第9話 呪われた王子、気持ちに気づく
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セレナの身に起きた事件が解決したのち、モブはいつものようにやって来た。
ドラゴニア王国から派遣されてきたこの男とのやりとりは、いつも同じ内容だ。
まず、俺が開発した魔導具についての聞き取り。
次に、呪いの状況と体調の確認だ。
「最近、呪いの様子はどうですか?」
「変わらない」
「では、体調不良などはありませんか?」
「体調不良か……」
問題ない、と俺は答えようとした。
だが、少しだけ気になることがあった。
「そう言えば、最近不調になることがあるな」
「……え?」
その言葉を聞き、モブの表情が引き締まった。
追放状態とはいえ、俺も王族の一人であることに変わりはない。
万が一のことがあれば、それなりに大ごとになる。
加えて、呪いのせいで、診察できる医者も限られている。
手配をするためには、それなりの労力が必要となるのだ。
「具体的にはどんな感じですか?」
「セレナのことを考えると、体中が熱くなるような気がする」
「……ん?」
「そして、思考が鈍る」
「……んん?」
「こんなことはこれまでなかったのだが……」
モブは困惑しているようだった。
彼は医学的知識を持っているわけではない。
今の言葉だけでは、俺の体調不良の原因が分からないのだろう。
セレナでさえ分からなかったのだから、無理もない。
「あの、もう少し詳しく教えていただけますか?」
「セレナを見ると、心拍数がどんどん上がっていくのが分かる。見なければいいとは分かっているのだが、ついつい見てしまうのだ。だが、彼女に対して俺は悪い感情を持っていない。彼女のことを警戒しるわけではないのだ」
「ああ、そうですか……」
モブの態度がもやもやしたものになる。
笑うのを我慢しているようにも見えるが、それはないだろう。
「ふむ、それでは、セレナ嬢に相談してみてはいかがでしょう? 彼女は聖女ではなくなりましたが、多彩な能力と知識を有しています。彼女なら、第二王子の体調不良の原因を見つけ出し、その解決法を示してくれるかもしれません」
「彼女にはすでに相談した」
「既に相談済み!? どうしてそんな面白そうな場面に呼んでくれなかったのですか!」
何故か悔しがっていた。
決して面白い場面ではないと思うのだが。
「まぁ、終わってしまったものは仕方がありません。それで、セレナ嬢はどのような対応をされたのですか?」
「原因は分からないと」
「成程……」
モブは腕を組んで考え始めた。
そして、すぐに結論が出たらしく、妙に偉そうな声で告げた。
「王子、俺にはその症状について、心当たりがあります」
「そうなのか?」
「出来れば、その原因についてはご自身で気づいていただくのが一番でしたが、ここまで進行してしまったら仕方がありません」
「まさか、そこまで重症なのか」
「ええ、もはや取り返しがつかないほどに」
なんということだ。
取り返しがつかないほどの重症。
俺は一体、どのような病にかかってしまったというのだ。
「王子、いいですか。その症状の正体は――」
「もったいぶるな」
「それは『恋』です。そして強いて病名をつけるなら、病名は『恋の病』です」
「恋の病?」
「はい。そういう訳ですので、お大事に」
そう言って、モブは部屋を出ようとした。
当然、俺はそれを呼び止めた。
「待て、意味が分からない。俺がセレナに対して恋愛感情を持っているとでもいうのか?」
「はい」
「セレナを目で追うのは、恋愛感情のせいか?」
「はい」
「セレナに触れられると顔が熱くなって全身に汗をかきそうになるのも?」
「セレナ嬢のことが好きで好きでたまらないからですね」
「それじゃあ、最後の『お大事に』というのはなんなのだ!?」
「『その気持ちを大事にしろよ』ってことです」
あまりに人を馬鹿にした言い方だ。
だが、俺はその言葉に少しだけ感銘を受けていた。
ふと気が付くとセレナのことを考えてしまっている。
彼女と一緒にいたいと思っている。
そして、大切にしたいと思っている。
「そうか、これが恋愛感情か」
「ええ、そうです」
「確かに、大切にせねばならないな」
その言葉を聞くと、モブはしゃがみ込んで下を向いた。
「モブ、どうした?」
「いえ、想像を超える殿下の純粋無垢っぷりに、冗談で言ったはずのこちらが恥ずかしくなってきただけです」
「冗談だったのか!?」
「言っている内容自体は真っ当なものですから、安心してください」
「そうか」
モブはゆっくりと立ち上がり言葉を続ける。
「まぁ、考えてみれば当然かもしれませんね。セレナ嬢は第二王子の呪いに抵抗できる唯一の人間ですから」
「つまり、俺のことを怖がらない唯一の人間ということだな」
「まあ、俺も怖がってはいませんけどね」
「お前は変態なので人間に含めない」
「酷い!?」
「それよりも――セレナを俺の下にずっと置いておく方法はないだろうか?」
「いや、方法も何も、セレナ嬢は貴方の婚約者ですよね?」
「……ということは、もう、俺のものになったも同然なのではないか?」
「その考えはよくありません。彼女は自立した女性です。男性の所有物のように扱われるのは好まないでしょう。ましてや、今の彼女は第一王子にそれこそ物のように捨てられたわけですから」
「成程。危ないところだった」
「かといって、恋愛感情を全面に押し出すのもよくありません」
「どうすればいいのだ!?」
「それを自分で考えるのが恋愛というものです」
「成程、そういうものか」
俺はその言葉に大いに納得した。
同時に、悩みも増えた。
今後彼女にどう接すればいいのか分からない。
それも自分で考えるべきことなのだろう。
第6章はここで終了となります。
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第7章は『50ゴル硬貨20枚の謎』です。
『五十円玉二十枚の謎』という小説があり、それに勝手に乗っかりました。




