彼
「俺のボールペン知らない?」
中学2年の春
彼は私の隣の席にいた
「知らない」
彼は、私のペンケースを指す
開けると彼のボールペン
驚く私を見て、大喜びする彼がいる
次の時間
私は彼に訊ねる
「私のシャーペンとボールペンと
消しゴム知らない?」
「知ってる」
「どこにあるの?」
得意げに彼が自分のペンケースを開く
そんなところに入れるはずないし
「本当に知ってるの?」
「知ってる」
自信たっぷりに自分の鞄を探る彼
そんなに私は甘くない
「やっぱり、知らなかった」
と、彼が言う
私は笑って、彼の制服のポケットを指した
次の日
体操着姿の彼が私をつつく
「俺の制服知らない?」
私は、自分の机と鞄を目で探りながら答える
「知らない」
彼はあっさり教室を出て行く
変な人
教科書を置きに行った
ロッカーの前で
私はすわりこんで笑った
彼の制服が詰め込まれていたから
リップクリームを色つきに変えただけで
街中が私の唇を見ている気がした
そんな頃に
私は、彼が一番好きだった
彼が風邪で休んだ日、その1日の長さ
次の日、彼が教室に入って来たときの胸の痛さ
それは
今でも
私をあの頃に連れて行く
彼を思い出すとき
2つの顔が浮かぶ
笑顔と
寂しそうで悲しそうな横顔
彼の横顔は
私を落ち着かせた
周りの誰にもない深い瞳が
私を安心させる
何かを隠している瞳
「死ぬなよ」
秋の午後
太陽のぬるま湯が窓に残る教室で
彼が言った
私は笑う
それが
「あいしてる」
に
聞こえたから
彼の両親が離婚していることを知ったのは
その言葉から
少し後だった
誰よりも良く笑う彼が
誰よりも人を笑わせる彼が
誰よりも大人びた表情を見せる意味
学校へ向かう時
帰る時
私は彼と彼の心を思う
悲しいのかしら
寂しいのかしら
それとも
彼の笑顔を思い出す
どうして
彼は笑うんだろう
強いのかしら
弱いのかしら
私は
強い?
弱い?
悲しい?
そして
ついこの間
終わったばかりの夏に
身震いする
真っ赤に焼けた線路のある
小さな町のことを
誰かに話すとき
私は泣くのだろうか




