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孤独の真空〜天才サッカー少年の成長譚〜  作者: ソラリオン
第1章 レガルテ横浜U-15編

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第17話 全日本U-15サッカー選手権大会ー終結



 全国大会は、怒涛の勢いでその日程を消化していった。


 一回戦で七対〇という圧勝を飾った僕たちは、続く二回戦、準々決勝、準決勝と、全国各地から集まった強豪クラブを次々と破っていった。


 その中には、全国大会の常連として知られる名門もあった。


 僕たちと同じように、Jクラブの下部組織として長い時間をかけて育成されてきたチームもあった。


 どの試合も、一回戦のように簡単なものではなかった。


 一点差で終わった試合もある。


 後半終了間際まで同点だった試合もある。


 相手の守備に苦しめられ、何度もボールを失った。


 自分の判断が遅れて、味方の動きを止めてしまったこともあった。


 それでも、試合を重ねるたびに、僕の中にある銀色の線は少しずつ鮮明になっていった。


 銀雪の道。


 相手の身体の向き。


 重心。


 視線。


 守備の距離。


 その一つひとつを見る。


 そして、味方の特徴を重ねる。


 どこへ走るのか。


 どの足で受けるのか。


 どのタイミングなら身体を開けるのか。


 その選手が一番自然に力を出せる場所はどこなのか。


 それを考えながら、道を作る。


 あの一回戦で初めて見えた銀色の線は、試合を重ねるほど少しずつ形を変えていった。


 太陽くんへ伸びる道。


 陸へ伸びる道。


 剛の守備から生まれる道。


 相手によって。


 味方によって。


 そして、その日の状態によって。


 同じ形の道は一つもなかった。


 けれど、真空の道が消えたわけではない。


 今でも、僕の中にはあの道がある。


 相手が予想していない動きをしても。


 こちらが想定していた場所から外れても。


 その先に残る可能性を、僕だけが感じ取る。


 それは誰とも共有できない。


 どれだけチームメイトを知っても。


 どれだけ長く一緒にプレーしても。


 真空の道そのものを、彼らが同じように見ることはない。


 だから、孤独だった。


 その孤独だけは、今も変わらない。


 ただ、僕にはもう一つの道ができていた。


 銀雪の道。


 僕が見つけた道の先に、誰かがいる。


 太陽くんが走る。


 陸が駆け上がる。


 剛が守備から前へ出る。


 それぞれの身体と能力に合わせて、道の形が変わる。


 そのたびに、僕の中へ新しい感覚が積み重なっていった。


 全国大会が進むにつれて、僕のプレーも少しずつ変わっていった。


 アシスト数。


 キーパス。


 スルーパスの成功率。


 決定機へ繋がったパスの数。


 大会の記録を見れば、僕の名前は上位に並ぶようになっていた。


 でも、数字を見ても、自分が特別になったという感覚はなかった。


 あの場面は、もう少し早く出せた。


 あのパスは、もう半歩だけ味方の前へ置けた。


 あそこでは相手のボランチの重心まで見切れていなかった。


 そういう失敗の方が、僕の中には残った。


 全国の強豪を倒しても。


 数字が上がっても。


 まだ足りない。


 その感覚は消えなかった。


 あの日から。


 炎の記憶も、完全に消えたわけではない。


 家族という言葉を聞けば、胸の奥に冷たいものが沈む。


 大勢の人が集まる場所に立てば、あの日の空気を思い出すこともある。


 それでも、ピッチに立った瞬間だけは、その感覚が遠くへ沈んでいった。


 炎そのものが消えたわけではない。


 痛みがなくなったわけでもない。


 ただ、僕はそこから離れるために、サッカーへ集中した。


 ボール。


 相手。


 味方。


 空間。


 それだけを追う。


 そして。


 勝つ。


 勝ち続ける。


 それしか、今の僕にはなかった。


 父さんと母さんと交わした約束。


 ワールドカップで優勝する。


 そのためには、まだ何も足りない。


 全国大会で優勝したくらいでは。


 まだ遠い。


 そう思っていた。


 そして僕たちは。


 ついに、全国の頂点を決める最後の試合へたどり着いた。


 決勝戦。


◇


 決勝の日。


 ロッカールームへ向かう通路は、いつもより狭く感じた。


 スタジアムの歓声が、壁の向こうから低く響いている。


 何万人もの声が重なって、地面そのものが揺れているようだった。


 前を歩いていた剛が、ふと足を止めた。


 「……デカいな」


 僕は前を見る。


 その先には、決勝戦の舞台へ続く通路が伸びている。


 「それに、雰囲気がこれまでの相手と全然違う」


 剛が低く呟いた。


 太陽くんも、その横で黙っている。


 陸も何も言わない。


 みんな、少しだけ身体が硬い。


 決勝の相手。


 帝都学園ジュニアユース。


 西の絶対王者を準決勝で破って勝ち上がってきた、東の絶対王者。


 全国でも、その名前を知らない人はいない。


 選手たちの身体つきも、これまでの相手とは違っていた。


 中学生とは思えないほど大きな身体。


 無駄のない立ち方。


 歩き方だけでも、厳しい試合を何度も潜り抜けてきた選手たちだと分かる。


 ただ強いだけじゃない。


 自分たちがどう戦えば勝てるのか。


 それを、全員が理解しているように見えた。


 スタジアムは超満員だった。


 歓声が重なって、大きな波のようにこちらへ押し寄せてくる。


 太陽くんが、一度だけ深く息を吸った。


 「いつも通りに行こう」


 誰に言うでもなく。


 自分自身に言い聞かせるようだった。


 「ビビるなよ」


 僕は何も言わなかった。


 スパイクのポイントを芝に軽く刺す。


 足の裏へ伝わってくる感覚を確かめる。


 硬すぎない。


 少し湿っている。


 踏み込める。


 これなら。


 いつも通りに動ける。


 通路の先から、光が見えた。


 僕たちはピッチへ出た。


 スタジアムが、一気に大きくなった。


 歓声。


 カメラ。


 巨大な電光掲示板。


 そのすべてが視界に入る。


 でも、僕の中にあったのは、いつもの静かな空白だった。


 中央へ進む。


 帝都学園の選手たちも、向こうから歩いてくる。


 目が合った。


 一人。


 また一人。


 相手の身体の向き。


 歩く速度。


 足の置き方。


 僕は無意識に見ていた。


 そして、長笛が鳴った。


 全国大会決勝戦が始まった。


◇


 最初の数分で。


 帝都学園が、これまでの相手とは違うことを思い知らされた。


 速い。


 重い。


 そして、組織として完成されている。


 前線からプレスをかけてくる。


 でも、ただ走ってくるわけじゃない。


 一人が寄せれば、その背後を別の選手が埋める。


 僕が中央へ入ろうとすれば、ボランチが半歩下がる。


 サイドへ開けば、サイドバックが内側と外側の両方を警戒する。


 少しでもトラップを浮かせれば、二人目が寄ってくる。


 僕は、ボールを受けながら周囲を見る。


 右。


 左。


 前。


 後ろ。


 どこにも完全な空間がない。


 まるで、最初から僕がどこへ出したいのか知られているようだった。


 これまでなら。


 相手の一歩目を見て、その次のスペースへボールを出せばよかった。


 でも、帝都学園は、その先まで準備している。


 僕が見つけた道の先に。


 もう一人が立っている。


 その繰り返しだった。


 僕は一度、ボールを失った。


 相手の身体がぶつかる。


 強い。


 僕は地面に倒れそうになりながら、何とか踏みとどまった。


 身体能力で押し返せるわけじゃない。


 僕は元々、そこまで強いわけじゃない。


 だから、身体で勝負しない。


 相手がどちらへ重心を置くのかを見る。


 どこへ身体を向けるのかを見る。


 それでも、帝都学園は簡単には崩れなかった。


 前半十五分。


 相手が右サイドから攻撃を仕掛ける。


 一人。


 二人。


 三人。


 ボールが細かく繋がっていく。


 僕は中央から、その動きを見ていた。


 でも、間に合わない。


 最後のクロスが上がる。


 中央へ入ってきた相手の選手が跳ぶ。


 強烈なヘディング。


 ゴールネットが大きく揺れた。


 先制。


 スタジアムが大きく沸いた。


 僕たちのベンチからも声が飛ぶ。


 太陽くんが唇を噛む。


 陸も一度だけ拳を握った。


 僕は、深く息を吐いた。


 落ち着け。


 盤面を見る。


 帝都学園は強い。


 それは分かった。


 でも。


 完全なチームなんて存在しない。


 十一人の人間が動いている限り、必ずほんの少しだけズレる。


 身体の向き。


 重心。


 一歩の遅れ。


 視線の切り替え。


 ボールを奪った直後。


 攻撃へ移る瞬間。


 そこに。


 何かがある。


 僕は、それを探した。


 前半は、そのまま帝都学園の強さを受け続けた。


 僕たちは何度か攻撃を作った。


 でも、最後のところで止められる。


 パスを出す。


 相手が潰す。


 もう一度作り直す。


 それでも。


 なかなか崩れない。


 前半終了。


 スコアは〇対一。


 僕たちは一点を追いかけることになった。


◇


 ハーフタイム。


 ロッカールームへ戻る。


 誰も大声を出さなかった。


 これまでの試合なら、太陽くんが何か言っていたかもしれない。


 でも、今は違う。


 みんな。


 帝都学園の強さを理解していた。


 神谷監督が全員を見る。


 その声は、いつも通り落ち着いていた。


 「慌てるな」


 それだけを言った。


 「一点だ」


 僕は、前半の映像を頭の中で繰り返す。


 帝都学園は、ほとんど隙がない。


 でも。


 ゼロではない。


 右のボランチがボールを奪う時。


 身体が少し前へ流れる。


 その瞬間。


 後ろのセンターバックが一歩だけ内側へ寄る。


 その間。


 サイドバックも中央を見る。


 ほんの一瞬。


 守備の意識が同じ方向へ集まる。


 それは、誰か一人がミスをしたわけじゃない。


 むしろ。


 全員が正しい判断をしているからこそ、同じ方向へ動いてしまう。


 その結果。


 別の場所がわずかに空く。


 僕は、その場所を思い浮かべた。


 まだ、銀色にはなっていない。


 ただの可能性。


 その程度だった。


 後半。


 僕は、そこへ何度も目を向けることにした。


◇


 後半開始。


 太陽くんが前線へ入る。


 剛もピッチにいる。


 陸も左サイドを走っている。


 僕は中央から相手を見る。


 帝都学園は、前半とほとんど変わらない。


 プレス。


 距離。


 守備の連動。


 どれも速い。


 でも、その一瞬を待った。


 相手がボールを奪う。


 ボランチが前へ出る。


 その身体が前傾する。


 足が出る。


 その瞬間、僕の視界の中で。


 芝の上に銀色の線が伸びた。


 細い。


 透き通っている。


 まるで、夜の雪が光を受けて銀色に輝くようだった。


 相手CBとSBの間。


 ほんのわずかな距離。


 でも、そこには確かに歪みがある。


 相手の守備のリズムが、一瞬だけ崩れた。


 その先に。


 太陽くんがいる。


 後半開始から前線で何度も裏を狙っていた。


 身体の向き。


 走り出す角度。


 最初の一歩。


 右足で受けるための位置。


 全部が見える。


 相手の歪みと、太陽くんの動きが一本の道になった。


 銀雪の道。


 僕は、迷わなかった。


 右足を振る。


 ボールが低く滑っていく。


 相手のプレスの間を抜ける。


 CBとSBの間を通る。


 太陽くんへ向かって、まっすぐに伸びていく。


 「湊ぉっ!」


 太陽くんが走る。


 ボールが足元へ入る。


 ファーストタッチ。


 相手GKが飛び出してくる。


 太陽くんは、ボールを少しだけ外へ置いた。


 GKの横を抜ける。


 無人のゴール。


 流し込む。


 ネットが揺れた。


 同点。


 太陽くんが振り返った。


 「よっしゃあああ!」


 僕のところまで走ってくる。


 強く肩を叩かれた。


 「湊!」


 僕は、ただ頷いた。


 胸の中に熱はなかった。


 でも。


 今の一本は。


 確かに銀雪の道だった。


 相手の守備。


 太陽くんの特徴。


 その二つが、初めて完全に繋がった気がした。


◇


 同点になっても、帝都学園は慌てなかった。


 すぐに形を立て直す。


 僕へのマークがさらに厳しくなる。


 二人。


 三人。


 ボールを受ける瞬間には、もう距離を詰められている。


 僕は走った。


 ボールを持っていなくても動く。


 中央から少し外へ。


 また中へ。


 一度下がる。


 そして。


 相手を連れていく。


 僕が動けば、相手も動く。


 その結果、味方が少しだけ自由になる。


 だから、今はボールを触れなくてもいい。


 僕が動くことで、誰かの道ができるなら、それでいい。


 太陽くんが裏へ抜ける。


 陸が外から上がる。


 剛が後ろで守備を整える。


 少しずつ。


 僕たちの形が変わっていく。


 でも。


 帝都学園も、それに合わせてくる。


 完全に崩れることはない。


 時間だけが過ぎていく。


 後半二十五分。


 二十八分。


 三十二分。


 スコアは一対一のまま。


 僕は走り続けた。


 身体は重い。


 呼吸も荒くなっている。


 それでも。


 頭だけは動かす。


 相手の右のボランチ。


 さっきから、僕を追っている。


 前半より少しだけ呼吸が乱れている。


 戻る時、一瞬だけ歩く。


 その時、重心が後ろへ残る。


 僕は、その動きを何度か見た。


 そして、後半三十五分。


 一度、わざと減速した。


 相手のボランチが、僕も止まったと思ったのか、ほんの少しだけ速度を緩める。


 僕は、その瞬間に前へ出た。


 一歩。


 二歩。


 身体を抜く。


 相手の足が届かない。


 そのまま前へ進む。


 世界が少しだけ遅くなったように感じた。


 視界が広がる。


 相手の守備。


 味方の位置。


 ゴールまでの距離。


 全部が静かに並んでいく。


 そして。


 銀色の線が、ゴールへ向かって伸びた。


 今までより、はっきりと。


 長く。


 まっすぐに。


 綺麗だった。


 ペナルティエリアの少し外。


 僕へボールが入る。


 トラップ。


 足元へ置く。


 相手が寄せてくる。


 でも。


 もう遅い。


 ボールを一度だけ前へ出す。


 身体を開く。


 左足を振る。


 銀雪の道に沿って、ボールが飛んだ。


 低く。


 鋭く。


 ゴールの隅へ。


 数秒後。


 ネットが揺れた。


 逆転。


 二対一。


 スタジアムが大きく揺れる。


 僕はゴールを見た。


 銀色の道は、まだ残っている。


 でも。


 胸の奥は静かなままだった。


 勝たなければ。


 それだけだった。


◇


 残り時間。


 帝都学園は、さらに前へ出てきた。


 追いつかなければ終わる。


 その焦りが、少しずつ守備の形を変えていく。


 でも、僕たちはそれを受け止める。


 剛が中央で相手を止める。


 身体をぶつける。


 競り合いに勝つ。


 ボールがこぼれる。


 陸が拾う。


 太陽くんが走る。


 僕は中央へ戻る。


 時計を見る。


 まだ終わらない。


 アディショナルタイム。


 帝都学園最後の攻撃。


 人数をかけてくる。


 クロス。


 剛が跳ぶ。


 強く頭で弾く。


 ボールが大きく前へ飛んだ。


 僕は、その落下地点へ向かった。


 相手選手も追ってくる。


 でも、僕の方が先に触れる。


 トラップ。


 前を向く。


 残っている味方を見る。


 左。


 陸。


 その少し前。


 相手の右サイドバックが中央へ寄っている。


 陸は外へ開いている。


 そして。


 その先に、銀雪の道が見えた。


 僕は走りながら、ボールを蹴った。


 高すぎない。


 低すぎない。


 陸が走りながら、そのまま次の動作へ移れる高さ。


 ボールが銀色の線をなぞるように飛んでいく。


 陸が追いつく。


 右足で受ける。


 一歩。


 二歩。


 そのままペナルティエリアへ入る。


 相手GKが前へ出る。


 陸は、中央を見る。


 でも、中央へは誰もいない。


 なら、自分で終わらせる。


 陸がシュートを打った。


 ゴール。


 三対一。


 その瞬間、長い笛が鳴った。


 ピィーッ。


 ピィーッ。


 ピィーーーッ。


 試合終了。


 スタジアムが揺れる。


 大きな歓声が降ってくる。


 三対一


 勝った。


 全国優勝だった。


◇


 ベンチから、選手たちが一斉にピッチへ飛び出してくる。


 太陽くんが走ってくる。


 陸もいる。


 剛もいる。


 みんな声を上げている。


 誰かが泣いている。


 誰かが笑っている。


 太陽くんが僕に飛びついた。


 「勝ったぞ、湊!」


 僕は身体を支えながら、頷いた。


 「うん」


 剛も僕の肩を叩いた。


 「やったな、湊!」


 「うん」


 陸も少しだけ笑っている。


 スタンドからは、割れんばかりの拍手が降ってくる。


 巨大な掲示板に、優勝の文字が映し出される。


 トロフィーが運ばれてくる。


 チームメイトが、それを囲む。


 僕は少し離れたところから、その光景を見ていた。


 全国優勝。


 日本の中学生年代で。


 僕たちは、一番上まで来た。


 父さん。


 母さん。


 僕は、心の中で二人を呼んだ。


 約束に。


 少しだけ近づいた。


 でも。


 まだ終わりじゃない。


 ワールドカップは、遥か先にある。


 全国優勝したからといって。


 僕が強くなったわけではない。


 今日の試合でも。


 失敗した。


 もっと早く判断できた場面があった。


 もっと精度を上げられるパスもあった。


 まだ足りない。


 だから。


 僕はトロフィーよりも、その先を見ていた。


 胸の奥には、相変わらず冷たい空白がある。


 炎の記憶も、なくなってはいない。


 でも。


 その奥に、一つだけ残っているものがある。


 決意。


 勝ちたい。


 もっと強くなりたい。


 もっと遠くへ行きたい。


 いつか。


 二人との約束へ届くために。


 僕は、また歩かなければならない。


◇


 全国優勝から、少しの時間が過ぎた。


 季節は巡る。


 冬が終わり。


 春が来た。


 レガルテ横浜で迎える、二度目の春。


 僕は十四歳になっていた。


 新しく支給された練習着に袖を通す。


 いつものジュニアユースの練習場ではない。


 少しだけ広いピッチ。


 高いフェンス。


 遠くから聞こえる、大きな声。


 僕は、そのグラウンドの入口に立っていた。


 そこにいる選手たちは、僕より大きかった。


 身長も。


 身体の厚みも。


 足の長さも。


 僕とは違う。


 高校生年代。


 レガルテ横浜U-18。


 ここが、今日から僕が立つ場所だった。


 全国大会でのプレー。


 銀雪の道。


 これまでの練習。


 そうしたものを評価され、僕は中学二年生でU-18へ飛び級することになった。


 ピッチへ入る。


 高校生の選手たちが、こちらを見る。


 何人かは、少し驚いたような顔をしている。


 当然だと思う。


 十四歳の中学生が、高校生年代の練習に入る。


 身体の差は大きい。


 フィジカルも。


 スピードも。


 判断の速さも。


 これまでとは違う。


 僕は、その一つひとつを見た。


 誰が速いのか。


 誰が身体を強く当てるのか。


 誰がどの場所を好むのか。


 誰がどの足を使うのか。


 また。


 最初からだ。


 ノートを開く。


 新しいページ。


 まだ何も書かれていない。


 僕はペンを持った。


 そして、周りの選手を見た。


 恐怖はなかった。


 不安がないわけではない。


 僕より強い選手は、いくらでもいる。


 今まで通用していたことが、ここでは通用しないかもしれない。


 それでも。


 僕は立っている。


 なら。


 やることは一つだった。


 知る。


 見る。


 試す。


 失敗する。


 また繰り返す。


 その先に。


 まだ見えていない道がある。


 真空の道は。


 今も僕だけのものだ。


 銀雪の道も。


 まだ完成していない。


 もっと複雑な守備。


 もっと速い判断。


 もっと強い身体。


 もっと高い技術。


 全部が必要になる。


 僕はピッチ中央へ歩いた。


 ボールが転がってくる。


 足元へ収める。


 高校生たちが動き出す。


 その瞬間、僕の視界いっぱいに新しい世界が広がった。


 今までより、大きい。


 速い。


 重い。


 僕はボールを止めた。


 そして、前を向く。


 まだ見えない。


 今は、何も。


 それでも、ここが次の場所だった。


 僕は十四歳の足で、新しい戦場へ一歩を踏み出した。





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