25 渡辺のチートスキル
25 渡辺のチートスキル
「チーカちゃん! 遊びましょ!」
朝も早から門の外で呼ばわる声に頭を抱える。
「渡辺~ 近所迷惑&変質者ぽいからヤメレ」
昨日あれから場所を移して飲み会になりしこたま飲んだ筈なのに朝6つの鐘の音と共に渡辺舜は仮住まいの長屋にやって来た。
ちなみに時刻を知らせる鐘の音は午前の鐘と午後の鐘では音が違う。午前の鐘の音は高音の教会の鐘の音を思い出し、午後の鐘の音は低音のお寺の鐘の音を彷彿とさせる。
朝は4つの鐘の音から始まり正午9つ迄で、午後は1時の鐘から9つの鐘の音で終わる。
「いやー、料理習えると思ったらパッチリ目が覚めちゃてね」
そう言って渡辺はヘラりと笑み崩れた。
「遠足の日の小学生か!どんだけ楽しみにしてんだよ・・・」
ハイハイ、あんたはご機嫌でヨロシイ事。
「ってか、ディーはどうしたんだ? チカちゃんが門開けたら不用心だろ」
「・・・ディーはトイレの住人と化してます。あんたねぇ昨夜ディーにどんだけ飲ませたと思ってんのよ!」
えぇ、オカゲサマでほとんど寝てませんが?
「マジで!? 失敗したなぁ~ ちゃんとしっかり歩いてたから大丈夫だと思ったんだけどな」
渡辺もあちゃーと頭を抱えた。
「ここに着くまでは気力で持ってた感じ。着いて門閉めるなりトイレで吐きまくってたもん」
そもそもこうなったのも渡辺が悪い。
河岸を変えたわたし達は渡辺お勧めの飲み屋で和やかに飲んでいた。
そこへ
「なぁ、お前らって出来てンの?」
等との賜ったのだ。
わたしは渡辺に『なにアホこいてんだコイツ』とうろんげな視線をやっただけだけど、ディーは見事に噴いた。
いやー、ディーのあそこまで焦った姿は始めて見た。渡辺もその反応に嵌まったらしくその後はディーを弄り倒した。
成りはデカイけどまだ19歳のディーは変な所が初心で渡辺の格好の酒の肴になってしまった。
まぁわたしも何事も経験とか言っちゃって止めなかったんだけど。
ごめんね?ディー。
「悪い事しちゃったな、チカちゃんは大丈夫なのか?」
「あれ位では酔えないよ」
こっちのお酒って酒精が弱くてシードルみたいな感じなのだ多分3%ないと思う。
ビールがアルコール度数5%だからかなり弱い。わたし愛飲のジャック○ニエルはアルコール度数40%だから、普段そんなの飲んでるんだもん相当飲まないと酔えないよ。その前にお腹がタプンタプンになるわッ!
「ちっさいのにお酒強いんだな(;゜∇゜)」
「ちっさい言うな! それより二日酔いの薬とかないの?」
「あー、在るには在るけどあんまり効かない上に余計気持ちの悪くなるような代物だぞ」
「そっかー、困ったな。あれじゃ可哀想だしどうしよう」
ディーはとりあえず吐くものがなくなった様で今はベッドで撃沈している。
「あ、魔石って持ってないか?」
なんだ? いきなり藪から棒に。
「ケミカル妖虫の魔石でイイなら沢山あるけど?」
「あぁ、十分。20個くれ。それと何でもいいから金属ある? 無ければ鍋の蓋一個潰してイイ?」
「イイけど?」
言われた通り20個の魔石と鍋の蓋を収納から出して渡す。
「まぁ見てて、俺のスキルは錬金術と付与魔法だからさ」
「〖練金錬成:元素分解。対象:鍋の蓋。抽出Fe再結合。抽出C再結合。抽出Si再結合。抽出Mn再結合。抽出S再結合。抽出P再結合。
アクセサリーテンプレート起動。Feインゴットよりバングルへ。鉱石合成テンプレート起動。c元素よりダイヤモンドへ。加熱2000℃、加圧10Gpa。付与魔術固定、状態異常無効、毒無効、一撃死無効、自動治癒、自動体力回復、サイズ自動調整、不破壊、所有者固定、盗難防止。魔石より魔力封入、錬成終了。〗」
渡辺の紡ぐ言葉と共に鍋の蓋が浮き上がりクルクル回転してその姿を変えていく。まさに魔法。
「よっしゃ! 出来た!」
渡辺がそう言って広げた手のひらの中に出来上がったばかりのバングルがストンと収まった。
「どう? 中々イイ出来だと思わねぇ?」
ほい、と渡されたそれは幅1.5cm程のリング状の腕輪で一粒のダイヤモンドが光っている。
ちょっと前に流行った某ブランドのバングルに似ている。
「鉄製だけど純鉄にしといたから錆の心配は無いけどたまには磨いてやってくれ」
「これをどうしろと?」
「チカちゃんからディーに付けてやってよ、すぐに二日酔いのなんて治まるからさ」
「わーい、ありがとう! って言えるか!!」
「えー? なんで? デザインが気に入らない? まぁ、元が鍋の蓋だからさソコんとこは勘弁してよ~」
「そうじゃなくて! こんな貴重品貰えないよ!」
「チカちゃんそれは俺からディーへの初めてのプレゼント。野暮な事言わないで渡してよ」
コイツは~!(*`Д')ムカッ
今日は無精髭も生えてないし髪もちゃんと整えてパリッとした服も着てる。昨日の雰囲気イケメンから本物のイケメンになっていやがる。
「だったら自分で渡しなさいよ」
腕輪を渡辺に突き返す。わたしは馬に蹴られたくない。
「良いのか?」
「ディーが拒否ったら無理強いはしないでよ」
「それはもちろん」
まぁ、ディーは渡辺の意図なんて気が付かないと思うよ。
いそいそとわたしの後に続いて家に入ると奥の寝室ノックした。
「ディー、おはよう。大丈夫か?」
渡辺がそう声かけてもディーはベッドに俯せになったまま呻くだけだった。
意識はあるようだけど喋るのは無理そうだ。
「ごめんな、昨夜飲ませ過ぎたな」
渡辺はディーの頭をスルリと撫でると投げ出されている右腕を取ってさりげなく腕輪をはめた。
「・・・な、に・・・?」
「うん、これしておけば直ぐに気持ち悪いの治まるからおとなしく寝てな」
渡辺は捲れた上掛けを直しポンポンと叩くとベッドの側を離れた。
引戸の所に寄り掛かって成り行きを見ていたわたしの前を通ってから振り返り
「じゃあさっそく朝飯の作り方教えてくれよ」
と爽やかな笑顔を向けてきた。なにやりきった顔してるんだか。
わたしは後ろ手で引戸を閉めると炊事場の土間に降りた。
「朝なんで目玉焼きにサラダとスープにパンかな」
これなら初心者でも難しくないだろう。
「了解。まず何からすればイイ?」
「スープは時間がかかるから先に作ろうかな。じゃあ渡辺は野菜切ってね」
「了解(・ω・ゞ-☆」
とは言ったものの作業は難航を極めた。
「マテ!マテ!待て!!マッテ~」
炊事場にわたしの悲鳴が響き渡る。
と同時に奥の寝室からディーが飛び出してきた。
「チカ!?」
一足跳びでわたしと渡辺の間に入ると後ろ手でわたしを背に隠した。
「貴様、チカに何をした!」
あまりの剣幕に渡辺はキョトンと呆けてる。
「ディー、大丈夫。包丁の持ち方教えてただけだから」
ポンポンとその背を叩いてそう告げるとチラッとわたしを見てから渡辺に向き直り
「本当か」
と低い声で問い正した。
渡辺がカクカクと首振り人形の様に頷くとディーはハァーと息を吐いてしゃがみこんだ。
「何事かと・・・」
力なく呟いているので
「本調子じゃないんだからまだ寝てていいよ」
そう言ってるのに青い顔色をしたまま
「そういうわけにはいかない、俺はチカの護衛だから。仕事はちゃんとしないといけない」
と言って立ち上がった。
「それとこれ。助かった、もう大丈夫だから」
ディーは手首に嵌まっていたバングルを外すと渡辺に差し出した。
「それは昨日飲ませ過ぎたお詫びのプレゼント。返さなくていいぞ」
「こんな貴重品を貰うわけにはいかない」
差し出した手をそのままにディーは言う。渡辺は助けを求める様にわたしを見るので仕方なく口を挟んだ。
「くれるって言うんだから貰っておけば? どうせそれ元はうちの鍋の蓋だし、渡辺はスキル使っただけで一錢も出してないから」
ディーはわたしと渡辺を交互に見ながらどうするか迷っているようだ。
「ディー、そういう時は”ありがとう”でいいと思うよ?」
「そうそう、”お兄ちゃんありがとう❤”でもいいぞ?」
そうふざけた調子で人の尻馬に乗った渡辺の言葉にディーの表情が強張った。
「・・・あ、りがとう、ございます」
瞬時に血の気が引いて真っ青になったディーを見ているこっちの方が焦った。
でも戦慄く唇から一生懸命言葉を紡いで礼を言おうとするディーを見て、わたしと渡辺は素早くアイコンタクトを交わして極力普通に”よかったね”とか”どういたしまして”とか返事をした。
決して渡辺の軽口にイラついた感じではなかった。なんだろう、思い出したくない事を目の前に不意討ちで突き付けられたような痛みを堪えるような表情だった気がする。
一体何が鍵だったんだろう。
またまた遅くなりごめんなさいm(_ _)m 決してゲームに夢中になって遅くなった訳ではナインだよ?
嘘です、ゴメンなさい反省してます。
あと以前『呼ばわる』→『呼ぶ』でいいのでは? とご指摘を受けたのですが、『呼ばわる』は『大きな声で呼ぶ』という意味で敢えて使用しておりますので御了承下さいませ。




