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ダークエッジクロニクルオンライン ~辺境世界の釣り馬鹿野郎~  作者: 二上たいら


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22/25

DECOだからってなにしても許されると思うなよ 11

 馬車の護衛はNPCたちに任せる。来訪者(プレイヤー)たちの役割は敵軍の足止めだ。300に届かない数で、1000前後の魔族を押しとどめなければならない。もちろんこれはゲームなので、現実の戦争とは違いレベルやステータスという概念が織り込まれている。それによればレベルはともかく、魔族のステータスは睡眠不足や、飢えゲージによって弱体化デバフを受けているはずだ。

 足を止めて戦うことは来訪者たちにとっても望むところだった。神官や魔法使いと言った後衛職は移動しながらでは戦力にはならないからだ。


「魔法使いは詠唱開始しろ!」


 前衛たちが魔族軍に向かって行く。繰り返して言うがこれはゲームなので、来訪者も敵もゲーム的制約からは逃れられない。


「おっしゃ、<タウント>!」


 ゆえに魔族軍が馬車を狙いたいと思っても、彼らは敵意値(ヘイト)を無視できない。一体の魔族に挑発がかかると、自動的にその敵意値は周りの魔族たちに伝播していく。いわゆるリンクと呼ばれる状況だ。1000の魔族を取りこぼしなく、とまではいかなかったが、来訪者たちはその大半の敵意値を自分たちに向けた。そして魔法使いたちのいる場所へと一目散に走って行く。状況としては雑魚狩りレベル上げの構図に近い。魔法陣を最大値まで成長させた魔法使いの攻撃魔法は、格下の敵であれば確殺できる。もちろん今回は雑魚狩りというほどレベル差があるわけではなかったので、敵のHPは半分くらいが残る。魔族たちは魔法使いたちに殺到して、武器を振り下ろした。言うまでもなく、攻撃魔法によるダメージで高い敵意値を稼ぎ出したためだ。神官たちも分かっていて魔法使いたちに神聖術をかけるようなことはしなかった。下手に回復すれば自分たちが次の標的になるだけだからだ。


「犠牲は無駄にはしません!」


 馬車のために道を作らなければならなかった北門での戦いとは違う。アカネは軽快に身を翻しながら、次々と周りの魔族たちに攻撃を加えていく。ナハトの戦い方をその目で見て学んで彼女なりに工夫した戦い方だ。ナハトほど的確に急所への一撃(クリティカルヒット)を繰り出せるわけではないが、移動しながら戦う彼女に魔族の攻撃は当たらない。


「もともと乱戦は得意なんですよっ!」


 DEC6ではレベルを上げて無双プレイを楽しんでいたアカネであるから、一対多数という状況には慣れている。回避を失敗して攻撃を受けるとダメージはあるが、レベル60から受けるダメージというには少ない。ナハトの言ったとおり敵には大きい弱体化が掛かっている。かと言って甘んじて攻撃を受けられるような状況でもない。今はまだ神官が無事だが、彼らもすぐに敵意値が上がって集中攻撃を受けることになるだろう。そうなると回復が受けられなくなる。あっという間に来訪者たちは全滅するだろう。

 だからもっと速く、鋭く、正確に、対応しろ。状況に。

 DEC6では一対多数のセオリーは後退しながら、一体ずつ確実に数を減らしていくことだった。だが今は後退できるほどのスペースはない。全周を敵に囲まれている。だったら前に進む!

 刃と鎧の間を抜け、切り裂きながら前へ。前へ。前へ。進んでいる間は背後からの不意打ちは食らいにくいはずだ。敵を倒そうと思うな。自分はナハトではない。回避を最優先、攻撃は次の次だ。急所への攻撃(クリティカルヒット)など狙うな。蚊の刺したような攻撃を積み重ねて、積み重ねて、積み重ねていけ。

 それでもまだ足りない。

 回避しきれない。身体を抜けていく刃の感触。怯むな。緩むな。今の状況に対応しきれないなら、先を読め。1秒先にどうなっているのかを想像しろ。そこに向けて身体を動かせ。状況を作り出せ。

 DECOのMOBは攻撃に必ず予備動作がある。ナハトが言っていた。アカネには分からない。戦技(アーツ)の予備動作なら分かる。だが通常攻撃の予備動作はアカネの目には分からない。でもナハトがあると言うのなら、それは“ある”のだ。集中しろ。僅かな動きを見逃すな。

 魔族たちの身体はアカネのそれより二回りほど大きい。囲まれた威圧感は大きい。現実の肉体に合わせなどせずに巨漢のアバターを作成するべきだっただろうか? だがその場合、今ほど自由にアバターを動かせたかどうか分からない。

 カードはすでに配られた。手札で勝負するしかない。

 身体が小さいなら、それを利用しろ。膝を曲げろ。姿勢を低くしろ。自然と魔族たちは攻撃を振り下ろす形になる。ただでさえ密集しているのだ。刃を横には振りにくい。

 振り下ろすためには武器を振り上げなければならない。予備動作は大きくなった。見える。アカネにも分かる。攻撃が来る。普通なら後ろに下がる。攻撃範囲から逃れる。だがそれはできない。前に進まなければならない。攻撃範囲とは武器の届く範囲のことか? 違う。振り上げた状態から振り下ろされる攻撃はある一定の範囲に収まるはずだ。そこにさえ留まらなければ――。

 戦斧バトルアックスがアカネの頭部を掠めて大地に叩きつけられて大地を割った。強烈な攻撃だったが、当たらなければダメージはゼロだ。アカネは魔族の腹を剣で切り裂いて背後へと抜けた。

 1カ所に留まるな。走り続けろ。スタミナ残量など気に掛けるな。

 全感覚没入型VR(フルダイブ仮想現実)の良いところはどれだけ運動しても疲れないところだ。スタミナは数値であって実感できるものではない。だが肉体的な負荷は無くとも、思考を集中させ続けることは難しい。仮想現実に接続していても脳は脳だ。心は身体だ。精神的な疲労は蓄積する。深い集中は15分程度しか続かない。人間の身体がそう出来ているからだ。人間の集中力持続限界である90分まで戦い続けるにはアカネは集中しすぎた。熱を入れすぎた。熱くなりすぎたのだ。

 自然とその動きも雑になる。思ったように身体が動かなくなる。何をすればいいのか分からなくなる。足が、止まった。アカネに魔族たちが殺到して、それぞれの武器を一斉に振り下ろした。アカネが死を覚悟したその瞬間、横から突き飛ばされる。地面を転がって、魔族の足下に叩きつけられる。顔を上げる。何が起きたのか理解する。


「ナハトさんっ!」


「いやぁ、悪い。つい手が出ちまった」


 如何にナハトと言えど全周からの攻撃を一斉に受けて総てを躱すことは不可能だ。アカネを突き飛ばして割り込んできたのだからなおさらだ。その身体にはいくつもの刃が食い込んでいる。


「女の子を先に死なせちゃ格好悪いしな」


「散々ゾンビ作戦させた人の発言じゃないです。あと最近だとそういうの男女差別ですよ」


「ポリコレなんざ犬にでも食わせとけ。格好付けたいときに格好付けるためにMMORPGやってんだろうがよ!」


 ナハトのHPはミリで残っていた。ゲージで見ればほぼ空っ穴だ。アカネは飛び起きて武器を拾った。ナハトと背中を合わせて立つ。


「どうやら俺たちが最後の生き残り(ラストスタンド)だ。十分に時間も稼いだし、今更NPCのためにできることもない。ああ、ここは任せて先に行けって言い忘れてたなあ」


 アカネは微苦笑を浮かべた。


「せっかくなら最後まで格好付けましょうよ」


「そうだな。さあ、死んでも死なない来訪者だが、簡単に殺せると思うなよ。ミリで残ったHP、削りたければその命を差し出(ベット)しな。どちらが先に果てるか、試してみるか? 魔族ども」


 啖呵を切ったナハトが魔族に向かって突っ込んでいく。

 それを背後で感じてアカネも剣を握り直した。ナハトのような台詞はアカネには思い浮かばない。それでも何かを言おうとして口を開いた時だった。


「――そこまでだ! 我が同胞よ」


 威圧感のある声が辺りに響いて、魔族たちが動きを止めた。二人を取り囲んでいた魔族たちが、まるで海が割れるかのように道を作っていく。その向こうから姿を現したのは一際身体の大きい魔族だ。獅子頭の魔族。両手剣をまるで片手剣であるかのように、両手に一本ずつ持っている。


「まったく我の楽しみを奪うなと言うに。残ったのはたった二人ではないか。これでは長くは楽しめぬ」


「楽しむ?」


 ナハトが聞いた。


「そうだ。我も知識として知っているだけだが、不死身の来訪者とやらにも恐怖があるらしい。どうすればそれを引き出せるのか、ずっと楽しみにしておったのだ。貴様ら二人はいい実験動物だ。簡単に死ねると思うな」


 その流暢な語り口にアカネはゾッと冷たいものを感じた。この魔族のAIは普通のMOBに比べてずっと高性能だ。そしてこの魔族(AI)はアカネとナハトで遊ぶつもりなのだ。無邪気な子どもが昆虫の羽を毟るように。死なない命だから軽く扱っても良いと言っている。


「ナハトさんっ!」


 アカネは咄嗟にナハトを切ろうと剣を振りかぶった。HPのほとんど残っていないナハトならアカネでも殺せる。死に戻りできる。しかしその剣はナハトに届くことは無かった。今まで気配すら感じさせなかった人間の男(・・・・)がアカネの剣を盾で受け止めたのだ。


「早い判断だが、そうはさせねぇよ」


「お前はッ!」


 その男にアカネは見覚えがあった。名前すら知っている。


「デイラッ!」


 かつてアカネを騙して陥れた男が、今またアカネの前に立ち塞がっている。


「あん? 誰だっけ、お前?」


「そこをどけッ!」


「もう遅い」


 魔族の神官がナハトにヒールを掛ける。そのHPがアカネの一撃では殺せないくらいまで回復する。やはりこの魔族はアカネとナハトを死なない程度にいたぶり続けるつもりなのだ。HPが減ってきたら回復すらする。DECOでは戦闘中に緊急避難としてログアウトされないように、ログアウトするためには魔法詠唱のような待機時間があって、攻撃を受けたらリセットされる仕組みだ。つまり攻撃を受け続けている間はログアウトすらできない。

 とは言っても一応、基本のVRシステムのほうに緊急ログアウトする手順はある。この手のループがバグで発生する危険もあるからだ。ただしDECOではこれを行うとリアル三日のログイン停止措置が取られる。乱用されるのを防ぐためだ。


「ナハトさん、緊急ログアウトしましょう!」


「確かにちょいとヤバそうだ。そうするか」


 アカネは基本VRシステムのメニュー画面を呼び出して、緊急ログアウトを選択した。緊急ログアウトに通常のログアウトのような待機時間は無い。アカネは次の瞬間にはベッドで横になっている自分を自覚した。

 最後にナハトの声を聞いた気がする。

 アカネは慌ててPA(個人端末)に飛びついてナハトにメッセージを送った。


【こっちはログアウトできました。ナハトさんは無事ですか?】


 しかし返事は返ってこなかった。ナハトは最後にこう言ったのだ。


「ここは俺に任せて先に行け」

DECOだからってなにしても許されると思うなよって気持ちがいっぱい詰まっています。


お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 言ったったwwww ・・・はさておき、魔族は何をしてくるつもりなんでしょうね?
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