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48 怨恨の奥にあるのは深い愛

「スクルド。気になっていたのだけど、水の浄化って竜神の力ではできないものなの?」


『ただの浄化なら僕たちもできる。だけど、同じ竜神同士では力が反発しあってできないんだ。まぁ、できたとしても暴走している状態のヴェルザンディの方が力が上だから難しいと思うけどね』


「そうなのね」



 スクルドとウルズが、これまで浄化してこなかった理由が見えた。

 竜神という神格を持つ存在は、明らかに私より力が上なのだから、不思議に思っていたのよね。

 それにしても、竜神ヴェルザンディの力はどれくらいなのかしら?



『ふむ……兄上、イシュカが浄化の術を使えるとなると、ようやっと弟を助けることができるのでは?』


『千載一遇のチャンスかもしれないな。これも不思議な巡り合わせということか……』



 つぶやいたスクルドが私をじっと見据えた。



『イシュカ、これを最後の聖女の修行とする。ヴェルザンディを助けることを手伝ってくれないか? 浄化の術を使えば、ヴェルザンディの泉もきっと元の美しい姿に戻る。そして、憎しみという呪縛から救ってほしい』


『イシュカ、妾からもお願いしたい』


「もちろんそのつもりよ。ただ浄化の術はかなり術力を消費するから、今日みたいに力を貸してほしい」


『もちろんじゃ。妾も今回のような連携が一番良いと思うておる』


『イシュカ、頼むぞ』



 スクルドとウルズの言葉にこくりとうなづいた。



「イシュカ、俺も竜神ヴェルザンディのところへ行くよ。王族の祖先である聖女カノンを、竜神ヴェルザンディが助けてくれたから王族は存在している。今度は俺たちが助ける番だ」


「ロークがいると心強いわ。でも泉はアンデットの巣窟って言われているけど、剣でどうやって戦うの?」



 アンデッド系と戦うためには、王宮術師が操る術が一般的だ。

 剣を扱う騎士や兵士が戦うことはあまり聞いたことがない。



「実は王族の直系男子に伝わる秘術が一つだけあるんだ」


「秘術?」


「ああ。それが武器にアンデットに有効なスキルを付与する術なんだ」


「スキルを付与する術!?」



 そんな術が存在するなんて、聞いたことがないわ!

 私は目を丸くした。



『王太子はその力が操れるのか』


「スクルドは知っているのか?」


『もちろん。かつての聖女も使っていたからな。きちんと継承できていて安心したよ』


「そう言ってもらえるとうれしいよ。王宮術師団の中でも一部しか知らないんじゃないかな。ただ二年前の戦争で使ったから、もう兵士には知れ渡っていると思うけどね」


『王太子よ、戦争とはこの地方で起こった戦のことを言っておるのか?』


「ああ。俺はそこで指揮を執っていた」


『戦でアンデットが現れたというのか』



 質問をしていたウルズが片眉を上げた。



「ああ。不思議でならなかったが、戦争の終盤でアンデットが大量に発生したことがあったんだ。隣国からの攻撃かと思ったんだが、わが国の兵士を襲うだけでなく隣国の兵士も襲った。このアンデットの対応に苦慮したのが隣国で、隣国が敗走し戦争が終結する原因の一つになったんだ」


「そんなことがあったのね……」


「戦争の詳細は国民には知らされない。耳障りの良い勝利した部分だけが喧伝されるからね」


『その戦争があった場所は、もしかしてラトナじゃないのか?』


「そう、ラトナだ。やはり竜神であるスクルドには分かるものなんだな」


『いや、そうではない。ラトナは……ヴェルザンディの泉がある地域だ』



 スクルドの言葉に私とロークは目を瞠った。



「竜神の泉が戦場の近くにあったの……?」



 それはかなりまずいことなんじゃ……。

 竜神の神域で人間が戦争で荒らしたことになる。

 ロークがぐっと眉根を寄せた。

 けれども、反対にウルズがゆるく笑った。



『ふふ、弟も素直じゃないのう』


「どういうことよ、ウルズ?」


『おそらく弟はこの地を守ろうとしたのじゃろう。この地を恨んでいるくせに、戦で疲弊していくこの地を見過ごすことはできなかったのじゃ。だから腐敗した泉の力を使って、アンデットを大量発生させたんじゃろう。事実、戦が終わる要因の一つになっておるしな』


「あのアンデットを発生させたのは竜神ヴェルザンディだったのか。しかもこの地を守るために……」


「……ということは、本当はこの地を愛しているんじゃないかしら?」


『妾はそう思っておるよ』


「だったらかなり確率が上がったわね。竜神ヴェルザンディ様のもとへ行きましょう、みんなで!」


「もちろん、そこには私たちも入っているんですよね?」



 四阿で思ってもみない声が聞こえた。

 振り返るといつの間に来ていたのか、グレッグとメルヴィン様が近づいてきた。



「どうしてここに……?」


「ローク様がなかなか戻ってこられないので探しに来たんですよ。そうしたら、何やらお手伝いできそうなことを話していたので」


「あの、スクルドとウルズの声は聞こえていないはずですよね?」


「聞こえてはいませんが、大体のことは把握しましたよ」



 困惑している私に、あっさりとメルヴィン様が答える。

 隣のグレッグも静かにうなづいている。

 さすがロークの側近というべきか。話の把握が早い。



「先の戦争でオレたちもローク様と一緒に前線にいたからな。もちろんアンデットとも戦った。だから、オレたちを連れて行った方が戦力アップになると思うが」


「グレッグ、いいの?」


「確かにそうだな。お前たちの力を借りた方が危険度はぐっと下がるだろう。スクルド、ウルズ。この者たちも連れていいてもいいか?」



 グレッグとメルヴィン様の提案を思案したロークが問うた。



『僕たちはかまわないよ。アンデットがまた大量に発生する可能性があるからな。頭数が多い方が負担も減るだろう』


「二人とも、竜神たちからお許が出た。頼むな」



 はっ、と短く返事をした二人は、竜神たちに向って膝を折り、首を垂れた。

 それを見たスクルドとウルズは鷹揚にうなずいた。







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