第7話 何故彼女は苦しんだのか(後日談1)
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その後の話。
殿下の推理をどう扱うかについては、わたしに一任されました。
わたしとしては、タルサさんとは出来る限り関わらないようにしたいのですが、何らかの制裁は咥えたいところです。
そこで、いいアイデアが浮かびました。
タルサさんへの制裁と、殿下への恩返しを同時に行うことが出来る方法です。
それを実行に移すために、まずは真実を彼女につきつけなければなりません。
わたしは、殿下に理事としての権限を行使していただきました。
そして、タルサさんを殿下の部屋まで呼び出しました。
どうしても、謎解きはここでする必要があったのです。
推理を突きつける役目は、殿下にやっていただきました。
なにか反論をされた時に、わたしは上手く答えられるか分かりませんから。
殿下の話を聞いている間、タルサさんはずっと下を向いていました。
己の行いを恥じているのでしょうか。
あるいは、呪いのせいで、殿下を直視することが出来ないのでしょうか。
おそらく、その両方でしょう。
「以上が俺の考えだ。何か反論はあるか?」
「ありませんわ」
「では、今後はこの学院に通う者としての品位を持つよう心掛けろ。また、君の行為に対しては罰を与えなければならない」
そう言って、殿下はわたしを見ました。
「では、セレナ。彼女に対してどのような罪を望む?」
「そうですね――」
タルサさんは顔を青くして、こちらを見ていました。
その目には涙を浮かべていました。
殿下からの尋問により、精神的に追い詰められているようです。
「タルサさんの罰を決めるために、まず動機を伺いたいのですが。タルサさん。何故貴女は私に毒を盛ろうとしたのですか? それほどまでに私が憎かったのですか?」
「そう――なのかもしれませんわ」
なんだか、よく分からない答えでした。
なのかもしれない――この言葉は嘘にはなりません。
ですから【真偽判断】は発動しません。
ですが、何かをごまかそうとしているのは確実です。
そう考えていると――。
予想外の言葉が続きました。
「私は、セレナ様のファンだったのですわ」
「……ファン?」
「聖女といえば、この世の全ての女性の憧れ。以前、貴女の姿を中央でお見かけしました。その時から、心酔してきたのです。ですが、貴女は偽物の聖女だとされてしまった。でも、私にはそれが信じられなかった。信じたくなかった」
「はぁ」
「私は悩みに悩みましたわ! そして、自分で確かめるしかないという結論に達したのですわ。それを確かめることで、私の気持ちに区切りをつけたかったのですわ」
ただ、確かめたかっただけ。
それは嘘ではありませんでした。
「だったら、何故あのような嫌みを?」
「世間体ですわ」
「世間体……」
「セレナ様は現在、偽物の聖女――つまりは、大悪人とされています。ですから、ただ近寄るだけでも大きなリスクを伴うのですわ。仮にセレナ様が本物の偽物だったら、親しくしていたというだけでカキン家の汚名となります」
「それ以上の汚名を被りそうになっていましたが」
「……そうですわね。止めてくれたリリィには感謝してもしきれませんわ」
「そうですか。それで、私の容疑は晴れましたか?」
わたしは優しく声をかけました。
ですが、あろうことかタルサさんは「いえ、それはまだですわ」と返答しました。
ここは嘘でも「はい」と答えるべきところでしょうに。
「結局、リリィが仮病を使ったせいで確かめることが出来ませんでしたし」
そう言えば、そうでした。
ここまでの流れで、わたしは全てが解決したような気になっていました。
タルサさんがわたしの力を認めて、いい感じに締めることが出来ると思っていました。
詰めの甘い女なのです。
「まぁ、いいです。それなら、丁度いい方法を考えてありますので」
「丁度いい方法?」
「貴女には、アベル殿下の呪いの影響を調べるための実験台になっていただきます」
「実験台!?」
タルサさんは後ろに下がりました。
別に命にかかわるようなことまでする気はないのに。
「先日、わたしはアベル殿下の呪いの解除を試みました。しかし、失敗しました。ですが、一時的にその効果を消すことは出来るのではないかと考えました」
「そうなのか?」
アベル殿下が反応しました。
「可能性の話です。ただ、実験をしようにも、わたしと殿下だけではその効果が分かりにくいですから。呪いの影響を受ける実験台を用意する必要があったのです。丁度いいから、彼女にやっていただくのがいいかと思いまして」
我ながらいいアイデアです。
ですが、タルサさんはそうは思わなかったようです。
「待ってくださいまし! 私は了承しておりませんわ!」
「拒否していただいても構いませんよ? ただし、その時は御実家がどうなるかは分かりませんが」
「脅しですわね!?」
「飲み物に毒を入れて騒ぎを起こそうとした令嬢というのは、大きなスキャンダルになるでしょうね。しばらく社交界はこの話題で持ちきりになるのでは?」
「く……」
タルサさんは苦々しい表情を浮かべながら言います。
「分かりましたわ。協力いたします!」
「はい、どうも。それでは、早速始めましょうか」
「今からですの!?」
「はい。そのために、ここにお呼びしたのですから」




