団子屋のクリスマスツリー(謎)
いかれたバイトメンバーを紹介するぜ!
一人目、能天気な魔法使い由布梨ー!
二人目、へたれ銀行員ー!
三人目、元食い逃げ犯ー!
四人目、王様ぁああああ!
(`・ω・´)以上だ。
茶店の前はひどい騒ぎだった。
店員がいなくなった、ということで会計もままならず、適当に金を伏せて出ていく客や、それすらもせずに出て行ってしまう客もいた。正義感のある客がそれをとがめだし、やいのやいのと諍いをしていた。
由布梨は額に手を当てて悩んだ。
これを収集つけるのは一苦労だ、と。
「由布梨」
自分の名前を呼ぶ声に振り返ると、そこには珍しい組み合わせの三人がいた。玉兎と恵也と、基希がぽかんと口を開けて立っていた。
「今、茶店に店員がいない状況になってて、様子を見に来てて」
由布梨は言った。
「道理で騒がしいわけだ。仕方ない、弥一郎たちが留守から戻るまで面倒をみるか」
基希が言った。
「我も手伝ってやろう」
「え、そうなのか? 要人様がやるっていうんなら、俺も参加しない訳にはいかねえな」
「ほ、本当に?」
この面子で茶店を回すことなんて、出来ないんじゃないか、と由布梨は不安だった。
内訳が、銀行員一人はいいとして、改心した食い逃げ犯一人、王一人に魔法使い一人。
由布梨の不安とは裏腹に、三人の表情は自信ありげに輝いていた。
(その無根拠な自信は一体どこから……)
店先で騒いでいる客たちに、今から一つ一つ聞きますから、と声をかけると店に入った。
「おーい、茶はまだかあ」
間延びした親父の声が聞こえた。
「少々お待ちくださいませー」
基希が言っている横で、由布梨は店の奥に駆け込んだ。
台の上の箱を開けてみると、数十本ほどの団子が串に刺さった状態で重ねられていた。まわりを点検してみるが、他に同じような箱は見当たらなかった。つまりこれが在庫の全てということだろう。
「由布梨、これは何というものだ?」
玉兎が由布梨の肩をちょいちょいと叩いて訊いた。
「えっと、これは」
声に振り返り、玉兎が指差した先にあるものを見て、由布梨は首を傾げた。
そこにあったものはクリスマスツリーによく似ていた。しかし、この世界にクリスマスツリーという概念があるとは思えない。
反対側の台にちょこんと乗っているそれを持ち上げて、由布梨は色々な角度から見つめた。クリスマスツリーで有名な、もみの木にしか見えないそれには、ところどころ白い丸が刺さっている。
まるでシンプルな飾りつけが施されているようだった。
「なんだろう」
結局このツリー風のものが何か分からず、由布梨は笑いを内包して言った。
「もしかすると、これも商品の一部かもしれねえな」
基希が店内でクレーム処理をして、由布梨と玉兎と恵也が三人とも裏の厨房に集合している状態になっていた。基希のせわしなさとは反比例して、由布梨たちはツリーの見つめて、ああでもないこうでもないと、のどかに喋りこんでいた。
「食べ物ってこと?」
恵也の発言に半信半疑で、由布梨はツリーを鼻先に近付けた。
すると、シナモンのような香りがした。
台所の隅にある、小さな調味料の瓶の底から立ち昇る匂いに似ている。
今度は白い丸の匂いをかいでみると、うっすらパンの匂いがした。本当にこれは、メニューにあるお菓子かなにかかもしれない、と由布梨は思った。形状の意味こそ分からないが、味はスパイシーな洋菓子のようで、きっとおいしいだろう。
「すまない、茶を急須ごと持ってきて、あと団子を待ってるお客様が大勢いるんだが、どうにかできそうか!?」
のれんの向こう、大騒ぎの店内から基希の焦った声が聞こえてくる。
「あっ、お茶ね。えーっと、これでいいのかな」
由布梨は近くでふつふつと煮えているやかんから、茶葉の詰められた急須に湯を注いだ。そして盆にのせると、店内の中央にある卓に乗せた。
「お待たせしましたー!」
「姉ちゃん、弥一郎のやつはどうしたのよ?」
店の顔なじみだろうか。由布梨の顔を見て、ひとりの客が訊いた。
「ちょっと留守にしてまして」
ひっくり返してあった湯のみに茶を入れると、うすい茶が湯のみを満たした。時間が足りなかったのかな、と不安になっている由布梨をよそに、客は茶の質など気にも留めていないようだった。ぐだっと体勢を崩してくつろいでいる。ただ休憩できればそれなりに満足出来るということなのだろう。
「へえ、珍しい」
「姉ちゃん、こっち団子頼んだんだけど」
別の客がそんな声を飛ばした。由布梨は箱の中の在庫分を取り出して、とりあえず間に合わせようと、厨房に行こうとした。
その時、卓の上にばしっとクリスマスツリー風の、やつが現れた。
「お待ちどうさま。へい、どーぞ」
持ってきたのは恵也だった。
客たちが騒然とし、卓の上の一点に視線を集中させている中、由布梨は恵也に言った。
「ちょっと、これ出していいのかまだ分からないんじゃない」
「大丈夫だって、俺一個食べてみたけど、上手かったし」
恵也は飄々と言った。
「本当に」
ツリーに視線を向けてみると、なるほど不自然に一部の白い丸がもぎ取られている。一個や二個食べたという量には見えなかった。
お客さんに不審がられるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、そんな心配をよそにお客さんはなかなか楽しんでいるようだった。
「何だこれ見たことねえ」
「はー、変わった団子だ」
ツリーから白い丸をもぐと、興味深そうにそれを眺めていた。団子だと銘打って出されて、誰一人として文句を言う様子は無かった。
「あれ、多分佳代さんが作ったんじゃないかな」
由布梨はぼそりと呟いた。
なんとなくだが、佳代が現実逃避のために作った作品のような気がする。
そんな作品も好評を博し、刺さっていた白い丸は全部なくなっていた。
「凄い、どうにかなった……」
由布梨が安堵の息を漏らしていると、周りから注文の声が上がる。
どうやら、ツリーを目にした他の客が、羨ましがっているようだった。
「由布梨、あっちもこっちも団子の注文ばかりだ、在庫はあるか?」
基希が訊いた。
「二十本くらい……だから、全然足りないと思います」
由布梨はそう言い、確認のために厨房に戻った。
「えっ」
由布梨は目前の光景に驚いた。なんと、あの玉兎が粉をこねているのだ。
「もしかして作ってくれるの?」
「こうすればいいと、恵也に言われてな」
王を手なずける食い逃げ犯ってどういうこと、と由布梨は苦っぽく笑った。そして箱を開けて在庫の団子を取り出すと、いくつかの皿に分配した。団子は五個ずつ串に刺さっていて、ほんのりと醤油のような香りがした。
全部の皿を客に渡すと、由布梨は玉兎の様子を後ろから見守った。
「大丈夫?」
「自信作だ」
玉兎は明るく言った。
玉兎が作った生地をちぎって丸めて形成すると、煮えた湯に放った。しばらくして、鍋から取り出すと、しっとりとした団子が出来上がった。
「早く串に刺さないと」
由布梨がせわしなく言うと、
「いや、このままでいいんじゃねーか?」
と恵也が言った。
「え、それは……」
由布梨は少し考え込んだ。串に差し込まなければかなりの時短になる。ただ、串に刺さっていない団子って、何だろうなと思う。ぜんざいとか、あんみつとか、そういうものはあるけれど、ここには餡子がない。あるのは、醤油っぽい甘辛のタレだけだ。
本当にそのままタレだけかけて提供して、問題ないだろうか。
「よし、このままでいこう」
由布梨は言った。
皿にいくつか距離を置いて団子を並べ、まるで雰囲気でもってるフランス料理のように、タレを芸術的に落とした。
この多少のごまかしによって、どうにか店の騒ぎを収束させることに成功した。
由布梨はこのタイミングで、気になっていたことを口にした。
「そういえば、何で玉兎と恵也と基希さんで集まってたの?」
共通点のよく分からない面子だな、という感想を由布梨は抱いていた。
「我は恵也の後を着いて街を見ていたのだが、たまたま基希と会ってな。基希が面白そうな召還術をしていたので観察していた」
玉兎は答えた。
「召還術?」
由布梨は頭に疑問符を浮かべた。
「紙みたいなのから人が出てきていたぞ」
「それって」
さっきの花札から女性が出てきたのと同じだ、と由布梨は思った。なるほど、あれは召還術の一種だったのだな、と今更ながら由布梨は納得した。
しかし、穀物代所で黙々と働く基希の姿と、召還術と言う言葉がどうしても結びつかない。その時、基希がのれんをくぐり厨房に入ってくる。
「ふう、大変な騒ぎだったな」
ため息交じりに基希は言った。
「基希さん、召還術の練習してるんですか?」
由布梨はだしぬけに訊いた。
「――! まさか、見られていたのか」
「あ、いえ。玉兎に話を聞いただけで見てはないです。ただ何で召還術を始めたのかが気になって」
「それは……」基希がためらいがちに口を開く。「僕もモンスターを退治しようかと思って」
「ええ?」
一体どういう心境の変化なのだろう。モンスター退治は危険だから、と穀物代師を勧めてくれた彼が、いきなりモンスターを退治すると言い出したのは。
「ほ、ほら最近物騒になってきたと思わないか」
基希がつっかえながら言った。
「あぁ、歯車のモンスターのことですね。それはもう、本当に……」
由布梨は眉を曇らせて言った。
「……由布梨、君も困っているんだろう?」
基希が訊いた。
「そうですね。今度遺跡に討伐に行くので、それまでの辛抱ですけど」
「僕も、その討伐に参加させてもらいたい!」
「基希さんが?」
驚いて由布梨と玉兎は目を見合わせた。
「頼む、僕を君の部下にしてくれ!」
由布梨の前に立って、軽く基希が頭を下げた。
まるっきり以前と逆の構図になっていた。




