第5話 呪われた王子、誤解を受ける
1
セレナが部屋を出ていった後、俺はベッドの上で身体を休めていた。
昨日から身体の負担が大きすぎた。しばらく動けそうにない。
そうしていると、モブがやってきた。
当然のように部屋に入り、何も言わずに俺の側までやってきた。
そして、ベッドの上にいる俺を無表情で見ていた。
「モブか。何をしている」
「おや、起きてらっしゃったのですか。殿下の観察をしていました。上半身は裸で服は散乱している。殿下はとても疲れた様子。一体ここで何があったのか考えていたのです」
「そういうことか」
俺はベッドの上で起き上がった。
まだ頭がはっきりとしないが、状況の説明をしておいた方がいいだろう。
「それで、どうなさったのですか? 何故そのように消耗されているのです?」
「セレナだ」
「セレナ嬢ですか?」
「以前話した女学生について覚えているか?」
「確か、呪いの影響を受けていない方ですよね?」
「そうだ。実は、彼女こそがセレナ・アリアーナだったのだ」
「へー、そうだったのですか。驚きですね」
モブは起伏のない声で言った。
「もしかして、お前は気づいていたのか?」
「呪いが効かない時点で、相当特殊な方ですからね。まぁ、十中八九セレナ嬢だとは思っていました」
「それなのに、浮気だと言って俺を責めていたのか!?」
「はい。面白かったので」
「……もういい」
俺はため息をついた。
「それで、セレナ嬢がどうしたのですか?」
「実は昨日、彼女が新しい世話係としてここにやって来た」
「よかったじゃないですか。それで、どうなったのですか?」
「色々話すことが出来た。彼女は学院事務局の職員として、城下町で起きた事件に対処することになったそうだ。少しだけ面倒なことになっていたから、謎解きをしてやった」
「いい感じですね。好感度は稼げたと思いますよ」
「そうだといいが。事件は無事に解決したそうだ。その解決方法は素晴らしかった。ただ俺の推理を伝えるだけではなく、事件の着地点まで考えていた。彼女程聡明な人間を見たことはない」
「順調ですね」
モブは面白そうにしていた。
「セレナはお礼をさせてほしいと言ってくれた。だから、俺は横になって服を脱いだ。そして、彼女に触れてもらった」
「……そうですか」
「彼女の手腕はすさまじいものだった。俺は耐えるだけで精いっぱいだった」
「思っていたよりも展開が速くて驚いていたところです」
「そうか」
確かに、彼女と親密になることが出来た。
「彼女は俺のために尽くしてくれた。だから、俺もその誠意に報いるべく、必死になって耐えた。そして、三時間ほどすると区切りがついた」
「三時間……」
「それで終わったと思った。だが、復活してしまったのだ」
「復活ですか……」
「その後、俺を鎮めるためにセレナ様は必死に努力してくれた。下手をすれば、彼女は命を落としていたかもしれない。俺も彼女もいつの間にか気絶してしまっていた」
「そうですか」
モブは先ほどから『そうですか』としか言わなくなった。
「殿下」
「何だ?」
「誰がそこまで詳しく話せと言いましたか?」
モブは呆れたようにため息をついた。
こちらに視線を合わせようともしない。
彼は一応本国からのスパイでもあるのだから、詳しい話は聞いておいた方がいいはずだ。
それなのに、何故ため息などついているのだろうか。
「とにかく、元気そうで何よりです」
「元気に見えるのか?」
「これまでになく。昨夜はお楽しみだったのでしょう?」
「……お前は何を言っているのだ?」
俺は困惑するばかりだった。
それはモブも一緒だったらしい。
「殿下。今、何の話をしていました?」
「呪いの解除についてだが」
2
モブは腕を組んで、無言のまま部屋を一周した。
そして、ポンと手をたたき「そういうことでしたか」と告げた。
どうやら、何か誤解をしていたらしい。まったく、迷惑なやつだ。
「どんな誤解をしていたのだ?」
「セレナ様と性的な関係を結んでしまったのではないかと思いました」
「……何故そうなる?」
「先ほどまでの発言を思い返してください」
先ほどまでの発言。
はて、俺は何と言っただろうか。
疲れ切ったまま、何も考えずに話していた。
何を言ったのか思い出せない。
「俺は何を話した?」
「もう結構です。とにかく、呪いの解除を試みたけれど失敗したということですね。本国に報告しておきます。いやー、ようやくスパイらしい報告書を作ることが出来ます」
「それはよかったな」
「ご安心ください。殿下とセレナ嬢の関係も叙情豊かに描写し報告しておきます。とりあえず、セレナ嬢についての感想を教えてください」
「最高だ」
俺がそう答えると、モブは目をつぶって眉間にしわを寄せた。
『何だこいつ』とでも言いたそうな顔だ。
「何だこいつ」
「言った!?」
「失礼。口が滑りました。言葉の滑落事故です」
「そうか。それで、セレナの話だったな。間近で見ていて気付いたのだが、彼女は可愛すぎないだろうか」
「殿下?」
「もしかして、彼女は可愛いのが仕事なのではないか? 彼女の表情の微妙な変化、一挙手一投足が可愛らしく思えて仕方がない。もしや、彼女は可愛いという概念が人間の姿を取った存在なのではないだろうか」
「殿下、本格的に疲れていますね」
「疲れているのはセレナだ。彼女は働き過ぎだ。もう少し休ませた方がいい。だが、可愛いのが仕事だとすると、彼女は二十四時間体制で可愛いわけだから、二十四時間ずっと働いていることになる。これは過労死してしまうのではないだろうか。今すぐ何らかの対策を考えなければ」
「殿下」
「何だ?」
「殿下は今、アホになっておられます。少し――いえ、十分に休んでください。まともになったら、再度話を聞きにまいります」
そう言って、モブは部屋を出て行った。
まったく、何だったのだろうか。
だが、確かに疲れている。思考もおぼつかない。
何か変なことを口走ったのかもしれない。
とにかく、今はモブの言う通り休むことにしよう。
3
目が覚め、己の言動を思い出した。
「俺はアホか!」




