第8話 何故彼女は苦しんだのか(後日談2)
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「わたしが考えた呪いの対策は、極めて単純なものです」
わたしはそう切り出しました。
「わたしが殿下の身体に触れながら、少量の白色魔力を注ぎ込みます。魔核に傷を与えてしまうと自己修復が始まり、殿下の身体に負担がかかることになりますので、そうならない程度に」
「それで、私への呪いの影響を見るというわけですわね」
「はい。タルサさんには大きな負担がかかると思いますが、別に構いませんよね?」
「足元を見過ぎでは!?」
「なんでしたら、実行犯のお友達にも手伝ってもらいますか?」
「……私がやりますわ」
「よろしくお願いしますね」
これでタルサさんは問題ありません。
次は殿下です。
実を言えば、このことは殿下には言っていません。
事前に言ってしまえば、遠慮してしまうと思ったからです。
ここまで話を進めてしまえば、殿下も断れないでしょう。
わたしの恩返しは、誰にも邪魔させません!
「殿下もよろしいですね?」
「ああ、頼む」
殿下から言質を取った後、わたしはその手に触れました。
殿下の腕が一瞬だけ強張りましたが、気にしません。
「それでは、始めます。タルサさんは殿下の顔を直視していてください」
「わ、分かりましたわ」
タルサさんは既に涙目になっていました。
顔面蒼白になっており、身体も震えています。
――これはいいサンプルになりそうですね、
ついつい、非人道的なことを考えてしまいました。
わたしは白色魔力を少しずつ殿下の身体に注入していきました。
これで、殿下の身体から発せられる呪いの影響は少しずつ弱くなっていくはず。
そのはずだったのですが――。
「あばばばばばば……」
タルサさんの顔色はどんどん悪くなっていきました。
その原因は明らかでした。
殿下から発せられる呪いの量が増えているのです。
少量の白色魔力ではとても対応できません。
――もう少し、魔力量を増やしてみますか。
そう考えていたら、タルサさんが倒れました。
呪いに晒され続け、耐えきれなかったのでしょう。
これは仕方がありません。
わたしはタルサさんを起こして、白色魔力を注入しました。
これで彼女への呪いの影響は浄化されたはずです。
少しすると、彼女は目を覚ましました。
「今のは一体……」
「すみません。今回の実験は失敗しました」
「そうです……の!?」
タルサさんは目を大きく見開きながら、おかしな叫び声をあげました。
「どうしました?」
「そ、そちらの方はどなたですの?」
「アベル殿下ですが」
「そのお顔、はじめて拝見いたしましたわ」
そういうことですか。
タルサさんは今、わたしの白色魔力で呪いの影響を受けていない状態になっています。
普通に殿下の顔を見ることが出来ているはずです。
ある意味実験は成功です。
一対一の状態であれば、殿下に相対する人に白色魔力を注入することで呪いの影響を跳ねのけることが出来るようなのです。
そう考えていたら、タルサさんが詰め寄ってきました。
「セレナ・アリアーナ! これはどういうことですの!?」
「呪いの影響がなくなって――」
「そんなことはどうでもいいのですわ!」
「いや、よくないでしょうに」
「貴女はあの方の御顔を見て、何とも思いませんの?」
「どういうことですか?」
「凄まじい美形ではありませんの!」
「ええ、そうですね」
「しかも、顔を赤らめていらっしゃるではありませんか! すさまじい色気ですわ! この方の呪いを解いたら、学院中の女学生が倒れますわよ!」
「大げさですね」
そう言いながら、わたしは殿下を見ました。
――これはマズい。
そう思いました。
殿下は何故か顔を主に染めていて、やや伏せるような視線をしていました。
それはこれまで見たどの状態よりも色気があって――。
気が付けば、わたしも見とれてしまっていました。
「これは、何らかの対策が必要ですね」
「ですわ」
呪われていても呪われていなくても、その相貌は人を穏やかにはさせないようです。
なんて面倒くさい。
「殿下、その表情は狙ってのことですか?」
「どういうことだ?」
「お風呂上がりのように顔を紅潮させ、美男子の色気をふんだんに振りまいていますが」
「振りまいてなどいない!」
「そうですか」
どうやら、天然ものということのようです。
これでは対策の取りようがありません。
もっとも、それに関してはわたしの管轄外ですが。
「それよりも、実験は終わったのだろう?」
「はい」
「済まないが、一人にしてくれないか」
「どうかされたのですか?」
「少し、気分が悪い」
「大丈夫ですか? 医者を呼びましょうか?」
「いや、止めてくれ。医者であろうと、俺の呪いには耐えられない。それに、これは病気ではないような気がする」
「具体的には、どのような症状が?」
場合によっては、わたしの魔法で何とか出来るかもしれません。
「君を見ていると、体温が上がり思考が鈍くなる。見なければいいと思うかもしれないが、そこにいるとつい視線が向かってしまうのだ」
「成程」
体温の上昇については、自律神経の不調ということで説明がつきます。
殿下には先日無理をさせてしまいました。
その影響が今になって出ているのかもしれません。
わたしに視線が向くという点についても、仮説はあります。
「もしかしたら、白色魔力による影響かもしれません。こういったことは前例がありませんので、何とも言えませんね。経過を観察するしかないと思います」
「ああ、そうだな」
「場合によっては、専門医に見ていただく必要があるかもしれません。手配は出来るのですか?」
「ここにモブという男が出入りしている。アイツにやらせるから問題ない」
「分かりました。何かありましたら、私に仰ってください。殿下のお世話が私の仕事です。それに、殿下には助けていただきました。その恩は、返させていただきます」
「ああ、分かった」
4
わたしとタルサさんは、殿下の部屋から出ました。
ここからは動く階段を下りていかなければなりません。
わたしだけなら身体強化で飛び移りながらショートカットをすることが出来ますが、それではタルサさんを置き去りにすることになります。
死ぬことはないでしょうが、心が痛まないこともないかもしれません。
というわけで、わたしたちは一緒に階段を下りていくことになりました。
――すっごく、気まずい。
この人は、わたしをハメようとしていた人です。
加害者と被害者の関係。
人体実験も終わりましたし、話すべきことが思いつきません。
――いや、無言でもいいですね。
そう思っていたら、あちらから声を掛けてきました。
「全く、とんでもない目に遭いましたわ」
「自業自得という言葉をご存じですか?」
「知っていますし、それについてではありませんわ」
タルサさんは不可解なことを言いだしました。
それに、態度も妙に大きくなっています。
先ほどまで反省していた方だとは思えません。
「では、何についてなのですか?」
「私は一体、何を見せられていたというのですの? 事件の真相を突きつけられていたと思ったら――ああ、もう! これ、私の口から言っていいものですの?」
「何のことです?」
「貴女、どうして今回の実験が失敗したか、分かっていませんの!?」
「分かりません。タルサさんは分かっているのですか?」
「この鈍感聖女!」
「鈍感!?」
「アベル殿下の顔を見ましたわよね? 顔が紅潮していましたわよね!」
「そうですね」
「あれは、貴女に手を握られたからですわ! それで動揺してしまい、呪いの生成量が上がったのですわ。その程度のことも分からないんですの? 全く、呪いの専門家が効いて呆れますわ」
「成程、そういうことでしたか」
殿下は長い間引きこもり状態にあります。
ですから、女性への免疫が全くないのです。
それで、わたしに手を握られた程度であっても、顔を赤くしてしまうのでしょう。
「なんだか、まだ分かっていないような気がしますわ」
「いえ、完全に理解しました。これに関しては、殿下に慣れていただくしかありませんね。では、タルサさんにそれもお願いしましょうか」
「……まさか、私で女性に慣れろと?」
「はい」
タルサさんは、大きなため息をつきました。
「セレナ・アリアーナ。今回の件は私が全面的に悪かったですわ。ここに謝罪します」
「はぁ、どうも」
「それはそれとして、一発殴らせていただけます?」
「何で!?」
「これは殿下の分ですわ!」
意味が分かりません!?




