閑話休題というためには話が逸れなければならない
釣り職人の朝は早い。なんなら寝ていない。そもそも来訪者はプレイ中寝ないので釣り職人で無くとも朝が早い。というか寝ていない。DECO世界における一日とはつまり2時間半なので、DECOプレイヤーが2徹したとか言っていても、5時間連続プレイという意味であることも多々ある。
「昨晩三日くらい寝てないわ」
とかリアルで訳の分からないことを言い出したらそれはDECOプレイヤーだ。それに気付いたなら貴方もDECOプレイヤーだ。DECO以外のゲームの可能性もあるが、現在MMORPG分野ではDECOはプレイヤー数の多いタイトルなので、実際そうである可能性は高い。だからと言って気軽に、
「DECOやってんの?」
などと声をかけるのは御法度だ。現実とは違うキャラクターに成り切って遊ぶことこそが命題のMMORPGでは、現実とゲームは完全に切り離しておくべきなのだ。特にDECOはひとつの世界しかないため、全プレイヤーは同一世界に存在している。リアルでDECOプレイヤーと知り合うということは、DECO内のキャラクターがバレるという危険性をはらんでいる。そうなるともうリアルの知り合いに監視されているSNSアカウントのようなもので、思う存分好きに遊ぶことができなくなる。人の目を気にした発言しかしないSNSアカウントのなにが面白いというのか。匿名とは節度を持ってはっちゃけるためにあるのだ。
閑話休題。というか閑話しかしていない。
釣り職人の朝は早い。夜も遅い。繰り返すが来訪者は寝ないので、朝も夜も無い。DECOの釣りは現実のそれと比べるとかなりアクティブだ。頻繁に魚がかかる。だがそれも現実の釣りと比べた話で、10分くらいなんの反応も無いということはざらに起こる。おそらくはこの辺がDECOの釣りが来訪者に好まれない一因であるように思える。
釣りはとにかく待ちの姿勢なのだ。
これがVRゲームで無ければ、他のことをしながら釣りができるかもしれない。読書、アニメ鑑賞、なんなら他のゲームをプレイしながらアタリが来るのを待つということができる。だがDECOでできるのはせいぜい近くにいる来訪者と駄弁るか、ウィスパーでフレンドと駄弁るかのどちらかだ。誰かとのんびり話をしながら金策するのには向いている。だが効率はよろしくない。
効率良く金を稼ぎたいのであれば、装備系の職人になることをお勧めする。先行組の職人に追いつくのは至難の業だろうが、スキルの低い、つまり依頼料の安い職人というものも常に必要とされる。現状は需要に供給が追いついていないので、装備職人を本格的にやろうという人は引く手あまただ。なんならクランが専属で雇いたいと言ってくることすらあり得る。そうなればクランの資金でスキルを上げたい放題で、クランの規模にもよるがあっという間にスキル値最大ということも夢では無い。
いや、流石に言い過ぎた。
現状ではスキル値60くらいが目処であろう。ミスリルの剣を耐久度100%まで修理ができる辺りだ。
修理ではあまりスキルが上がらないので、そこまでくるとアダマンタイトを使って新品を作らないと中々スキルが上がらないのだが、これが供給量がとにかく少ない。ベルグリン山脈の洞窟まで行って採掘しなければならないのだから当然だ。ベルグリン山脈にレベル上げに行くパーティは大抵ツルハシを持って行っているが、それでも中々供給量が増えないというのが現状である。
鍛冶スキル60の野良鍛冶職人が一時間に稼ぐ額は100万Gを越えているとすら言われている。稼げすぎるという理由で修正の入った鉱石マラソンですら時給8千である。文字通り桁が違うのだ。その代わり経費も半端ないのが装備職人である。時給で100万稼いで、秒で10万溶かすのが装備職人だ。装備品の作成に失敗などすれば目も当てられない。だがスキルを上げるためには成功率の低い作成に手を出さなければならないのである。スキルレベルの高い装備職人が高額の手数料を取るのは、スキルレベルを上げるためにそれに見合った投資をしているからだ。そしてほとんどのプレイヤーがそれに文句を言わないのは、自分が真似できないと分かっているからだ。
例えばの話をするが、鉱山に行って一時間で銅鉱を20個手に入れたとしよう。これを競売に流せば、まあその時の相場にもよるが、今だと400Gくらいだ。そして売るのを諦め、鍛冶スキルを上げるためにインゴットへの精製を行ったとしよう。貴方の鍛冶スキルが0だと仮定して、運の要素も大きく絡むが、できあがるインゴットが4個であれば良い方だ。スキルは0.1でも上がればかなり運がいい。幸い銅鉱のインゴットへの精製は需要があるので、インゴットも4個400で売れる。時間こそ消費したが、スキルを0.1得られて、お金も400増えたと喜ぶのは、まだ素人だ。ここで得た400を使い競売で銅鉱20個を買い、インゴットへの精製を繰り返すのが鍛冶スキル上げというものだ。なお、銅鉱からインゴットへの精製はスキル0でもそこそこ成功するが、失敗することもある。失敗して素材を全ロストしたら鉱山へ逆戻りである。
今挙げたパターンはかなり楽な部分で、銅鉱のインゴットへの精製は手間賃が含まれて同額と言った感じである。鍛冶スキルが5になって銅鉱のインゴットへの精製でスキルが上がらなくなると、インゴットを使って装備品を作るか、失敗率高めなことに目を瞑って鉄鋼の精製に手を出すかになる。どちらにしても所持金が減るゾーンである。こうして時間かお金を消費しながらスキルを上げつつ、修理や依頼でお金を稼ぐのが装備職人だ。作成失敗によって秒で10万G溶けても心が耐えられるのなら本当にお勧めである。
閑話休題。
その点、釣りは持ち出しが少ない代わりに稼ぎが少ないと言える。釣り場にあった竿さえ手に入れれば、後は餌代くらいしかかからない。竿が折れることもあるが、それは釣り場に竿があっていないからだ。餌代も本当に大したことはない。ミミズなんて1Gで売っているうえ、割りとどの釣り場でも使える万能餌だ。見た目に耐えられるのであれば持っておきたい。ミミズがどうしてもダメなら、ちょっとお値段が上がるがダンゴ系の餌がお勧めだ。スタック数も多く、持ち運びにも便利である。自分で作成すればほとんどお金もかからない。初期の初期、フナとかイワシを釣ってるころはほとんど稼ぎにもならないが、スキルが上がってくるとそうでもなくなってくる。
例えばナハトの実体験になるが、海釣りでフグが釣れるのはいいものの、調理スキル持ちがまだフグは調理できないというので持て余してギルドの倉庫に預けていたところ、毒の抽出が錬金スキル上げに使えるという情報が広がり、いきなり需要が増加、競売での価格が跳ね上がり一晩で50万Gくらい儲けたことがある。
とは言え、これはかなり特殊な例で、やはり釣りの最大の供給先は調理スキル持ちだ。調理された食料は飢えゲージを回復させるだけで無く、特殊効果を来訪者に与える。肉系調理品は攻撃力が上がったり、魚系調理品は防御力が上がったり、というような感じだ。肉はともかく魚はどうして? という疑問もあるだろうが、そこはゲームなのでバランスを取ったのであろう。とにかく魚料理はタンク職の来訪者に安定して需要がある。
ナハトもちまちま調理スキルを上げていて自ら釣った魚を調理して売りたいところなのだが、今のところ釣りスキルに調理スキルは追いついていない。それでもまあ、スキルの上がりそうな魚を釣って競売に卸して時給に換算して1000Gくらいは稼げるかなあと言ったところである。稼ぎだけを見るなら今でもフグを釣るのが一番なのだが、スキルが上がらないのでパスしている。
最近はアカネが同行していることもあり、スキルすら上がらない魚を釣っていることも多いのだが、まあ、それでも構わないかなとナハトは思っている。
今日もログインすると来訪の間の前でアカネが待っていた。
人を緊急ログアウトさせておいて、自分は無事に戻ってきたとお冠だったのも一週間くらいの話で、今ではもういつも通りだ。逃がしたNPCが全員無事だったということも大きい。
「ナハトさん、今日はどこに行きます?」
「そうだな、今日は――」
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