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24 渡辺舜という人

24 渡辺舜という人



 魔道具屋を出て他の買い物をする前にシュン・ワターニャさんの所を訪ねたのだが留守だった。


 シュン・ワターニャさんの住まいは4区のドンずまりのさらに角の三階建の三階だった。街の外壁から1m位しか離れてなくて行き止まりなので昼間でも薄暗い。1、2階に住んでる人って風通しも悪そう。階段も狭くて急勾配だし、それに夜とかこの道を一人で帰ってくるとかちょっとイヤ。

 

 言ったら悪いかもしれないけどここには住みたくないなぁ。


「留守みたいだし他の買い物して、夕飯時の風見鶏亭で待とう?」


 そう言うとディーも異論無かったようでまた後でという事になった。


 他の買い物は4区の右側の商店街で済みそうだ。ただ、鍋等を扱うお店がなかったので雑貨屋さんで広口瓶を買ったついでに聞くと奥に工房が固まってあるのでそちらだそうだ。


 奥に行くにしたがってトンテンカンカンと金属を叩く音が賑やかに聞こえてくる。

 それに混じって木を切るノコギリの音とかもしているので家具類もこちらのようだ。

 

 軒先に所狭しと鍋が釣り下がっているお店で鍋を5個購入。ドランにはボールというものがないので鍋を代用する事にしたのだ。テクヨには有ったのにね。ボールの底の丸みを出すのが難しいらしい。


 あと木工加工工房ですのこ状の木枠を10個オーダーで作ってもらうことにした。1個2000ペレなり。明日のお昼頃には出来るそうだ。

 

 サイズやら形状やらを説明してたら結構時間を食った。6の鐘が鳴ったのでちょっと早いけど風見鶏亭に行くことにする。


 ギリギリに行って入れ違ったりわたし達が晩御飯を食べはぐるのもいただけない。


 早めに行って食事をしつつ待たせてもらおう。


 風見鶏亭は中央通り右2通りを入ってすぐの場所にあった。1階が食堂2階3階が宿屋のようだ。

 ちなみに最初に行った商店街は1通りの方だ。


 中に入るとまだ時間が早いこともあってお客さんもまばらだ。元気のいいウエイトレスのお姉さんに席に案内され本日のお勧めを頼んでから


「3区の魔道具屋さんに紹介してもらったんですけど、シュン・ワターニャさんが来たら教えてもらえますか?」


「えーと? 誰さん?」


 と首を傾げられてしまった。


 あれ? おかしいな? 常連のお馴染みさんじゃないのかな?


「毎日7の鐘の頃ここで夕飯食べているって聞いてきたんだけど・・・」


「ちょっと待ってて? おかーさん! 毎日7の鐘がなる頃にくるシュン・ワターニャって人知ってる?」


「名前は分かんないけど7の鐘の頃毎日来るっていったらアレじゃないかい?」


「・・・あーぁ、アレか」


 お姉さんはげんなりした表情で


「一応心当たりがあるからその人が来たら声かけるわ」


「あの、何か問題のある人なんですか?」


「? あぁ(笑) 違うわ。その人ね毎日来るのよ、それでね毎日一口目食べて物凄い溜め息をつくのよ。失礼しちゃうでしょ? なのに毎日来るのよ」


「それは・・・ ちょっとイヤですね」


 ワターニャさんなにやってるんだろ、ホント。


 席に着いたら程なく本日のお勧めが運ばれてきた。


 チキンソテー、パン、サラダ、スープ付きで1000ペレ、溜め息を付かなきゃならないほどではない。むしろ美味しい。

 ただちょっと高い。量は多いんだけどね。チキンソテーは鳥むね肉2枚分位の大きさで、パンは籠もり。サラダは大皿、スープも深皿でどーんと来る。

 わたしは半分も食べれないのでディーお皿に取り分けてしまう。


 せっせと食べているとお姉さんが多分あの人だと声をかけてくれた。

 

 ディーがその人が席につく前に声をかけに立っていったので、其のまま見ていると、その人はディーを見て驚いたように目を見張り、そののちわたしの方を見たので軽く会釈をした。


 20代中ばの青年だ。ディーに比べると細身で身長は180cm位、黒髪で雰囲気イケメン? 無精髭がちょっとあるけど。


 ディーと一緒にこちらへ来たので立ち上がって


「シュン・ワターニャさんですか?」


「そうだけど、あんたは?」


 向かいの椅子を勧めて座ってもらってから


「初めまして、チカといいます。3区の魔道具屋さんに紹介されてワターニャさんを待ってました」


 そう言ってからテーブルに魔道具屋さんに書き付けてもらった木札を出した。


「へぇ、珍しいな」


「ワターニャさんの作ったアイテムバッグを買ったら改良して欲しい物があったら仕事を依頼してみたらいいと勧められました」


 ワターニャさんは頷くと


「悪い、先に飯頼んでいいか?」


「もちろん、どうぞ」


 食事の注文をし終えると


「で、俺に仕事ってなに?」


「保温機を改良して欲しいんです」


「保温機? ってケミカル妖虫を孵すアレか?」


「はい。55℃~60℃を6時間~8時間保てる物が欲しいんです」


「へぇ、ずいぶん具体的だな。それを使ってなにが出来るの?」


「・・・ここではちょっと」


 そう言葉を濁すとワターニャさんは


「まぁ、いいや」


 新しい技能スキルに関するものだから外では言いにくい。


「でもなんでわざわざ俺に頼むの? 自分でも出来るんじゃないのか?」


「それはわたしが転移者だと言ってます?」


「その日本人顔はどう見てもそうだろう?」


「まぁ、日本人ですけど”巻き込まれた“方ですから何の恩恵も無いですよ」


「マジで!? うわー、あんた運がないね。いいよ。同郷のよしみで協力してやるよ。俺は渡辺舜。頼むのからワターニャって呼ばないで?」


 渡辺さんも巻き込まれた者に然したる恩恵が無いことを知っているようだ。協力してくれると言うならこちらに否はない。


「ありがとうございます、渡辺さん。わたしは茅咲良です。チカでかまいませんよ?」


「了解、チカちゃん。で、そっちの彼は?」


「わたしの契約者でディーです」


「渡辺とは呼びにくいだろうから、シュンと呼んでくれ。よろしく」


 渡辺さんはそう言ってディーに握手を求めた。


「ディーだ。よろしく」


 ディーは差し出された手を見てちょっと考えた後握手に応じた。

 

 と、そこへ渡辺さんの注文した本日のお勧めが運ばれてきた。


「いただきます」


 礼儀正しく言ったあと一口目を食べて


「はぁーーー( ´Д`)=3」


 と大きな溜め息をついたので思わず噎せた。


「え? なに?どうかしたのか?」


「それ、お姉さん達に不評ですよ」


「それ?」


 首を傾げた。


「気が付いてないのか? ワターニャさん一口目を食べて毎回溜め息をついてるって」


「ワターニャじゃなくてシュンな? 溜め息? ついてる? 俺?」


「ついてましたよ、思いっきり」


「うわ、マジで!? 失敗したなぁ」


「美味しいのに、溜め息つくほどガッカリなんですか?」 


 さすがグルメ大国日本味にうるさいのか?


「違う、違う。俺さ料理壊滅的にダメなの。でもさ自炊というか和食? 食いたいじゃん、だからチャレンジはするんだけど人の食いもんになんないの。で、ここの料理食って毎回自分のダメさ加減に溜め息が出るんだと思う」


「そっちですか」


「何がダメなんだろうなぁ、暗黒物質ダークマターが出来ちまって、何度貸家を追い出されたか( ´Д`)=3」


「一体何をしたら貸家を追い出される様な物が出来るというんだ」


 ディーが呆れたように呟いた。確かにあまりにも残念すぎる。


「いや、普通にスープとか作ってた筈なんだが気がついたら鼻を刺す刺激臭に噎せるような煙りがモクモク湧いて鍋の中はドロッとした黒い液体に成っているんだよなー」


「因みに材料は何なんですか?」


「えーと、鶏ガラとノトンの骨。ニンジン、ジャガイモ、タマネギ。キャベツにホウレンソウ、セロリ、ニンニク、生姜、モーギュウのテール。塩、ニゲール、サウジ、ローマリン、テーム、ラウリエル、アルバ」


 うん、材料はまぁ問題ないけど。よくもまぁ入れたもの覚えてるよなぁ。


「それをどうするんですか?」


「煮込みだから全部ぶちこんで煮る?」


 おい・・・


「1度に全部ですか?」


「ダメなのか?」


「駄目ですねぇ。それじゃ暗黒物質になっても仕方ないですよ」


 ┐(´д`)┌ヤレヤレ


「・・・なぁ、俺に料理教えてくんない?」


「どうしたんですか、急に?」


「俺がした事がダメだって判るチカちゃんは料理出来るんだろ? この機会を逃したら俺はこの先一生食うものに困る人生になる。だから頼む俺に料理を教えてくれ!」


 ゴッツとテーブルに額がぶつかる程勢いよく頭を下げられた。


「ディーにも料理は覚えてもらおうと思ってたんで一人教えるのも二人教えるのも同じですからかまいませんよ」


「え? 俺もか?」


 隣でディーが意外そうな声を上げる。


「うん。覚えておいて損はないと思うよ? それにこれからの作業でイヤでも料理スキルは生えてくると思うし」


「わかった。やってみよう」


 うん、頑張っておくれ(笑) 


 しかしディーはわたしが『これこれやってね?』と言うと否とは言わない。無理強いを我慢してやってくれているのだろうか? ちょっと心配になる。


「無理な事は無理だと言うから変な気は回さなくて良いぞ」


 うっ、考えを読まれた! ・・・左様ですか




新しい常在キャラになりそうな人が出てきました。書いてる作者もこの先誰が出てくるかわかってません(笑)

では皆様よろしくお願いいたします。

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