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第6話 指輪の行方(解決編)

     1


 翌朝、私は忘却女性と加害者の女性の話し合いの場を設けました。

 加害者からはいい顔をされませんでしたが、第三者である私が頭を下げに下げたことで、渋々顔を出してもらえることになりました。


 会場となったのは、302号室。

 ご一行が泊っている豪奢な部屋です。

 そこで気まずい顔合わせが始まりました。


「ごめんなさい」


 謝罪をしたのは、忘却女性でした。

 そして、彼女は手のひらに乗せた指輪を提示しました。

 昨日、加害者が失っていたものです。

 加害者は驚きながら、その指輪を受け取りました。


「どこに隠していたの?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 忘却女性は、自分の指輪を外しました。

 そして手のひらの上に置き、その手を握ります。

 その手を開いた時、指輪はなくなっていました。

 ご婦人方は、それに驚いていました。


 これは、簡単な手品です。

 やり方さえ分かってしまえば、少し練習しただけで出来るようになります。


「ごめんなさい。貴女には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そう」


 そっけない返事をしながら、加害者は指輪を左手にはめました。

 忘却女性に対しては、それ以上、何も言いませんでした。


 昨日、あれだけ怒ったのです。

 そのあげく、手を上げてしまいました。

 謝罪をされたところで、どういう対応をすればいいか分からないのでしょう。


 だから、落としどころも用意しておきました。

 上げた手の下ろし場所を作ってきたのです。


「一つ、よろしいでしょうか」


 私は加害者に声をかけます。


「貴女は、何故指輪を外していたのですか?」

「何故って……」

「貴族社会において、既婚者の女性が結婚指輪を外したりしていると、周囲から白い目で見られることになります。貴女たちは、それを分かったうえで指輪を外し、一時のスリルを味わおうとしたのではないですか?」

「そうよ」

「だとしたら、指輪の紛失というのはこれ以上ないスリルになったのではないですか?」

「え……」


 わたしの言葉を受け、加害者が忘却女性を見ます。

 とても信じられないといったように、眉を顰めています。

 そんな加害者に対し、偽忘却女性はおずおずと語り始めました。


「だって『もっとスリルを味わいたい』って言っていたでしょ? 『指輪を外すだけなら子供のいたずらと変わらない』って。だから、スリルを味わわせてあげようと思って」

「そんなバカな理由で……」


 加害者は呆れた様子でした。

 確かに、馬鹿げた理由でしょう。

 だけど、これで加害者にも負い目が出来ました。

 指輪の喪失が起きた原因が、彼女にあることになったのです。


 これで、両者に負い目が出来ました。

 つまり、落としどころを提示するタイミングが訪れたということです。


「お互いに過失はあったようですから、どちらかを一方的に責められるものではありません。以上のことを踏まえて、お二人の関係をどうするかはお任せします。わたしとしては、折角の旅行ですから、最後までお二人で楽しまれるのがよろしいかと思います」


 わたしはそう告げ、一礼しました。

 そして、一歩後ろに下がりました。

 ここからは二人で話し合っていただくことになります。


「……そうね。そうさせてもらうわ。貴女がよければ」

「私も、そうしたい」


 かくして、二人の関係は修復されました。

 もっとも、完全に修復されたかどうかは分かりません。

 色々と禍根が残っているかもしれませんが――というか、確実に残るでしょうけれど、表面的には修復されたことになりました。


 これでわたしの仕事は完了です。

 後のことは知りません。


「それでは、私はこれで失礼します」


     2


 さて――事件は一応の解決を見せました。

 これで解決編は終わりです。ええ、終わりましたよ。解決編は。


 ですが、まだ謎は残されています。

 この偽りの解決編には、嘘が多分に含まれているのです。


 そもそも、あの指輪は忘却女性がずっと持っていたわけではありません。

 わたしがいただいてしまったケーキの中に隠されていたのです。

 それに、わたしのスキル【審議判断】が示した通り、忘却女性は反省などしていません。

 これっぽっちも。


 というわけで――。

 ここからは、真相編になります。

 元聖女の悪質なやり口を、ご覧あれ。

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