記憶
押し付けられるような暑さだった
車から飛び降りた私は
川に向かって走り出した
やけどしそうな程
真っ赤にやけたレールの上を
飛び越えて
甘い想いの立ちこめる川を見下ろす
父の故郷は
四方を山に囲まれた町
静かな川と
無人の駅
私はここが好きだった
振り返ると
線路の脇の木々の間に
荷物をおろす人影がちらちらと光る
いつも
いつもそうだけれど
穏やかな時間は長く続かない
ふいに
どさりと鈍い音がした
誰かが荷物を落としたのだろうか
ちがう
そこら中の空気が重くなる
「救急車を」
取り繕った声が不安をかきたてる
群がる人の間に私が見たのは
たくさんの手に押さえつけられた物体だった
「タオルを」
「わりばし」
「棒みたいなものは」
手と手と手の間に
手が見える
足?
頭
口だ、と思う
口に押し込まれるタオル
父だった
父をみんなが押さえつけている
「救急車は?」
「呼びました」
そうだ、救急車だ
私は道路に向かって駆け出す
静かな町の道路には
車1台通っていない
流れる川が、横たわる
静かに、静かに、横たわる
「あなたぁ!あなたぁ!」
母の叫ぶ声が、私の何もかもにつきささる
私は足元の石を拾った
道路に向かって投げつける
何度も拾って、投げた
やがて、サイレンの音
父は、現地の病院に3日いただけでもどってきた
原因不明
日射病だろうと誰もが言った
私、死ぬかもしれない
ふと、そんな思いがした
言いようのない不安が私をつかんではなそうとしない
これはずっとつづく
そんな気がした
この不安は、きっと私を殺すだろう
秋から冬
冬から春
「死ぬなよ」
彼の言葉をくりかえし、つぶやく
くりかえし
くりかえし




