DECOだからってなにしても許されると思うなよ 10
魔族の反撃によって来訪者たちによる後方攪乱が終わるかというとそうではなかった。門が強襲されているのであれば、門以外のところから町の外に出れば良い。城壁は高く、飛び降りれば落下ダメージは避けられないが、レベルの上がっている来訪者たちが死に至るほどではない。元より生きて戻るつもりもなし。行きの道さえどうにかなればよい。
かと言って門の守りを疎かにできるわけでもなかった。昼夜を問わず攻めてくる魔族によって衛兵たちの睡眠も妨害され、こちらにも弱体化が発生し始めたのだ。幸い攻めてくる魔族たちも弱体化しており、戦線が破られるほどではなかったが。
後方攪乱作戦が始まってDECO内で五日が経過した。ナハトが町の人々に約束した期日だったが、魔族による門への昼夜を問わない攻撃が続いていて脱出の目処は立たない。
しかも来訪者たちが後方攪乱に出ずっぱりになっていることで町の食料は確実に減少を続け、早くも枯渇が見え始めていた。いつまでもこの状況に甘んじてはいられない。
リアルの時間が日本時間で土曜日の深夜に入り、デクスタントにいる来訪者の数がもっとも多い時間帯となった。それでも来訪者の数は総勢で300人と言ったところだ。このうちカンストしているのが二割。残りはレベル上げのためにこの近辺を訪れていた来訪者で、別の職業でもカンストしていないという状況だ。
一方、デクスタントの住民は衛兵が40名。一般市民は600人で、このうち100人ほどが子どもや老人で戦えない。彼らを馬車で脱出させるにも、馬車が5台は必要だ。
『そろそろマズくないですか?』
アカネがナハトに飛ばしたウィスパーに返事が返ってくる。
『リソースの枯渇というのなら相手だって同じのはずだ。連中、その辺の魔物を狩り始めた。食料が枯渇しているんだ。だがどうやったってこれだけの数に食料を供給するのは無理だ』
『飢えゲージによるデバフも付くってことですか』
『いま単独で狩りに出てるヤツを狩ってみてる。たぶん二重にデバフ付いてるな。わざと攻撃食らってみたけど、そんなに痛くない。ダメージもよく通る。レベル40相当くらいまで弱ってるんじゃないかな』
『門のほうではそんな感じしないですけど』
『攻撃に出てる魔族には優先的に食料を回してるんだろう。つまりそこさえ突破できればNPCが逃げ切れる可能性はある』
『希望が見えてきましたね』
『予定通り今夜決行でいいと思う。多分、これ以上の弱体化は望めないし、そろそろ絶望の壁からの救援がやってくる可能性がある。その前に脱出したい』
『それじゃプレイヤーやNPCに話を通しておきます』
『ああ、俺は食料の供給を少しでも邪魔しておくよ』
ウィスパーを終わらせたアカネは町長のところへ行き、今夜決行の予定だと伝え、その後来訪の間の前で出てくる来訪者に同じ事を伝えていった。NPCには今のうちに30分の睡眠を取ってもらわなければならない。できれば衛兵にも睡眠を取らせてやりたかったが、いつもと違う動きをして魔族側に今夜決行を気取られるわけにはいかない。彼らは弱体化を抱えたまま作戦に従事してもらうことになるだろう。来訪者たちは話を聞いた後も南北双方の魔族軍へのハラスメント攻撃を続けた。
そして一日の短いDECOではあっという間に日が暮れる。アカネは北門に、ナハトは南門に付いた。南門は放棄するが、それまでは衛兵が押さえていなければならないし、放棄のタイミングを伝えるためにウィスパーを飛ばせるフレンドが一組、南北に分かれる必要がある。
焼き魚が振る舞われる。来訪者にとっては久しぶりの食事だ。飢えゲージが減少して弱体化が解除される。デクスタント最後の食事だ。死んでデクスタントのログインチューブに戻ってももう食事は手に入らないと思わなければならない。
NPCたちの調子は悪くないようだった。老人と子どもを除いて皆が武装している。耐久度に不安はあるが、魔族たちから奪って数だけは十分にあった。
「じゃあ、やるぞ。みんな!」
来訪者のひとりが言い、皆が鬨の声を上げた。先鋒は来訪者たちだ。衛兵たちの脇を抜けて魔族たちにぶつかっていく。弱体化の抜けたカンスト来訪者の攻撃は、弱体化のある魔族を次々と屠っていく。
「魔法使い!」
詠唱待機の終わっていた魔法使いたちが一斉に範囲魔法を放つ。魔法陣を最大まで成長させたその威力は、一撃で範囲内の魔族たちのHPを半減させた。範囲が被っていた一部では全損させている。
「走れ! 道を作れ!」
目標はここの敵を全滅させることではない。あくまで馬車が通れる程度の道を作り出すことだ。最後の来訪者が出撃すると、続いて衛兵が門を捨てて飛び出した。現在門を攻めていた魔族は1000程度だ。来訪者、衛兵、そして一般NPCすべてが協力すれば道を穿つことも可能だ。
そして果たしてそうなった。魔族の軍勢が割れ、北門から抜ける一本の道が出来た。
「馬車を出せ! 走れ! 走れ! 走れ!」
老人と子どもを乗せた馬車が走り出す。上等な箱馬車ではない。ただの荷馬車にいっぱいのNPCを乗せている。そんなに速度が出るようなものではない。魔族の死体に乗り上げながら、馬車は皆が協力して作り出した道を抜けていく。
『ナハトさん、馬車が出ました!』
『分かった。南門を放棄してそちらに合流する』
アカネ自身は1体の魔族と切り結んでいる最中だ。状況が状況なので足を止めて殴り合う他にない。それでも可能な攻撃はスウェーで避けたり、剣で打ち払ったりする。弱体化しているとは言っても、レベル60の相手だ。レベル41のアカネでは荷が重い。それでも馬車が抜けるまでは!
城門の上に待機している神官からヒールが飛んでくる。魔法使いが範囲魔法で固まっている魔族を一掃していく。勝てるとまでは言えなくとも、十分な打撃を与えている。そして馬車の最後の一台が道を抜けていく。道を作り出していた総員が馬車の動きに合わせて走り出した。魔法使いや神官も城壁から飛び降りてくる。南門からナハトと衛兵が走ってきた。
その後ろから魔族たちが迫ってくる。デクスタントは落ちた。落ちたが、馬車は無事だ。NPCに犠牲者が出ているかどうかまでは分からないが、少なくとも馬車は無事に走っている。
「やった! やりましたよ! ナハトさん」
「喜ぶのはまだ早い。メルニアに辿り着くか、領軍に保護されるまでは油断するな」
一行は進路を北東に向ける。道から外れてはいるが、魔族の本隊から迂回することを選んだ。敵意値の残る魔族が追ってきている。挟み撃ちになるのは避けたかった。前衛にNPCの衛兵、馬車の警護に一般NPC、しんがりを来訪者たちが務める。来訪者に脱落者を出しながらも、一行は最初の丘を越えた。そして見た。丘向こうに布陣する1000ほどの魔族の軍勢を。本陣を離れて、こちらの迂回路を読んで、待ち伏せていたのだ。
「馬車を逃がせ! 戦えるもので食い止めるぞ!」
衛兵が、NPCが、来訪者が、馬車が走り出した。
これが最後の戦いだ。
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