ち振舞が美しくなっていた。

「ちょうど祢援と分かれてからかな?私に、女の子について教えてって頼み込んできたのは」

 そこで嫌な感情が湧き上がるのを感じた僕は、もう1度「何の用?」と問いかけた。

「そうせかせかしないでよ、久しぶりに話せたんだからもっと話そうよ」

「二人をまたせてるんだ」

「本当仲いいね」

「羨ましいよ」と続けて呟いた。

 杷子だって麗夢とはすごく仲いいじゃないか。

「……」

「わかったよ、本題に入りますか」

 そう言った杷子は階段に座って俺を手招いた。

「もっと近づいたっていいんだよ?」

「遠慮するよ」

 4段開けて止まった僕に不満げに頬をふくらませる。

「祢援はさ、なんで振られたか考えたことはある?」

「振られた?麗夢との話?」

 1段さがった僕に「また離れた」と実に楽しそうに言う。

「祢援に他の恋はないでしょ」

 なんでそう言い切れるんだ。間違ってないけど。

「散々考えたことだろうと思うけどね、その難題に答えを与えようかと思って」

「……っ」

 声が出なかった。

 散々考えたさ。なんか悪いことしちゃったかな?とか、エスコートが下手だったかな?とか、本当は僕のことを好きじゃなかったのかな?とか。いくら考えても答えなんか出るわけないのにさ。

 その答えを教えてくれると。


 怖い。


 知りたいけど知りたくない。

 きっと知ってしまったら、麗夢との繋がりが消えてしまう気がして……。


「でもその代わりに条件があるの」


 杷子の声で思考の世界から戻される。

「……え?」

「ただで教えるわけ無いじゃん、自分から楽しみを潰すような私じゃないからね」

「……条件は?」

「麗夢ともう1度付き合ってよ」

「へ?」

 予想外の条件に気の抜けた声を出してしまった。

 難しいこととか、僕が嫌がることを要求するかと思ったのに。

 その反応を見て杷子が「ふふっ」と笑う。

「もっと嫌な条件だと思った?」

「……っ」


 気持ちの悪い会話だ。


 会話がキャッチボールなら、僕が投げるところに投げる前から構えられている感覚。返球するたびにより深く見透かされる気がして。

「どうするの?」

「付き合う……付き合いたい」

 一呼吸おいて、


「また付き合いたい」


 そう答えた。

「よく言えました」

 いつの間にか近づいてきた杷子に、頭を両手で持ち上げられ目が合う。

 この話が始まってから合わせられなかった目が合う。

 吸い込まれそうだった。

 体の力が抜け、意識が薄れ、宙に浮くようだった。

 不快ではないその不思議な感覚に連れて行かれる瞬間、ガタッという音と、後ろから服を引っ張られて意識が戻された。


「ネオにぃに近づかないでって言ったよね」


 服を引っ張った主は未来みくるだった。

「あら残念、いいところだったのに」

「何しようとしてたの?」

「さあ?」

 未来は僕を後ろに引っ張って前に出た。

 誰にでも愛想の良い未来が、人に向かってこんなに感情を丸出しにしてるのを見るのは初めてだ。

「ネオにぃ行くよ」

「あ、あぁ」

 未来にされるがままに引っ張られて、階段を降りる。

「祢援、1番危ないのはその子かもしれないよ」

「え、どうゆう……」

「ネオにぃ彼女の言葉に耳を貸さないで」

 僕にだけ聞こえる声で未来が囁く。

「あ、私と麗夢2人とも同じ最高だから、よろしくね」

「そうなんっ……」

 未来が更に強く服を引っ張った。




 そのまま家まで引っ張っていかれた僕は、嬉しい気持ちと、不安な気持ちと、楽しみな気持ちと、怖い気持ちとでぐるぐると、感情が渦巻いていた。

 ただ何より、いつもとは似ても似つかない雰囲気の未来の背中が頭から離れなかった。

 その日は最後まで未来が口を開くことがなかった。


 母さんにあんな顔させちゃったな、明日また起きたら未来と話をしよう。


「……」


「あぁ……僕は何も知らないんだな……」




 次の朝、未来は何事もなかったかのように接してきた。

 しかし階段でのことを聞くと、聞こえないふりをするかはぐらかされるかで、何も聞けないまま入学式の日が来てしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ